著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:JURNAL KEKER WISATA
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
給食を「食べてもらう」ための取り組み
インドネシアでは、政府が全国の学校で無償の栄養給食プログラム「マカン・ブルギジ・グラティス(MBG)」を進めています。子どもの栄養不良を断ち切り、学習面も支えることを目指す大規模な施策です。ところが著者らによると、栄養バランスの整った弁当が届いても、子どもが食べなければその栄養は体に届きません。実際の学校では、野菜や魚のおかずが残されることが課題になっていました。
この論文は、バタム観光ポリテクニック(調理マネジメント学科)の教員と学生が、バタム市の公立小学校SDネグリ011スクパンで行った地域貢献活動の報告です。目的は、子どもたちが健康的な食べ物を理解する力(食のリテラシー)を高めること、そして野菜や魚を受け入れやすくして給食の食べ残しを減らすことでした。
事前の聞き取りや観察では、多くの児童が野菜や海の魚のおかずを残していることが分かりました。著者らは、その背景として二つの点を挙げています。一つは、こうした栄養素が健康や学びとどう関わるのかを子どもたちが理解していなかったこと。もう一つは、砂糖・塩・脂肪の多い屋台のおやつに慣れていたため、給食の揚げた魚や澄んだ野菜スープが味気なく感じられていたことです。
教室での学習と料理の実演を組み合わせる
対象は6年生です。著者らは、論理的に考える力がつき、食べ物を自分で選ぶようになる大切な時期だとしています。2026年5月11日から13日に準備と観察を行い、5月15日に教育と料理実演の本番を実施しました。
活動は四つの段階で進められました。まず教員や給食を供給する栄養充足サービス拠点(SPPG)と調整し、普段の食べ残しの様子を観察しました。次の教室での授業では、インドネシア保健省の食事指針「イシ・ピリンク(私のお皿)」を絵や図で示しました。主食・おかず・野菜・果物を一皿の中でどんな割合にするとよいかを表した指針です。あわせて、魚のたんぱく質の大切さや、不衛生なおやつの危険についても学びました。続いて質疑応答の時間を設け、児童が野菜や魚を食べるときに困っていることを話し合いました。最後に教員が料理を実演し、児童が試食しました。
実演には、論文が「機能的ガストロノミー」と呼ぶ考え方が用いられました。子どもに人気のある料理の形を借りて、地元の食材を健康的に調理するというものです。作ったのは二品です。一つは、蒸した魚のすり身にすりおろしたニンジンを混ぜ、パン粉をまとわせた手作りフィッシュナゲット。もう一つは、細かく刻んだホウレンソウなどの野菜を卵に混ぜ込んだ野菜入りスクランブルエッグです。どちらも保存料を使わず、油を控えた調理法で作られました。
効果は三つの方法で確かめました。10問の選択式クイズを授業の前後に行って知識の変化をみる方法、弁当箱に残った量を目で見て見積もる方法、そして表情の絵を選んで味・香り・食感の好みを答える試食評価です。
知識の得点と試食で報告された変化
活動前の観察では、MBG給食で野菜を残した児童が65%、給食業者の揚げた魚を残した児童が45%でした。児童からは、生臭いにおいや、くたっとした野菜の食感が苦手だという声が上がっていました。
一方、試食評価では、改良した料理を95%の児童が残さず食べきり、フィッシュナゲットの味を「とてもおいしい」と評価したと報告されています。この結果から著者らは、子どもが魚や野菜を嫌がるのは食材そのものの味のせいではないと考えています。理解の不足と、調理法の単調さが重なっていたというのが著者らの解釈です。
知識の面では、6年生の平均点が授業前の45.20点から授業後には88.60点に上がりました。論文はこれを96.02%の上昇と報告しています。
著者らは、料理が受け入れられた理由について次のように説明しています。魚は揚げすぎると生臭いにおいの成分が出やすいが、蒸してからニンジンやニンニクと合わせることでにおいを抑えつつ、中はしっとり、外はさくっとした食感にできた。ホウレンソウの苦みは、細かく刻んで卵の中に包み込むことで感じにくくなった。こうした説明は論文の考察として示されたものです。
報告から見えてくること
著者らは、食べ物を用意するだけでは子どもの食習慣は変わりにくく、知識を伝える教育と、子どもが受け入れやすい調理の工夫をあわせることが大切だと結論づけています。活動では冊子やポスターも作られ、学校で継続して使えるよう配布されました。
課題も報告されています。子どもたちはすでに屋台の濃い味に慣れていること、授業時間が限られていること、そして実演で用いた細やかな調理の工夫を、毎日大量に作る給食の現場にそのまま取り入れるのは難しいことです。
この報告は、給食を「配るもの」としてだけでなく、食について学ぶ機会としても活かそうとする試みを示しています。一つの小学校の6年生を対象とした活動ではあるものの、子どもの食べ残しという身近な問題に、教育と調理の両面から取り組んだ実践例となっています。
原著論文の著者・所属:Eva Amalia(Politeknik Pariwisata Batam)、Heri Nuryanto(Politeknik Pariwisata Batam)、Miratia Afriani(Politeknik Pariwisata Batam)、Agung Arif Gunawan(Politeknik Pariwisata Batam)、Muhammad Syauqan Rizieq(Politeknik Pariwisata Batam)、Eko Lamendri(Politeknik Pariwisata Batam)、Egi Dio Aprilian(Politeknik Pariwisata Batam)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eva Amalia, Heri Nuryanto, Miratia Afriani, et al. Strengthening Healthy Food Literacy through Education and Culinary Demonstrations of Nutrient-Dense Scrambled Eggs and Fish Nuggets. JURNAL KEKER WISATA 2026-07-31. DOI: 10.59193/jkw.v4i2.531. 原著ライセンス:CC BY.