この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Tropical Animal Science Journal
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
抗生物質に頼らない飼料添加物を探す
家畜の飼育では、病気の治療だけでなく成長促進の目的でも抗生物質が広く使われてきました。研究チームは、その使いすぎが畜産物への残留や薬剤耐性(抗生物質が効きにくい細菌が増えること)につながり、世界的な健康上の問題になっていると指摘しています。論文では、世界保健機関が2014年に薬剤耐性を世界の健康上の重大な脅威の一つに挙げ、その位置づけが約10年後も変わっていないことが紹介されています。
こうした背景から、プロバイオティクスや植物由来成分、抗菌ペプチドなど、抗生物質に代わる選択肢の研究が進んでいます。抗菌ペプチドとは、生物が体内で作るアミノ酸のつながった短い分子で、細菌などに対して働くものです。昆虫は種類が非常に多く、感染から身を守る仕組みの一部として独特の抗菌ペプチドを作るため、有望な供給源と考えられています。著者らは、なかでもコオロギがタンパク質を多く含む点に注目しました。ただし、コオロギをそのまま使うだけでは抗菌や抗酸化のはたらきが十分に発揮されず、飼料添加物としての利用は限られていると述べています。そこで本研究は、酵素でタンパク質を分解して短い断片(ペプチド)を取り出す方法に着目し、そうして作った素材がウズラの腸内細菌の構成をどう変えるかを調べることを目的としました。
何をどう調べたか
研究は二段階で行われました。第一段階では、インドネシア東ジャワ州の農家から得た生後28日のチャイロコオロギ(Gryllus sp.)を乾燥・粉末にし、96%エタノールで抽出したうえで、パパイン(パパイアに含まれるタンパク質分解酵素)を用いて、pH7・50℃で6時間かけて分解しました。できた素材をコオロギタンパク質加水分解物(CPH)と呼びます。研究チームは、タンパク質がどの程度分解されたかを示す「加水分解度」、アミノ酸の組成(高速液体クロマトグラフィーによる分析)、含まれるペプチドの種類(質量分析による同定と、ペプチドのデータベースを用いた特徴づけ)を測定しました。
第二段階では、5週齢の雌の日本ウズラ200羽を使い、基礎飼料のみの対照群と、基礎飼料に1kgあたり10gのCPHを加えた群の2つに分けて、6週間(60日間)飼育しました。各処理に5反復、1反復あたり20羽を割り当てています。飼育後、小腸の末端である回腸の内容物を採取し、16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングという手法で細菌群集を調べました。これは細菌が共通して持つ遺伝子の一部を読み取り、どんな細菌がどれだけいるかをまとめて把握する方法です。試験は大学の動物実験倫理委員会の指針に従って実施されたと報告されています。
報告された主な結果
加水分解によって素材の中身は大きく変わりました。CPHは灰分・炭水化物・タンパク質の割合が高く、脂肪の割合は低くなりました。粗タンパク質はコオロギ粉末の60.74%、抽出物の60.84%に対してCPHでは86.5%、脂肪は21.50%・20.50%に対して0.85%と報告されています。加水分解度は26.5%で、著者らはこれを中程度の分解と説明しています。アミノ酸については、抽出物とCPHで組成の傾向はほぼ同じでしたが、量はCPHで多く、合計は100gあたり42.65gから70.79gに増えていました。ペプチドの分析では、CPHから38種類のペプチドが検出され、そのうち70%が2個のアミノ酸からなるジペプチドでした。特に多かったのはバリル-リシン、アルギニル-フェニルアラニン、L-アラニル-L-トリプトファンで、著者らはこれらが陽電荷を帯びた部分と水になじみにくい部分を併せ持つことが抗菌のはたらきに関わると述べ、加水分解物の抗菌作用は単一のペプチドによるものではなく複数の成分が組み合わさった結果であることが多いと説明しています。
ウズラの回腸では、細菌の顔ぶれの違いが観察されました。細菌の種類の多さを表すChao1指数は基礎飼料群で335、CPH群で240と、対照群のほうが多様でした。一方、種類の数と量の偏りを合わせて見るシャノン指数は3.51対3.6、シンプソン指数は0.76対0.79で、CPH群のほうが特定の種に偏らず均等な分布を示しました。科のレベルでは、基礎飼料群はエンテロコッカス科が58%、ラクトバチルス科が25%を占めていたのに対し、CPH群ではラクトバチルス科が44%、エンテロコッカス科が8%となりました。CPH群ではLactobacillus aviarius、Bacillus thermolactis、Clostridium属などの有益な細菌が多く見られ、Clostridium botulinumやStreptococcus iniaeはCPHを与えた後に減少したと報告されています。主成分分析では、第1成分がデータのばらつきの75%を説明し、CPH群の細菌群集は比較的そろった構成を示したとされています。なお、微生物解析の対象となった2群を選ぶ根拠となった生産成績では、CPH群の飼料要求率が2.97±0.64、対照群が3.30±0.55で、数値の上では飼料効率が良くなる傾向がみられたと述べられていますが、著者らはこれを統計的な差ではなく傾向として報告しています。
この研究が示すこと
著者らは、コオロギのタンパク質を酵素で分解した粉末には、抗菌的にはたらき、ウズラの消化管の微生物の状態を改善しうる飼料添加物としての可能性があると結論づけています。この研究の意義は、昆虫を単にタンパク源として与えるのではなく、加水分解という一手間を加えることで成分とペプチドの構成が変わり、それが腸内細菌の顔ぶれの違いとして実際に測定できた点にあります。抗生物質に代わる選択肢を探す取り組みの中で、身近な昆虫の加工法に着目した一例として読むことができます。
著者:A. Lidiyawati(Doctoral Program of Animal Science, Faculty of Animal Science and Technology, Brawijaya University)、S. Suyadi(Faculty of Animal Science and Technology, Brawijaya University)、E. Widodo(Faculty of Animal Science and Technology, Brawijaya University)、M.H. Natsir(Faculty of Animal Science and Technology, Brawijaya University)、K. Kasri(Doctoral Program of Nutrition and Feed Technology, Faculty of Animal Science, IPB University)、O. Sjofjan(Faculty of Animal Science and Technology, Brawijaya University)、M. Rifa’i、K.U. Al Awwaly(Faculty of Animal Science and Technology, Brawijaya University)、M. Lamid(Department of Animal Husbandry, Faculty of Veterinary Medicine, Universitas Airlangga)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):A. Lidiyawati, S. Suyadi, E. Widodo, M.H. Natsir, K. Kasri, O. Sjofjan, M. Rifa’i, K.U. Al Awwaly, M. Lamid Amino Acid Composition and Bioactive Peptides of Cricket Protein Hydrolysate and Its Effect on the Ileal Microbiome in Quail. Tropical Animal Science Journal 2026-09-01. DOI: 10.5398/tasj.2026.49.6.573. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。