著者の所属・活動拠点の国は、タイです。
掲載誌:Applied Food Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
昆虫食は環境負荷の低いタンパク質源として近年注目されていますが、そのまま食べることへの抵抗感が普及の壁になっています。そこで一つの工夫として考えられているのが、昆虫のタンパク質を粉末や加水分解物といった『見えにくい形』に加工し、身近な食品に混ぜ込む方法です。今回紹介する研究は、フタホシコオロギの近縁種であるヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)の脱脂粉末からタンパク質加水分解物を作り、それをチョコレートアイスクリームに加えたときに製品の質や食べた人の評価がどう変わるかを調べたものです。
コオロギタンパク質を『分解』して使いやすくする
研究チームはまず、脱脂したコオロギ粉末に酵素(アルカラーゼ)を作用させてタンパク質を分解し、コオロギタンパク質加水分解物(CPH)を作りました。分解の進み具合を示す加水分解度は50.49±0.17%でした。この加水分解物は、もとの脱脂コオロギ粉末と比べて粗タンパク質含量が高く(77.85±1.26% 対 66.14±1.56%)、中性(pH7.0)での溶けやすさも大きく向上していました(67.80±3.26% 対 6.63±0.63%)。さらに、泡立ちやすさや乳化のしやすさ、DPPH法で測定した抗酸化活性についても、加水分解物のほうが優れた値を示したと報告されています。酵素処理によってタンパク質が扱いやすい形に変化したことがうかがえます。
アイスクリームに加えると何が起こるか
次に、このCPHをチョコレートアイスクリームの配合基準ミックスに対して0、3、6、9g/100gの割合で加えた4種類の試作品(CPH0〜CPH9)を作り、品質と官能評価を比較しました。CPHの添加量が増えるほど、ミックスの見かけ粘度は高くなり、撹拌時に取り込まれる空気の割合を示すオーバーランは8.74±0.54%から35.63±2.62%まで上昇し、溶けたときの液だれ(累積ドリップ量)は少なくなる傾向が見られました。栄養面では、CPH0からCPH9にかけて粗タンパク質含量が5.33±0.61%から11.04±1.01%へ、灰分が1.11±0.02%から1.78±0.71%へ、DPPH抗酸化活性が1.07±0.01から8.66±0.12mgトロロックス当量/gへとそれぞれ増加したことが確認されています。
一方で、食べた人の総合的な好ましさの評価では、CPHを3g加えたCPH3は無添加のCPH0と統計的に差のない評価(7.30±1.58 対 8.02±0.93)を保っていましたが、6gや9gを加えたCPH6・CPH9では評価が明確に低下し(4.57±2.41、4.74±2.50)、コオロギ由来の風味や塩味、苦味がより強く感じられたとされています。これらの結果から、著者らはCPH3(3g/100g)がタンパク質強化・製品品質・官能的な好ましさのバランスとして最も好ましい配合であったとまとめています。
この研究をどう読むか
この研究は、著者らが所属するタイの大学の研究チームによる一つの実験結果であり、特定の配合や製法条件のもとで得られたデータです。使用したコオロギの種類や加水分解に用いた酵素、アイスクリームの配合など条件が変われば結果も変わりうるため、ここで示された数値がそのままあらゆるコオロギタンパク質製品やアイスクリームに当てはまるとは限りません。また、健康への効果を直接評価した研究ではなく、あくまで製品の物理的性質や官能評価に関する結果である点にも注意が必要です。
今回の記事では日本の研究機関や日本の食習慣への直接的な言及は原文中に見当たりませんでしたが、昆虫食由来のタンパク質を既存の食品に低濃度で組み込むという考え方は、代替タンパク質への関心が高まる中で今後さまざまな食品分野に応用されうるアプローチとして参考になるかもしれません。
まとめ
コオロギ由来のタンパク質加水分解物は、酵素処理によって溶けやすさや泡立ちやすさが高まり、アイスクリームに加えることでタンパク質や抗酸化活性を増やせる可能性が示されました。ただし添加量が多くなるとコオロギ特有の風味が強まり、消費者の評価が下がることも確認されており、この研究では3g/100gという控えめな添加量が品質と受容性のバランスとして良好だったと報告されています。これは一つの研究による知見であり、今後さらに検討が重ねられていく分野といえます。
原著論文の著者・所属:Phantipha Charoenthaikij(Department of Product Innovation and Business, Faculty of Agricultural Product Innovation and Technology, Srinakharinwirot University, Nakhon Nayok, 26120, Thailand)、Sirichat Chanadang(Department of Product Innovation and Business, Faculty of Agricultural Product Innovation and Technology, Srinakharinwirot University, Nakhon Nayok, 26120, Thailand)、Sukanya Mingyai(Department of Product Innovation and Business, Faculty of Agricultural Product Innovation and Technology, Srinakharinwirot University, Nakhon Nayok, 26120, Thailand)、Teerarat Itthisoponkul(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Agricultural Product Innovation and Technology, Srinakharinwirot University, Nakhon Nayok, 26120, Thailand)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Phantipha Charoenthaikij, Sirichat Chanadang, Sukanya Mingyai, et al. Physicochemical and functional characterization of cricket protein hydrolysate and its application in chocolate ice cream: quality attributes and consumer acceptance. 応用食品研究誌 (2026). DOI: 10.1016/j.afres.2026.102496. 原著ライセンス: cc-by.