この研究は、イランの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Veterinary Medicine and Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
家禽の飼料設計は、かつてのように粗タンパク質の総量だけを指標とする方法から、アミノ酸のバランスを重視する方法へと移ってきました。その中で基準となるのがリジンというアミノ酸です。リジンはタンパク質を組み立てる材料であり、トウモロコシと大豆粕を主体とする一般的な家禽飼料では供給が不足しやすいアミノ酸のひとつとされています。
研究チームは、ニホンウズラ(Coturnix japonica)の孵化直後から14日齢までの「初期成長期」に注目しました。この時期は体の発達が最も激しく、栄養状態が後の成長にも影響する重要な段階です。しかし著者らによれば、ニホンウズラのリジン必要量についての既存の推定値は初期成長期で1.20〜1.40%と幅があり、研究方法や系統の違いによってばらついていました。また、数十年前に定められた基準が、成長が速くなるよう改良された現代の系統に合っているかどうかも問われています。
そこで研究チームは、(1)タンパク質水準を3段階に変えたうえで0〜14日齢のリジン必要量を求めること、(2)タンパク質とリジンが互いに影響し合うかを調べること、(3)必要量を推定する2つの統計モデルを比べることを目的としました。
何をどう調べたか
著者らは孵化当日のウズラのひな900羽を用い、1区画10羽ずつ90区画に分けて、温度や湿度を管理した室内で14日間飼育しました。飼料は、粗タンパク質を22%・24%・26%の3段階、リジンを飼料中0.95%・1.10%・1.25%・1.40%・1.55%の5段階に組み合わせた15種類を用意しました。リジン以外の必須アミノ酸は、リジンに対する比率を一定に保つよう調整されています。これは「理想タンパク質」と呼ばれる考え方で、不足するアミノ酸を特定しやすくするための設計です。
測定したのは体重、飼料摂取量、飼料要求率(体重1単位増やすのに必要な飼料量で、小さいほど効率が良い)、タンパク質効率(摂取したタンパク質あたりの体重増加)です。14日齢には一部の個体について、と体歩留まりや胸肉・もも肉の割合も調べました。
必要量の推定には「折れ線回帰」という手法が用いられました。これは、栄養素を増やすと反応が伸びていき、必要量に達したところで横ばいになる、という折れ目の位置を統計的に探す方法です。著者らは折れ目の手前を直線で表すモデルと二次曲線で表すモデルの両方を当てはめ、どちらがデータによく合うかを比較しました。
主な報告結果
粗タンパク質を22%から26%へ高めると、14日齢の体重と体重増加量が増えた一方、飼料摂取量は逆に減ったと報告されています。リジンについては、増やすにつれて成績が向上するものの、1.40%で体重・体重増加量・タンパク質効率が最も高くなり、1.55%まで増やすとかえって下がりました。著者らはこれを、リジンを過剰に与えるとアミノ酸のバランスが崩れ、余分なリジンを分解する代謝の負担が増えるためと解釈しています。
タンパク質とリジンの間には相互作用が認められました。タンパク質が低い22%の飼料ではリジンを1.40%まで増やすほど成績が改善した一方、24%や26%の飼料では1.25%を超えても改善はわずかでした。つまり必要なリジン量は一定ではなく、飼料全体のタンパク質水準によって変わるというのが著者らの解釈です。と体や胸肉の割合はタンパク質24%で最も高く、26%では下がりました。胸肉の割合はリジンの影響を特に受けやすく、0.95%の29.6%から1.25%の32.0%へ増えた後、横ばいになったと報告されています。
折れ線回帰による推定では、直線型のモデルのほうが二次曲線型より当てはまりが良く、二次曲線型は一貫して高めの値を出しました。著者らはこれを過剰な当てはめによるものと見ています。体重増加を指標とした必要量は飼料中1.32〜1.42%の範囲で、24%タンパク質のときに最も低く、22%と26%のときに高くなりました。これらは従来の推奨値より高めですが、現代の系統を用いた近年の研究とは整合すると著者らは述べています。
この研究が示すこと
この研究が伝えているのは、アミノ酸の必要量を単独の数字として扱うのでは足りない、ということです。同じリジンでも、飼料のタンパク質がどれだけあるか、何を目標にするか(成長量か飼料効率か)によって、適切な量は変わります。文献の推定値がばらついてきた背景にも、研究ごとの基礎飼料のタンパク質水準の違いがあるのではないかと著者らは指摘しています。
また、多く与えれば良いわけではないという点も明確に示されました。1.55%で成績が下がったことは、過剰供給が生産性にも窒素排出の面でも望ましくないことを示唆しています。推定に用いるモデルの選び方が結論を左右するという指摘も、栄養基準をどう読むかを考えるうえでの論点となります。
なお著者らは、本研究が環境を管理した条件下での0〜14日齢に限られており、商業的な飼育環境での検証や他の成長段階についての検討が残されていることを限界として挙げています。
著者:Hamid Valizadeh(Department of Animal Science Faculty of Agriculture and Natural Resources Ta.C. Islamic Azad University Tabriz Iran)、Mehdi Taghinejad-Roudbaneh(Department of Animal Science Faculty of Agriculture and Natural Resources Ta.C. Islamic Azad University Tabriz Iran)、Ruhollah Kianfar(Department of Animal Science Faculty of Agriculture University of Tabriz Tabriz Iran)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hamid Valizadeh, Mehdi Taghinejad-Roudbaneh, Ruhollah Kianfar. Lysine Requirements in Starter‐Phase Japanese Quail ( Coturnix japonica ) Through Dose–Response Modelling: Interactions With Dietary Protein Level. Veterinary Medicine and Science 2026-09-29. DOI: 10.1002/vms3.71142. 原著ライセンス:CC BY.