この研究は、メキシコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

炭水化物の多い食品を食べたあと、血糖値がどのくらい上がりやすいかを示す指標に「血糖指数(GI)」があります。研究チームは、この指数がでんぷんの量だけで決まるのではなく、食品の中でさまざまな成分がどう組み合わさっているか、いわゆる「フードマトリクス(食品の構造・組成の全体)」に左右される点に注目しました。食物繊維やポリフェノール、脂質、たんぱく質などが、消化酵素とでんぷんの接触を妨げたり、でんぷんと結びついたりすることで、消化のスピードが変わると考えられているためです。

ポップコーンは、外皮(果皮)や胚芽を残したまま食べる全粒の間食として知られていますが、品種(ハイブリッド)ごとの組成の違いや、噛んだときに生じる粒の粗さの違いが血糖応答とどう関わるのかは、これまでよく分かっていませんでした。そこで著者らは、黄色種のポップコーン用トウモロコシ(Zea mays var. 'Everta')5種類の交配種と市販品1点を対象に、食物繊維・フェノール化合物・植物ステロール・抗酸化活性を調べ、試験管内での血糖応答との関係を探ることを目的としました。

何をどう調べたか

研究では、メキシコの国立機関INIFAPの試験圃場で2024年に育成された黄色ポップコーン交配種5系統と、対照として市販のポップコーン1点を使いました。熱風式のポッパーで膨化させたあと粉砕し、425マイクロメートルのふるいでふるい分けて、ふるいに残った「粗い画分」と通り抜けた「細かい画分」に分けています。粗い画分には外皮の割合が多く、細かい画分には胚乳由来の成分が多く含まれるため、同じポップコーンでも粒の大きさによって組成が異なります。ポップさせる前の生の粒についても同様に分析し、加熱膨化による変化を比べました。

血糖応答は、人が食べる代わりに試験管内で消化を再現する方法で評価しました。胃液に相当するペプシン、次いででんぷんを分解するα-アミラーゼとアミログルコシダーゼを加え、3時間にわたって一定時間ごとに放出されるブドウ糖を測定します。白パンを基準食として比較し、そこから算出した値を「推定血糖指数(eGI)」と呼んでいます。あくまで実験室での推定値であり、人が食べた場合の測定値ではありません。

組成の分析には、食物繊維を水に溶ける「可溶性」と溶けない「不溶性」に分けて定量する方法、フェノール化合物と植物ステロールを分離・定量する液体クロマトグラフィー、そしてABTS法とDPPH法という2種類の抗酸化活性測定が用いられました。フェノール化合物は、遊離した状態のものと、細胞壁に結合した状態のものを分けて抽出しています。さらに、多数の成分データをまとめて眺めるために主成分分析などの多変量解析も行われました。

報告された主な結果

推定血糖指数については、5つの交配種すべてが低GIの目安とされる55未満に収まったのに対し、市販の対照品は中程度(56〜69)の範囲に入ったと報告されています。なかでも交配種2、4、5で低い値が得られました。全系統を同じ条件で膨化させているため、著者らはこの差が加熱方法よりも品種ごとの組成や構造の違いを反映していると考えています。

食物繊維の総量は試料全体で11.7%から27.4%の範囲にあり、最も多かったのは交配種3でした。ところが最も低い推定血糖指数を示したのは、可溶性食物繊維が最も多かった交配種2で、食物繊維が最も少なかった交配種5もやはり低い値でした。著者らは、血糖応答が食物繊維の総量だけでは説明できず、その性質や組成、ほかの成分との組み合わせが関わっている可能性を指摘しています。ただし、この研究ででんぷんと各成分の相互作用そのものを直接測ったわけではないため、これらは考えられる寄与要因として示されたものであり、因果関係が確かめられたわけではありません。

フェノール化合物では、細胞壁に結合した形のものが遊離型より多く、なかでもフェルラ酸とその二量体が主要な成分でした。生の粒では結合型フェノールが粗い画分に集まっていましたが、膨化させると細かい画分へと大きく移り変わりました。これは膨らむ際に外皮の細胞壁が壊れ、壁に結びついていた成分が細かい粒子側へ再配分されたためと説明されています。一方、遊離型の単量体フェノール酸は膨化によって大きく減少しました。また著者らは、これまでこの種の試料では報告されていなかったヒドロキシケイ皮酸アミド類(プトレシン結合体)を検出し、交配種が市販の対照品と比べてこれらをより幅広く保持していることが、多変量解析で対照品と交配種を分ける主な指標になったと述べています。

植物ステロールについては、β-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールが定量され、細かい画分のほうが多い傾向がみられました。膨化後の試料で濃度が高くなった点について、著者らは膨化に伴う水分の減少によって水以外の成分が相対的に濃縮された影響がありうるとし、総量が増えた証拠と解釈すべきではないと注意を促しています。抗酸化活性は、遊離型より結合型フェノールのほうが高く、フェノール成分の分布と一致する傾向が示されました。

この研究が示すこと

この研究は、同じ黄色ポップコーンでも品種によって食物繊維やフェノール化合物、植物ステロールの量と分布が異なり、それが試験管内で推定された血糖応答の違いと結びついて現れることを示しました。また、粒の粗さによって成分の偏りが変わること、膨化という加熱処理そのものが成分の分布を作り替えることも明らかにしています。

食品を単一の栄養素の足し算としてではなく、成分どうしの配置や結びつきを含めた全体として捉える見方の手がかりとなる報告であり、著者らはこうした情報が穀物の育種に携わる人にとって特に有用だと述べています。

著者:González-Nimi ED(Tecnologico de Monterrey, School of Engineering and Sciences, Av. Eugenio Garza Sada 2501, Monterrey 64849, Nuevo León, Mexico.)、Gutiérrez-Uribe JA(Tecnologico de Monterrey, School of Engineering and Sciences, Av. Eugenio Garza Sada 2501, Monterrey 64849, Nuevo León, Mexico.)、Vázquez-Rodríguez B(Tecnologico de Monterrey, School of Engineering and Sciences, Av. Eugenio Garza Sada 2501, Monterrey 64849, Nuevo León, Mexico.; Tecnologico de Monterrey, Institute for Obesity Research, Av. Eugenio Garza Sada 2501, Monterrey 64849, Nuevo León, Mexico.)、Antunes-Ricardo M(Tecnologico de Monterrey, School of Engineering and Sciences, Av. Eugenio Garza Sada 2501, Monterrey 64849, Nuevo León, Mexico.; Tecnologico de Monterrey, Institute for Obesity Research, Av. Eugenio Garza Sada 2501, Monterrey 64849, Nuevo León, Mexico.)、Preciado-Ortiz RE(Programa de Mejoramiento Genético de Maíz, Campo Experimental del Bajío, Instituto Nacional de Investigaciones Forestales, Agrícolas y Pecuarias (INIFAP), Carretera Celaya-San Miguel de Allende km 6.5, Celaya 38110, Guanajuato, Mexico.)、Escalante-Aburto A(Tecnologico de Monterrey, School of Engineering and Sciences, Av. Eugenio Garza Sada 2501, Monterrey 64849, Nuevo León, Mexico.; Tecnologico de Monterrey, Institute for Obesity Research, Av. Eugenio Garza Sada 2501, Monterrey 64849, Nuevo León, Mexico.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):González-Nimi ED, Gutiérrez-Uribe JA, Vázquez-Rodríguez B, et al. Unraveling the Food Matrix Components Underlying Glycemic Response in Yellow Popcorn Hybrids (<i>Zea mays</i> var. 'Everta'). Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-20. DOI: 10.3390/foods15183333. 原著ライセンス:CC BY.