日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Biomolecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

腎臓の働きが低下し、維持血液透析を続けている人では、筋肉の量や力が落ちる「サルコペニア」がよく起こります。サルコペニアは生活の質の低下、転倒、入院、死亡などと関係する重要な合併症です。

ミオスタチンは、筋肉の成長を抑えるブレーキ役として知られるたんぱく質です。そのため、筋肉の衰えを示す目印(バイオマーカー)として注目されてきました。ただし、血液中のミオスタチン濃度は筋肉の中での働きをそのまま映すとは限りません。筋肉量そのもの、炎症、代謝の乱れ、透析に伴う体全体の状態にも左右されうると考えられています。実際、これまでの研究では血中ミオスタチンと筋肉の指標との関係について一致しない結果が報告されていました。

透析患者では、栄養不良と慢性的な炎症が重なり合って筋肉の衰えに関わることが知られています。そこで研究チームは、血中ミオスタチンと筋肉に関する指標との関係が、栄養リスクと炎症の程度の組み合わせによって変わるのかどうかを探索的に調べました。

何を調べたか

研究は日本の一つの透析施設で、3か月以上維持血液透析を受けている人を対象に、ある一時点のデータを分析する横断研究として行われました。急性の感染症がある人、最近入院した人、ステロイドを全身投与されている人などを除き、最終的に138人が分析対象となりました。年齢の中央値は67.5歳で、約3分の2が男性でした。

透析前に採取した血液で、ミオスタチン濃度と炎症の指標であるCRPを測りました。栄養リスクは日本の透析患者向けの栄養リスク指標(NRI-JH)で評価し、点数が高いほど栄養面のリスクが大きいことを示します。筋肉量は透析後に体組成計で測定し、手足の筋肉量を身長で補正した「骨格筋指数」として表しました。筋力は握力で評価し、筋肉量と筋力の両方が低い場合をサルコペニアとしました。

分析では年齢と性別などを考慮したうえで、ミオスタチンと筋肉の指標の関係を調べ、さらにその関係が栄養リスクと炎症の組み合わせによってどう変わるかを統計的に検討しました。

主な結果

対象者の52.9%がサルコペニアに該当しました。全体として見ると、血中ミオスタチンが高い人ほど骨格筋指数と握力が高いという関係があり、筋肉量が少ない人や握力が弱い人ではミオスタチン濃度が低めでした。一方、ミオスタチンはCRPや栄養リスクの点数とは逆向きの関係にありました。

サルコペニアとの関係では、基本的な分析ではミオスタチンが高いほどサルコペニアである見込みが低いという関係が見られました。しかし、栄養リスクとCRPも考慮すると、この関係は統計的に有意ではなくなりました。これに対し、骨格筋指数や握力との正の関係は、栄養リスクと炎症を考慮しても残りました。

最も注目される結果は筋肉量についてのものです。炎症の指標が低い範囲では、栄養リスクの大小にかかわらず、ミオスタチンと骨格筋指数の関係はおおむね正の向きでした。ところが炎症の指標が高くなると、栄養リスクが高い人ほどこの正の関係は弱まり、観察された範囲の上限付近ではほとんど関係が見られなくなりました。こうした変化が統計的にはっきり認められたのはCRPがおよそ0.22 mg/dLを超える範囲でした。著者らは、この値はあくまで今回のデータから統計的に導かれた境目であり、炎症の臨床的な基準値として解釈すべきではないと述べています。

一方、握力やサルコペニアについては、栄養リスクと炎症の組み合わせによって関係が変わるという統計的な証拠は得られませんでした。著者らは、筋力は神経と筋肉の連携や身体活動など他の要因の影響も受けるため、筋肉の「量」と「働き」を区別して考える必要があると論じています。

この研究が示すこと

この研究は、血液透析を受ける人において、血中ミオスタチンと筋肉量の関係が一様ではなく、栄養と炎症の状態の組み合わせによって異なりうることを報告しました。著者らは、これまでの研究で結果が食い違っていた理由の一つを説明する可能性があると考えています。

ただし、一時点のデータを分析した研究であり、どちらが原因でどちらが結果かは分かりません。栄養や炎症がミオスタチンの働きそのものを変えていることを示したものでもありません。単一施設の比較的少人数のデータで、栄養リスクと炎症がともに高い人の数は限られていました。著者らは、血中ミオスタチンの値を読み解くには、筋肉量だけでなく栄養状態や炎症といった体全体の背景もあわせて考える必要があるかもしれないと結論づけています。

原著論文の著者・所属:Xuan Tan(Department of Laboratory Medicine, Faculty of Medicine, Shimane University, 89-1 Enya-Cho, Izumo 693-8501, Japan)、Changsong Ma(Department of Pediatrics, Faculty of Medicine, Shimane University, 89-1 Enya-Cho, Izumo 693-8501, Japan)、Abdullah Md Sheikh(Department of Laboratory Medicine, Faculty of Medicine, Shimane University, 89-1 Enya-Cho, Izumo 693-8501, Japan)、Atsushi Nagai(Department of Internal Medicine 3, Faculty of Medicine, Shimane University, 89-1 Enya-Cho, Izumo 693-8501, Japan)、Shozo Yano(Department of Laboratory Medicine, Faculty of Medicine, Shimane University, 89-1 Enya-Cho, Izumo 693-8501, Japan; The Center for Integrated Kidney Research and Advance (IKRA), Faculty of Medicine, Shimane University, 89-1 Enya-Cho, Izumo 693-8501, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xuan Tan, Changsong Ma, Abdullah Md Sheikh, et al. The Association Between Circulating Myostatin and Skeletal Muscle Mass Varies by Nutritional–Inflammatory Status in Hemodialysis Patients. Biomolecules 2026-10-09. DOI: 10.3390/biom16101469. 原著ライセンス:CC BY.