著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:気候変化の下で「いつ播き、どの早さで実る稲」を選ぶか

中国南西部の重慶地域で稲作を続けていくには、将来の気候変化の下で、播種日ごとにどのような品種が適しているかを見極めることが重要です。研究チームはこの問題に取り組み、成熟までの期間が異なる稲(早生・中生・晩生)を、さまざまな播種時期と組み合わせた場合に、収量や水の使われ方がどう変わるかを調べました。

著者らによると、気候変化が稲の生産を損なう主な仕組みの一つは、稲の生育段階(いつ穂ができ、花が咲き、実が熟すか)と、生育に適した気象条件とのタイミングのずれです。稲の発育は温度や日の長さに敏感で、気温が上がると発育が速まり、生育期間全体が短くなりやすいとされます。

方法:作物モデルで仮想の品種を作り、将来気候で試す

研究チームは、重慶地域を代表する地点として江津の気象観測所を選びました。この地点の日射量・降水量・気温は地域全体の変動の大部分をカバーし、地元で広く栽培されている品種「Eryou 6078」が使われています。1997〜2000年に同地で行われた圃場試験の観測データを用いて、稲の生育をコンピューター上で再現する作物モデル「APSIM-Rice」を調整しました。モデルが再現した主な生育段階までの日数は、観測との誤差(RMSE)が2.1日以下、収量の誤差(NRMSE)は5.4%で、論文は良好な再現性と評価しています。

将来の気候には、国際的な気候モデル比較計画(CMIP6)の二つのシナリオを用いました。中程度の排出が続く「SSP2-4.5」と、排出の多い「SSP5-8.5」です。1981〜2010年を基準期間とし、2030年代と2060年代の結果を比べました。播種日は3月1日・10日・20日・30日、4月10日・20日の6通りです。水や窒素肥料はモデル内で自動的に与え、不足が生育を妨げない条件で計算しています。

品種の違いは「仮想品種」として表現しました。地元品種の発育の速さを決める4つの遺伝的なパラメーターを一斉に10%速めたものを早生、10%遅くしたものを晩生とし、元の品種を中生(通常品種)としました。これにより、育種で狙うべき早晩性をモデル上で選び分ける、いわば仮想的な品種選抜を行っています。評価した指標は、収量、生育期間中の水消費量、そして水1ミリあたりにどれだけ収穫できるかを示す水利用効率です。

主な結果:早い播種と晩生品種の組み合わせが有利

将来の気候では、どの品種でも花が咲くまでの栄養成長の期間が短くなると計算されました。たとえば基準期間で71日・76日・84日だった早生・中生・晩生の栄養成長期間は、SSP5-8.5の2060年代には63日・68日・75日になりました。

収量については、播種時期による違いが目立ちました。晩生品種は、基準期間の通常品種と比べて、SSP2-4.5の2030年代に3月1日・10日・20日播きでそれぞれ24.18%、18.07%、25.62%の増収となった一方、3月30日と4月10日播きでは3.08%と8.64%の減収でした。2060年代には、遅い播種日での減収が15.51%と21.01%に拡大しています。

水の面では、基準期間の通常品種の水消費量は、3月1日播きの212ミリが最も少なく、播種が遅れるほど増えて4月20日播きで276ミリに達しました。晩生品種は生育期間が長い分、将来気候ではすべての播種日で水消費量が通常品種より増え、SSP2-4.5の2030年代で20.30〜40.40%の増加でした。一方、早生品種は水消費量が減るものの、収量と水利用効率はすべての播種日で低下すると計算されました。

水利用効率は、早い播種日ほど将来に向けて改善し、遅い播種日では悪化する傾向が見られました。ただし、排出の多いSSP5-8.5の2060年代には、晩生品種の水利用効率がすべての播種日で6.3〜57.2%低下しています。著者らは、極端な温暖化の下では蒸発散(地面や植物から失われる水分)が大きく増えるため、晩生品種の資源利用上の利点が失われると考察しています。

研究が示すこと

著者らは、早く播くことで将来の気候変化による悪影響を和らげられ、遅く播くと特に高排出シナリオで損失が大きくなると結論づけています。晩生品種は早い播種と組み合わせることで収量と水利用効率をさらに高める有望な選択肢とされ、全体として「早い播種と晩生品種の組み合わせ」が重慶地域の稲作にとって最適な戦略だと報告しています。一方、早生品種は生育期間が短く、光合成でつくる養分を十分に蓄えられないことから、推奨されないとしています。

これらはあくまでモデルによる計算結果です。論文自身も、気候の予測を一つの気候モデル(BCC-CSM2-MR)だけに頼っていること、熱波や干ばつなどの極端な気象を考慮していないこと、窒素施肥や栽植密度など他の栽培条件を扱っていないことを限界として挙げています。示された増減率は、すべての気候予測に当てはまる固定値ではないと著者らは注意しています。それでも本研究は、播種時期と品種の早晩性を組み合わせて考えることで、気候変化に対応した稲作と品種改良の目標を具体的に描けることを示しています。

原著論文の著者・所属:Jianzhao Tang(Chongqing Institute of Meteorological Sciences; Hebei Technology Innovation Center for Geographic Information Application, Institute of Geographical Sciences, Hebei Academy of Sciences)、Jianping Zhang(Chongqing Institute of Meteorological Sciences, Chongqing, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jianzhao Tang, Jianping Zhang. Breeding rice for optimal maturity across diverse sowing windows under future climate change scenarios in Chongqing area. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-09-18. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1899019. 原著ライセンス:CC BY.