日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Land
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
植林は、樹木の成長によって大気中の二酸化炭素を吸収する気候変動対策で、費用対効果が高く、削減効果も大きいとされています。ただし大規模に行うには広い土地を長期間森林として維持する必要があり、食料生産を支える農地と土地を奪い合うおそれがあります。
著者らは、生物多様性や土壌の保全といった環境への配慮を加えると、世界の植林による炭素吸収ポテンシャルがどう変わるかを調べました。あわせて、食生活の転換や食品ロス削減などの「持続可能な食料システム」が、植林に使える土地をどれだけ生み出せるかも評価しました。研究チームは、かつて森林だった土地に再び木を植える「再植林」も含めて、論文全体で「植林」と呼んでいます。
どのように調べたか
研究チームは、経済活動と土地利用をあわせて将来を予測する統合評価モデル(AIM-HubとAIM-PLUM)を使いました。まず、各シナリオで将来必要になる農地・牧草地・バイオエネルギー作物・森林の面積を予測し、世界を緯度経度0.5度ごとの区画に分けて割り当てました。次に、残った土地のうち持続可能性や自然条件の基準を満たす場所を植林適地としました。植林の拡大ペースには、世界の森林面積を3%増やすという国際目標に基づく制約を設けています。そのうえで、地域ごとの樹木の成長の仕方を組み合わせて炭素吸収量を推計し、費用も見積もりました。
社会経済の前提には、現在の傾向が続く「中道」型の将来像を用いました。比較したのは7つのシナリオです。環境面の制約を設けない基準シナリオ、土壌の質の向上、生物多様性保護、その両方を合わせた「環境配慮」の4つに加え、環境配慮を前提としたうえで食料システムの対策を上乗せした3つのシナリオを設けました。上乗せした対策は、食生活の転換と食品ロス削減、食料貿易と農業技術(灌漑など)の改善、そしてそれらすべての組み合わせです。
主な結果
環境面の制約を設けない場合、2100年の植林による世界の炭素吸収量は年間最大4.10ギガトン(1ギガトンは10億トン、二酸化炭素換算)で、累積では264ギガトンでした。土壌の質の向上を条件に加えると年間3.70ギガトンとやや減り、生物多様性保護を加えると年間2.90ギガトンと大きく減りました。両方を適用すると年間2.13ギガトン、累積124ギガトンまで下がりました。論文によると、主な原因は植林に使える土地、とくに生産性の高い土地が減ることです。生産性の高い土地は豊かな生態系を含むことが多く、保護の対象になりやすいためです。
一方、持続可能な食料システムは使える土地を増やし、炭素吸収量を押し上げました。いずれも環境配慮をすべて適用した条件(年間2.13ギガトン)に対策を上乗せした結果です。食生活の転換と食品ロス削減を加えると年間3.70ギガトン、貿易と灌漑の改善を加えると年間3.32ギガトンに増えました。すべてを組み合わせると、環境配慮をすべて適用したままでも年間5.01ギガトン(累積323ギガトン)に達し、制約のない基準シナリオを上回りました。増加分は主に、食生活の転換などで牧草地が減り、生産性の高い土地が空くことによるとされています。
地域別では、基準シナリオでブラジルと南米その他地域がそれぞれ年間0.7ギガトンで、合わせて世界の34%を占めました。これにアフリカその他地域(14%)と東南アジア(9%)が続き、4地域で世界の57%を占めました。生物多様性の保護区域が広い南米やアフリカ、ブラジルでは、環境配慮による減少が大きくなりました。
費用面では、2100年に1トンあたり50米ドルで吸収できる量は、基準シナリオで年間約3.9ギガトンでした。土壌の制約を加えると約3.5ギガトン、生物多様性保全を含めると約2.1ギガトンに減りました。持続可能な食料システムのシナリオでは、同じ費用で年間約4.8ギガトンを吸収できるとされています。最も費用が低い地域は東南アジア、ブラジル、米州その他地域で、高い地域はカナダ、旧ソ連、欧州その他地域でした。
研究から見えること
この研究は、生物多様性などの環境保護と、植林による炭素吸収の最大化との間にトレードオフ(一方を優先すると他方が損なわれる関係)があることを数値で示しました。同時に、食生活や食料生産のあり方を変えれば、その損失の多くを取り戻せる可能性も示しています。ただし著者らは、食料システムの転換で生まれる土地だけでは、必要とされる大気中の二酸化炭素除去量をまかなえないと述べ、植林を他の手法と組み合わせる除去策の一つと位置づけています。また、推計値は山火事や干ばつ、病害虫などによる炭素の損失を考慮しておらず、想定した土地利用と森林の成長のもとでの「ポテンシャル」として読む必要があると、著者らは注意を促しています。
原著論文の著者・所属:Dianti Farhana Kamasela(Department of Environmental Engineering, Kyoto University, C1-3 361, Kyotodaigaku Katsura, Nishikyoku, Kyoto 615-8540, Japan; Research Organization of Science and Technology, Ritsumeikan University, 1-1-1, Nojihigashi, Kusatsu 525-8577, Japan)、Shinichiro Fujimori(Center for Social and Environmental Systems Research, National Institute for Environmental Studies (NIES), Tsukuba 305-8506, Japan; Department of Environmental Engineering, Kyoto University, C1-3 361, Kyotodaigaku Katsura, Nishikyoku, Kyoto 615-8540, Japan; International Institute for Applied Systems Analysis (IIASA), Schlossplatz 1, 2361 Laxenburg, Austria)、Tomoko Hasegawa(Center for Social and Environmental Systems Research, National Institute for Environmental Studies (NIES), Tsukuba 305-8506, Japan; Department of Environmental Engineering, Kyoto University, C1-3 361, Kyotodaigaku Katsura, Nishikyoku, Kyoto 615-8540, Japan; Research Organization of Science and Technology, Ritsumeikan University, 1-1-1, Nojihigashi, Kusatsu 525-8577, Japan)、Saritha Sudharmma Vishwanathan(Department of Environmental Engineering, Kyoto University, C1-3 361, Kyotodaigaku Katsura, Nishikyoku, Kyoto 615-8540, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dianti Farhana Kamasela, Shinichiro Fujimori, Tomoko Hasegawa, et al. Global Afforestation Carbon Sequestration Potential Within an Integrated Environmental Protection and Sustainable Food System Framework. Land 2026-09-17. DOI: 10.3390/land15091733. 原著ライセンス:CC BY.