著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリアです。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:見落とされがちな乳幼児への災害支援

乳幼児は、体が未熟であること、特別な栄養が必要なこと、暑さや脱水、寒さに弱いこと、そして生活のすべてを周囲の大人に頼っていることから、災害時に特に弱い立場に置かれます。2010年には世界保健総会が加盟国に対し、「緊急時の乳幼児の栄養・授乳支援(IYCF-E)」の計画を、国際的な運用指針(OG-IFE)に沿って整えるよう求めました。しかし、その後の国際的な調査では、この分野が授乳に関する政策の中で最も見落とされていることが繰り返し指摘されてきました。

オーストラリアでも、子どもが災害計画から抜け落ちていると指摘されてきました。2019〜20年の大規模な森林火災「ブラック・サマー」では、海軍による沿岸の町からの避難で、大人や年長の子ども、ペットが救助される一方、妊婦や乳幼児を連れた人々が濃い煙の中に取り残されたと報告されています。船での安全な移送が十分に計画されていなかったためです。

こうした経験を受けて始まった研究プロジェクトの一環として、研究チームは、オーストラリアを含む高所得国で、乳幼児とその家族を災害時にどう支えてきたかを調べました。国をまたいで共通する課題、得られた教訓、効果的だった取り組みを明らかにし、資源の豊かな国に適した災害計画づくりに役立てることが目的です。著者らは、高所得国についてこうした共通点を整理した研究は、知る限り初めてだとしています。

何を調べたか:59人の災害対応者へのインタビュー

研究チームは、災害の計画や対応に関わった人々に、あらかじめ大まかな質問項目を用意しつつ自由に語ってもらう「半構造化インタビュー」を行いました。対象は、さまざまな役割で災害対応に携わったオーストラリアの39人と、カナダ、クロアチア、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、ニュージーランド、ポーランド、英国、ウクライナ、米国の11か国で、主に乳幼児や授乳支援に関わる仕事をしてきた20人です。

インタビューは2022年9月から2023年3月にかけてオンラインで、英語により1回およそ1時間行われました。参加者には、乳幼児に関わる災害時の経験、親や養育者を支える政策や実践、何をすればより良く支えられるかを尋ねました。語られた内容は文字に起こされ、繰り返し現れる考え方や経験を「テーマ」としてまとめる方法で分析されました。

主な結果:国を越えて共通する課題と、各地の工夫

研究チームによると、乳幼児を支えるうえでの課題は、地理や災害の種類、文化、医療や防災の仕組みが違っても、驚くほど共通していました。主な課題は、乳幼児が優先されず計画やデータ収集が不足していること、災害時の授乳・栄養支援についての計画や知識が不足していること、そして乳児用粉ミルクの寄付が無秩序に行われることでした。

たとえばイタリアの参加者は、美術館の作品の保管方法や、歩けない高齢者の移送、動物への対応などについて細かな手順があるのに、妊婦や乳幼児についての計画は何もなかったと語っています。アイルランドでも、動物の食事や避難場所には対応項目があるのに、子どもや乳児に特化したものはないと述べられました。親は支援がなくても子どもの世話ができるはずだという思い込みが、計画不足の一因と考えられていました。

一方で、うまくいった取り組みも報告されました。避難所の受付で子どもの年齢や授乳方法などの情報を集め、家族一人ひとりや地域全体のニーズを評価する工夫が、カナダや米国などから紹介されています。ニュージーランドでは、地域住民が計画に加わったことで、幼い子どもを連れた家族専用の避難場所が用意されました。学校を避難所として使うことの多いアイスランドでは、授乳中の親子を別室に分けて支援しやすくしていました。カナダのアルバータ州では、0〜3歳の子どもがいる家族のための「ベビー・アンド・チャイルド・ユニット」という専用の支援スペースが避難所内に設けられ、到着した家族をすぐに支援できるようになっていました。

このほか、オーストラリア、米国、日本では、対応者が適切な授乳支援を行うための流れ図が作られ、カナダと米国では親や医療・防災の担当者向けの教材がまとめられていました。取り組みを進めるうえでは、政府機関の後押し、保健分野と防災分野の連携、ユニセフの支援が助けになったと語られています。クロアチアでは、国の母乳育児戦略に計画づくりが盛り込まれたことをきっかけに、政府や民間団体が協力して国際指針に基づく計画を作りました。また、子育てグループなどを通じて母親に事前の備えを伝える試みや、地域全体で備える「コミュニティ対応計画」も紹介されました。

研究が示すこと

著者らによれば、データ収集の時点で、参加者の国のいずれにも国際指針に基づく計画はありませんでした。その後、クロアチアでは2023年後半に保健省が計画を公表しましたが、オーストラリアでは2019年に政府が約束した計画づくりはまだ実行されていないとされています。研究チームは、災害対応の資源が豊かな国でも乳幼児のニーズが広く見落とされてきたこと、それは計画が全くないからではなく、乳幼児が優先されてこなかったためだと指摘しています。

なお著者らは、参加者の人数や国の数が比較的少なく、一部の国に偏っていること、英語のみで行われたことなどを限界として挙げています。そのうえで、この研究は、高所得国でも乳幼児とその養育者には災害時に専用の支援が必要であり、各地ですでに始まっている取り組みが他の国にとっての手本になりうることを示しています。

原著論文の著者・所属:Karleen D. Gribble(School of Nursing and Midwifery, Western Sydney University)、Alexandra Shanks(Australian Breastfeeding Association, Melbourne, VIC, Australia)、Michelle Hamrosi(Australian Breastfeeding Association; School of Medicine, Australian National University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Karleen D. Gribble, Alexandra Shanks, Michelle Hamrosi. Support for infant and young child feeding and care in emergencies: experiences from Australia and eleven other high-income countries. Frontiers in Nutrition 2026-09-17. DOI: 10.3389/fnut.2026.1940793. 原著ライセンス:CC BY.