著者の所属・活動拠点の国は、ドイツです。
掲載誌:Earth s Future
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
収量だけでなく「栄養の質」にも目を向ける
トウモロコシは、アフリカをはじめ多くの地域で何百万もの世帯の毎日のエネルギーとタンパク質の摂取を支える主食作物です。気候変動による気温や降水パターンの変化、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇は、その生産量と栄養面の質の両方を脅かすと考えられています。
研究チームによると、これまでの研究の多くは収量に注目しており、トウモロコシの粒に含まれる栄養成分への影響はあまり評価されてきませんでした。そこで著者らは、西アフリカを対象に、気候変動が収量と粒のタンパク質にどう影響するかを合わせて推計しました。
作物モデルで16か国を推計
研究チームは、作物の生育を気象などの条件からコンピューター上で再現する作物モデル「APSIM(農業生産システムシミュレーター)」を使い、西アフリカ16か国のトウモロコシの収量と粒のタンパク質を推計しました。結果は実際の観測ではなく、モデルによる将来予測です。
将来の想定には、社会経済の発展の道筋と温室効果ガスの排出量を組み合わせた対照的な2つのシナリオ(SSP1-RCP2.6とSSP3-RCP7.0)を用いました。前者は排出が低く抑えられる想定、後者は排出が多い想定にあたります。
収量とタンパク質濃度は逆の傾向に
推計では、気候変動の影響は地域内の場所によって大きく異なりました。排出が多いシナリオでは、今世紀半ばまでに収量が平均5.7%減少し(場所によって43.7%の減少から49.7%の増加まで幅がある)、タンパク質の含量も平均4.8%減少しました(42.6%の減少から54.3%の増加まで)。
一方、粒に占めるタンパク質の割合を示す「タンパク質濃度」は、収量と逆の傾向を示しました。収量やタンパク質の含量が増える地域ではタンパク質濃度が下がり、反対に収量などが減る地域では濃度が上がるという関係です。地域全体では、タンパク質濃度は平均4.6%上昇すると推計されました(4.9%の低下から19.3%の上昇まで)。
また、北部の地域では収量の増加率が大きくなりました。著者らは、その要因として将来の降水量の増加が予測されていることと、もともとの収量が比較的低いことを挙げています。
収量だけでは見えないリスク
生産性と栄養面の質を広い地域規模で同時に評価したことで、研究チームは、収量だけに注目した評価では将来の食料システムの脆弱性を過小評価するおそれがあると指摘しています。収量とタンパク質濃度の間には、一方を得れば他方を失うトレードオフの関係がありうるということです。
著者らはさらに、収量の安定や増加を目指す気候変動への適応策が、粒の質の改善を損なう可能性にも触れ、収量と質の両方を最適化する地域ごとの対策を検討する必要性を論じています。この研究は、気候変動の影響を考えるうえで「どれだけ採れるか」だけでなく「どんな質のものが採れるか」も合わせて見ることの大切さを示しています。
原著論文の著者・所属:David Abigaba(Potsdam Institute for Climate Impact Research Potsdam Germany)、Bernhard Schauberger(Department of Sustainable Agriculture and Energy Systems University of Applied Sciences Weihenstephan‐Triesdorf Freising Germany; Potsdam Institute for Climate Impact Research Potsdam Germany)、Abel Chemura(Potsdam Institute for Climate Impact Research Potsdam Germany)、Christoph Gornott(Agroecosystem Analysis and Modelling Faculty of Organic Agricultural Sciences University of Kassel Kassel Germany; Potsdam Institute for Climate Impact Research Potsdam Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):David Abigaba, Bernhard Schauberger, Abel Chemura, et al. Climate Change Shows Inverse Effects on Grain Yield and Protein Concentration in West Africa. Earth s Future 2026-08-01. DOI: 10.1029/2026ef008409. 原著ライセンス:CC BY.