この研究は、ポーランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Advances in Clinical and Experimental Medicine

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

声明の目的

肥満治療では近年、「インクレチン関連薬」と呼ばれる薬が使われるようになりました。インクレチンは食事をとると腸から出るホルモンの総称です。これらの薬はそのうちのGLP-1や、GIPとGLP-1の両方に働きかけて、食欲を抑え満腹感を高めます。著者らが紹介する臨床試験では、肥満や体重に関連する合併症を伴う過体重の人で、平均で最大20%の体重減少が報告されています。

一方で著者らは、食べる量が大きく減ることで新たな栄養上の課題が生じると指摘しています。たんぱく質やビタミン・ミネラル、食物繊維の不足、吐き気などの消化器症状、脂肪以外の組織(筋肉などの除脂肪量)の減少です。ただし、この治療中の栄養管理を直接調べた研究はまだ限られています。

そこでポーランド栄養学会は、成人の肥満患者がインクレチン関連薬を使う際の栄養評価、食事管理、栄養補助食品の使い方、管理栄養士が関わるケアについて、現時点の知見を整理しました。あわせて、まだよく分かっていない領域を明らかにすることを目的に、この声明をまとめています。

どのようにまとめられたか

声明は、臨床栄養学、肥満治療、健康増進などを専門とする12人の多職種専門家グループが作成しました。ランダム化比較試験やメタ解析(複数の研究結果を統合する分析)、国際的な学会の診療指針を中心に検討しています。この治療に特化した直接の証拠が乏しい領域では、間接的な証拠や他の専門家合意文書も参考にしました。

草案は全員で繰り返し見直されて合意形成が図られ、最終的に電子投票で全員が承認しました。著者らは、この声明が正式に格付けされた診療推奨ではなく専門家の合意であることを明記しています。エビデンスの質や推奨の強さを評価する正式な格付けは行われていません。

主な内容

まず、治療開始前に食事の状況を体系的に評価することを挙げています。普段の食事内容、体重の経過、たんぱく質を多く含む食品の摂取、水分・食物繊維の摂取、飲酒、制限的な食べ方などを確認します。治療中は、空腹感や満腹感、食事を抜いていないか、消化器症状の有無を継続して見守ることが重要とされます。体重やBMIだけでは筋肉の蓄えや栄養の充足は分からないため、筋力や体組成もできる範囲で評価するよう述べています。

栄養上のリスクについて、著者らは既存研究を引用しています。GLP-1受容体作動薬の使用者で、食物繊維、カルシウム、鉄、マグネシウム、カリウム、ビタミンA・C・D・Eなどの摂取不足が見られたという横断研究です。また、ある臨床試験の副次研究では、減った体重のおよそ75%が脂肪、およそ25%が除脂肪量だったと報告されています。体重減少は代謝面で有益であっても、脂肪だけが減るわけではありません。高齢者や運動量の少ない人では、とくに注意が必要とされています。

筋肉と身体機能を保つために、声明は十分なたんぱく質と、各自の体力に合わせた定期的な筋力トレーニングを組み合わせることを挙げています。減量中のたんぱく質量として、調整体重1kgあたり1日約1.2〜1.5gという目安が提案されてきたことも紹介しています。ただし、この目安はこの治療を受ける患者での大規模試験に基づくものではありません。どの体重を基準に計算すべきかも未確立だと著者らは述べています。

食欲が落ちたときの工夫も示されています。少量で栄養価の高い食品を選ぶこと、食事を少量・頻回にすること、たんぱく質の多い品目を先に食べること、スープやヨーグルトなど液状・半液状の食品を活用することです。吐き気などの消化器症状は治療開始時や増量時に多く、多くは一時的で軽度〜中等度とされます。報告では患者の約40〜70%にみられるとされています。ゆっくり食べる、揚げ物や炭酸飲料を控える、水分をこまめにとるといった対応が紹介されています。

食事パターンについては、地中海食、高血圧予防のためのDASH食、適切に計画された植物性中心の食事が妥当な選択肢とされています。ただし、この治療中にどの食事法が最適かを直接比べた証拠は不十分で、持病や体調、好みに応じて選ぶことが勧められています。栄養補助食品は全員に一律に使うのではなく、欠乏が確認された場合やリスクが高い場合に絞るべきだとしています。

この声明が示すこと

この声明は、薬で体重が減ることと、栄養状態が保たれることは別の問題であることを示しています。食べる量が大きく減る治療だからこそ、何をどれだけ食べるか、筋肉をどう守るかに目を向ける必要があります。著者らは、管理栄養士を含む多職種のチームでこうした支援を行うことを重視しています。同時に、提示した多くの方策が直接の試験ではなく専門家の合意や間接的な証拠に基づいていることを明示しています。

著者:Adrian Kwaśny(Institute of Dietetics, The Academy of Business and Health Sciences, Łódź, Poland)、Małgorzata Słoma-Krześlak(Department of Human Nutrition, Department of Dietetics, Faculty of Health Sciences in Bytom, Medical University of Silesia in Katowice, Zabrze, Poland)、Grzegorz Kostelecki(University Clinical Centre of the Medical University of Silesia in Katowice, Poland)、Anna Maria Rychter(Department of Gastroenterology, Dietetics and Internal Diseases, Poznan University of Medical Sciences, Poland)、Maria Brzegowy(Faculty of Health Sciences, Andrzej Frycz Modrzewski Krakow University, Poland)、Małgorzata Jeziorek(Department of Dietetics and Bromatology, Faculty of Pharmacy, Wroclaw Medical University, Poland)、Matylda Kręgielska-Narożna(Department of the Treatment of Obesity and Metabolic Disorders and of Clinical Dietetics, Poznan University of Medical Sciences, Poland)、Ewa Lange(Department of Dietetics, Institute of Human Nutrition Sciences, Warsaw University of Life Sciences, Poland)、Iwona Boniecka(Department of Clinical Dietetics, Faculty of Health Sciences, Medical University of Warsaw, Poland)、Aleksander Prejbisz(Department of Epidemiology, Cardiovascular Disease Prevention and Health Promotion, National Institute of Cardiology, Warsaw, Poland)、Piotr Dobrowolski(Department of Epidemiology, Cardiovascular Disease Prevention and Health Promotion, National Institute of Cardiology, Warsaw, Poland)、Michał Czapla(Department of Emergency Medical Service, Faculty of Nursing and Midwifery, Wroclaw Medical University, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Adrian Kwaśny, Małgorzata Słoma-Krześlak, Grzegorz Kostelecki, et al. Diet and nutrition in obesity treated with incretin-based therapies: A scientific statement of the Polish Society of Dietetics. Advances in Clinical and Experimental Medicine 2026-10-01. DOI: 10.17219/acem/235937. 原著ライセンス:CC BY.