著者の所属・活動拠点の国は、イランです。

掲載誌:Journal of Diabetes Investigation

ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

妊娠中に血糖値が高くなる「妊娠糖尿病」は、母子双方の健康に影響しうる代表的な妊娠合併症です。糖尿病になりやすさには食事内容が関わるとされてきましたが、タンパク質の摂取量や由来(植物性か動物性か)と妊娠糖尿病リスクとの関係については、これまでの研究結果が一致していませんでした。今回、イラン・イスファハンの病院を拠点とした研究チームが、詳細な食事記録をもとにこの関係を改めて検証しました。

研究チームには、テヘラン大学医学科学部の栄養学関連学科に所属する研究者や、アルボルズ大学医学科学部、イスファハン大学医学科学部の産婦人科に所属する研究者が名を連ねています。

どのように調べたのか

研究の対象は、イスファハンのアザーラ病院やシャヒード・ベヘシュティ病院などで集められた、単胎妊娠で妊娠25〜28週の女性たちです。妊娠糖尿病と新たに診断された200人(空腹時血糖値95mg/dL以上、または食後1時間血糖値140mg/dL以上を基準に医師が判定)を「症例群」、血糖値が正常だった263人を「対照群」として比較する「症例対照研究」という手法が用いられました。なお、この研究では2時間の経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)は実施されておらず、空腹時血糖と食後1時間値による診断が採用されている点は方法上の特徴です。

食事内容は、平日2日・休日1日を含む3日間の「24時間思い出し法」による食事記録の平均から推定されました。管理栄養士の指導のもとフードアルバムを使って目安量を確認し、家庭用計量単位をグラムに換算、シチューやスープ、米料理、サンドイッチのような混合料理も材料ごとに分解して、それぞれの食品がどの由来のタンパク質かを分類したうえで、植物性タンパク質・動物性タンパク質のほか、鶏肉、乳製品、卵、魚介類、さらに芳香族アミノ酸や分岐鎖アミノ酸(BCAA)についても摂取量が個別に算出されています。年齢やBMI、社会経済状況、総エネルギー摂取量、出産回数に加え、身体活動量や食物繊維、マルチビタミンサプリメントの摂取状況まで調整したうえで、タンパク質の種類ごとの摂取量(少ない順に3等分した群)と妊娠糖尿病リスクとの関連が統計的に解析されました。

何がわかったのか

症例群は対照群に比べて総エネルギー摂取量やタンパク質摂取量、ベータカロテン摂取量が高く、逆に炭水化物や果糖、ブドウ糖、水溶性食物繊維、ビタミンCの摂取量は低い傾向が見られました。しかし総タンパク質摂取量そのものは、さまざまな要因を調整した解析では妊娠糖尿病リスクと明確な関連を示しませんでした。動物性タンパク質全体、鶏肉、乳製品由来のタンパク質、芳香族アミノ酸、BCAAについても、同様に有意な関連は確認されていません。

一方で、由来別に見ると異なる結果が出ています。植物性タンパク質の摂取量が最も多い群は、最も少ない群に比べて妊娠糖尿病のオッズ比が0.34(95%信頼区間0.20〜0.59)で、約66%低いという結果でした。魚介類の摂取量が最も多い群でもオッズ比0.40(同0.24〜0.68、約60%低い)、卵の摂取量が最も多い群でもオッズ比0.59(同0.35〜0.98、約41%低い)と、いずれも摂取量が多いほどリスクが下がる傾向が確認されています。論文では、この関連について、植物性タンパク質に含まれるL-アルギニンや、酸化ストレスに関わるとされるヘム鉄の摂取量の違い、魚介類に含まれる長鎖オメガ3脂肪酸(EPAやDHA)の抗炎症作用などが仮説として挙げられていますが、これらはあくまで考えられる説明であり、この研究自体がその仕組みを直接証明したわけではありません。

この研究の読み方と限界

著者らは、この研究がいくつかの制約を持つことを明記しています。まず症例対照研究という設計上、因果関係を証明することはできません。また食事記録は非連続の3日間のみで、特に妊娠中の女性では思い出しによる過小申告などのバイアスが生じやすいとされ、著者らは今後、妊娠期向けに検証された食物摂取頻度調査票(FFQ)を使う研究が望まれるとしています。さらに参加者は病院や栄養クリニックで無作為ではない方法(便宜的抽出)により集められており、健康意識の高い女性が多く含まれた可能性があるため、結果を一般の妊婦全体にそのまま当てはめることには注意が必要です。加えて食事調査は妊娠糖尿病の診断後に行われており、診断を受けたことで食生活を変えた女性がいた可能性も否定できません。研究チーム自身も、これらの知見は前向きコホート研究やランダム化比較試験によって確認される必要があると述べています。

まとめ

今回の研究では、妊娠中のタンパク質摂取量そのものよりも、どのような由来のタンパク質を摂っているかが妊娠糖尿病リスクと関連している可能性が示唆されました。ただしこれは一つの症例対照研究で得られた結果であり、特定の食品が妊娠糖尿病を防ぐと断定するものではありません。今後の追加研究による確認が待たれます。

原著論文の著者・所属:Marzieh Zare(Department of Community Nutrition, School of Nutritional Sciences and Dietetics Tehran University of Medical Sciences Tehran Iran)、Elnaz Daneshzad(Non‐Communicable Diseases Research Center Alborz University of Medical Sciences Karaj Iran)、Hatav Tehrani(Department of Obstetrics and Gynecology Isfahan University of Medical Sciences Isfahan Iran)、Razieh Tabaeifard(Department of Community Nutrition, School of Nutritional Sciences and Dietetics Tehran University of Medical Sciences Tehran Iran)、Maryam Mahmoudi(Department of Cellular and Molecular Nutrition, School of Nutritional Sciences and Dietetics Tehran University of Medical Sciences Tehran Iran)、Leila Azadbakht(Department of Community Nutrition, School of Nutritional Sciences and Dietetics Tehran University of Medical Sciences Tehran Iran)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Marzieh Zare, Elnaz Daneshzad, Hatav Tehrani, et al. Protein consumption during pregnancy and risk of gestational diabetes mellitus: Insights from a multi‐center case–control study. 糖尿病イノベーション学会誌 (2026). DOI: 10.1111/jdi.70367.