この研究は、アメリカ、カナダの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

妊娠前の体格指数(BMI)が30以上といった母親の肥満は、妊娠糖尿病や高血圧性疾患、帝王切開、妊娠中の過剰な体重増加といったリスクの高さと関連することが知られています。さらに、肥満のある母親から生まれた子どもは、成長の経過や肥満、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる状態)、心血管代謝的な不調が後年に生じるリスクが高いことも報告されてきました。こうした観察は、母親の代謝状態や環境が胎児・乳児の健康を長期にわたって形づくるという「発達プログラミング」という考え方につながっています。

著者らは、この母親の肥満と子どもの将来の健康を結ぶ生物学的な仲立ちとして、腸内細菌叢(腸に住む微生物の集まりと、その遺伝子・機能・代謝産物を含めた全体)に注目しました。これまでの総説は、母親の肥満、妊娠糖尿病、妊娠中の細菌叢の変化、乳児への定着といった話題を別々に扱うことが多かったため、本論文はそれらを一つの流れとしてまとめ直すことを目的としています。とくに、証拠の強さと出どころ、「関連があること」と「原因であること」の区別、すでに確立した食事・生活習慣のケアと、まだ研究段階にある細菌叢を狙った手法との境目に注意を払うと述べています。

どのように資料を集めたか

本論文は数値をまとめて統合する解析ではなく、文献を読み解いて記述的に統合する「ナラティブレビュー」です。著者らはPubMed、Scopus、Web of Science、および所属大学の検索システムを用い、2000年1月から2025年8月までに発表された英語の文献を探しました。検索語には、母体・妊娠期の肥満、妊娠前BMI、妊娠中の体重増加、腸内細菌叢、微生物代謝産物、食事、プロバイオティクス(生きた有用菌)、プレバイオティクス(有用菌の餌となる成分)、シンバイオティクス(両者の組み合わせ)、胎盤、授乳、母子間の伝播、乳児の細菌定着、子どもの健康などが含まれます。

対象としたのは、人を対象とした観察研究、妊娠期に特化した臨床試験、動物実験、しくみを調べた研究などです。学会抄録や論説など十分な科学的詳細を欠く資料は、主要な根拠としては用いていません。形式的なバイアス評価の道具は使っていませんが、妊娠期に特化した無作為化試験や、繰り返し検体を採取した前向き研究には、横断的な関連の観察や動物実験、非妊娠の成人を対象とした研究よりも重い解釈上の比重を置いたとしています。生成AIについては、科学的内容を作り上げた後の文章表現や構成の編集補助に限って用い、文献の選定・評価・解釈には用いていないと明記されています。

報告された主な内容

まず著者らは、妊娠に伴う腸内細菌叢の変化は集団によって一様ではないと整理しています。妊娠後期に特定の細菌群が増えたり、エネルギー代謝や炎症に関わる経路が変化したりする報告がある一方で、食事や体脂肪、服薬、地域、解析手法を考慮すると安定しているという報告もあり、「健康な妊娠に共通する単一の細菌パターン」は存在しないとしています。同じ理由から、「ディスバイオシス(細菌叢の乱れ)」という語も、状況に応じた不均衡や機能の乱れを指す言葉として慎重に用いると述べています。

母親の肥満についても、BMIやインスリン抵抗性、妊娠中の体重増加と関連する細菌や機能の違いは報告されているものの、再現性のある肥満特有の分類学的な指標は確立していないと結論づけています。肥満研究でしばしば語られるファーミキューテス門とバクテロイデーテス門の比率も、単独では信頼できる指標ではないと指摘します。その理由として、研究間で結果が一致しないことに加え、相対的な存在割合のデータは互いに影響し合うため、ある群の見かけ上の変化が細菌叢の別の部分の変化を反映している可能性があることを挙げています。

仮説として提示されている道筋には、酪酸(食物繊維の発酵で生じる短鎖脂肪酸の一つ)をつくる能力の低下、短鎖脂肪酸や胆汁酸の代謝の変化、腸の防御壁としての機能の低下、内毒素に関わる免疫シグナルの高まりなどがあります。これらが胎盤の酸化ストレスや母子間の栄養シグナルに影響しうるとされますが、ヒトでの直接的な因果の証拠は限られていると繰り返し述べられています。胎盤についても、母親の肥満と胎盤の酸化ストレスや栄養輸送体の違いが同時に存在するという報告はあるものの、細菌叢の変化が胎盤の機能不全を仲立ちしていると示されたわけではないという立場です。

食事に関しては、飽和脂肪や精製炭水化物、超加工食品の多い食事パターンが、細菌の多様性の低下や炎症を促す代謝プロファイルと関連づけられてきた一方、食物繊維が豊富で植物性食品の種類が多い食事は、糖質の発酵と短鎖脂肪酸の産生を支えると報告されています。ただし母親の食事と体脂肪は互いに相関するため、それぞれの寄与を分けて評価する必要があるとしています。著者らは、特定の菌を狙うのではなく、確立した健康的な食事パターンを優先することが臨床的に最も擁護しやすいメッセージであり、肥満のある妊婦に特定の「細菌叢向け食事」を処方できるだけの根拠はないと述べています。

介入研究の結果は一致していません。過体重・肥満のある女性を対象とした大規模な無作為化プラセボ対照試験では、魚油やプロバイオティクスの補充は安全で忍容性は良好だったものの、妊娠糖尿病を減らすことも糖代謝を改善することもありませんでした。ラクトバチルス・ラムノサスGGを周産期に投与した研究の長期追跡では、幼児期の過剰な体重増加が和らいだ可能性が示唆されましたが、10歳までの小児肥満予防が確立されたわけではないとされています。著者らは現時点の根拠は、これらが妊娠糖尿病や世代を超えた肥満を予防するという広い主張を支えていないと結論づけています。

乳児の細菌叢が形づくられる過程については、母親の腸・皮膚・口腔・母乳に由来する微生物や共有する環境を通じて、株のレベルでの受け渡しが起きるとされています。ここでいう母子間の伝播は、母親の細菌叢がそのまま丸ごと移ることではなく、株や微生物の物質が受け渡されることを指すと定義されています。帝王切開では母親の腸内細菌の一部の獲得が遅れ、皮膚や病院環境に由来する微生物への曝露が増えると報告されますが、授乳や抗菌薬、家庭環境、離乳食がその経過を変えるため、分娩様式を単独で決定的な要因として扱うべきではないとしています。健康な妊娠において胎盤や胎児に常在する細菌叢が存在するかどうかは論争が続いており、著者らは、菌量の少ない検体は汚染の影響を受けやすく、現在の証拠は子宮内での生きた細菌の定着はないか極めて限定的であることを示唆すると整理しています。

母乳については、母乳に含まれるオリゴ糖(ヒトミルクオリゴ糖)が、ビフィズス菌をはじめとする乳児に関わる細菌の選択的な栄養源となり、微生物の代謝や免疫の発達に影響しうることが述べられています。母親の体脂肪や血糖の状態が一部のオリゴ糖の量と関連するという報告もありますが、分泌型かどうかの体質、遺伝、授乳の時期、食事、分析手法といった要因が大きく、母親の肥満は変動に関わりうる一つの相関要因として捉えるべきだとしています。

この総説が示す意味

著者らの結論は、母親の腸内細菌叢は生物学的にもっともらしい標的ではあるものの、その役割はまだ十分に検証されていない、というものです。異質性の高い研究群、交絡、一致しない結果のために、因果関係の推定は限られています。したがって現在の妊婦のケアは、個別の食事指導、適切な体重増加の支援、授乳支援、抗菌薬の慎重な使用、医学的に必要でない帝王切開を可能な範囲で避けることといった、確立した根拠に基づく実践に軸足を置くべきだと述べられています。

一方で、日常診療のなかで細菌叢を調べる検査を行うことや、妊娠糖尿病・子どもの肥満の予防を目的にプロバイオティクスなどを用いることは、妊娠期に特化した一貫した根拠に支えられていないとされます。次世代のプロバイオティクスや細菌叢に基づく精密栄養、膣内細菌の移植、糞便微生物移植といった手法は、適切に管理された研究の枠内にとどめるべきだというのが著者らの立場です。

この総説が読者に伝えるのは、母親の肥満と子どもの将来の代謝の健康をつなぐ道筋として腸内細菌叢が有望な研究対象である一方、その理解はまだ途上にあり、確かなことと未解明のことを慎重に区別する姿勢が求められている、ということです。

著者:Alireza Jahan-Mihan(Department of Nutrition and Dietetics, University of North Florida)、Shekoufeh Salamat(Department of Nutritional Sciences, Temerty Faculty of Medicine, University of Toronto)、Reniel Nodarse(Department of Nutrition and Dietetics, University of North Florida)、Rachael Shangraw(Department of Nutrition and Dietetics, University of North Florida)、Corinne Labyak(Department of Nutrition and Dietetics, University of North Florida)、Jill Snyder(Department of Nutrition and Dietetics, University of North Florida)、Kristin Berg(Department of Nutrition and Dietetics, University of North Florida)、Jamisha Leftwich(Department of Nutrition and Dietetics, University of North Florida)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Alireza Jahan-Mihan, Shekoufeh Salamat, Reniel Nodarse, et al. Maternal obesity, diet, and the gut microbiome: implications for offspring cardiometabolic programming. Frontiers in Nutrition 2026-09-24. DOI: 10.3389/fnut.2026.1909112. 原著ライセンス:CC BY.