著者の所属・活動拠点の国は、イギリスです。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

急性腎障害(AKI)は、腎臓の働きが短期間で急に低下する状態です。死亡リスクの上昇、入院の長期化、医療費の増加と関連し、慢性腎臓病などにつながることもあります。過度の飲酒はAKIの原因の一つとされてきました。ただしこれまでは、飲酒による肝臓病が先に起こり、それが間接的に腎臓を傷めるという見方が一般的でした。

一方、動物や培養細胞を用いた研究では、アルコールが腎臓でも分解され、その過程で酸化ストレスや炎症が起こり、腎臓を直接傷つける可能性が示されています。この炎症には、白血球の一種である好中球の集まりも関わるとされます。そこで研究チームは、肝臓病の影響を考慮したうえで、飲酒とAKIの関連が見られるかを一般の人々のデータで調べました。その際、蒸留酒、ビール、赤ワイン、白ワインを区別して分析しました。

何をどのように調べたか

研究チームは、英国の大規模健康調査「UKバイオバンク」のデータを使いました。この調査には、2006〜2010年に40〜69歳で参加した人々が含まれます。研究チームは、このうち現在お酒を飲んでいて、過去にAKIを起こしたことがない25万791人を分析しました。

参加者は、参加時に酒の種類ごとの週あたりの飲酒量を回答しています。研究チームはこれを純アルコール量に換算しました。単位は英国式の「ユニット」で、1ユニットは純アルコール10ミリリットルにあたります。あわせて、参加時の血液検査で、体内の炎症の程度を示すC反応性タンパク(CRP)と好中球の数も調べました。

その後、医療記録をもとに、中央値で14.0年にわたってAKIの発症を追跡しました。分析では、性別、年齢、肥満度、血圧、糖尿病、喫煙、身体活動、地域の経済状況、服薬状況などの影響を統計的に差し引きました。さらに、肝臓病の影響を加えて調整する分析や、肝臓病のある人を除いた分析も行いました。

主な結果

追跡期間中に1万335人(4.1%)がAKIを発症しました。飲酒量を連続的な量として扱い、さまざまな要因を調整して分析したところ、蒸留酒とビールの飲酒量はAKIのリスク上昇と関連していました。発症リスクの比を表すハザード比は、蒸留酒で1.40、ビールで1.24でした。一方、赤ワイン(0.96)と白ワイン(1.06)では、はっきりした関連は見られませんでした。

研究チームは、飲酒量の少ない順に参加者を3つのグループに分けた比較も行いました。肝臓病も含めて調整すると、蒸留酒を最も多く飲むグループ(平均で週8.73ユニット)は、最も少ないグループ(平均で週1.22ユニット)よりAKIのリスクが25.5%高くなっていました。ビールでは、最も多く飲むグループ(平均で週23.60ユニット)のリスクが、最も少ないグループ(平均で週2.67ユニット)より14.8%高くなっていました。赤ワインと白ワインでは、こうした傾向は見られませんでした。

週14ユニット以下の飲酒に限ると、蒸留酒ではリスク上昇との関連が見られました。ビールではこの関連は見られませんでした。週14ユニットを超える飲酒では、4種類すべての酒でAKIのリスク上昇と関連していました。これらの結果は、肝臓病を追加で調整しても、肝臓病のある人を除いても、おおむね変わりませんでした。

炎症の指標にも違いが見られました。蒸留酒やビールの飲酒量が多いグループほど、CRPと好中球数が高い傾向にありました。赤ワインや白ワインの飲酒量が多いグループほど、逆にこれらが低い傾向にありました。CRPと好中球数が高いこと自体もAKIのリスク上昇と関連していました。さらに統計的な分析では、蒸留酒やビールとAKIとの関連の強さが、これらの炎症の指標の値によって異なることが示されました。

研究が示すこと

著者らは、蒸留酒とビールによる飲酒が、肝臓病とは独立してAKIのリスク上昇と関連していたと結論づけています。また、炎症の指標と蒸留酒・ビールとの間に見られた統計的な関係は、アルコールが腎臓に直接作用するという動物・細胞研究の考え方を、人の集団レベルで支持するものだとしています。ワインで関連が見られなかった点について、著者らは、ワインに含まれるポリフェノールの抗酸化・抗炎症作用が関わっている可能性を挙げています。

ただし、この研究は人々を観察して関連を調べたもので、因果関係を直接確かめたものではありません。著者ら自身も、いくつかの限界を挙げています。飲酒量が自己申告であること、参加者が比較的健康な人に偏っている可能性があること、調整しきれていない要因が残りうること、炎症の指標の差がわずかで臨床的な意味ははっきりしないことです。それでもこの研究は、飲酒と腎臓の関係を考えるうえで、肝臓を介する経路だけでなく、酒の種類による違いや炎症との関わりにも目を向ける必要があることを示しています。

原著論文の著者・所属:Rudolph Schutte(Faculty of Health, Medicine and Social Care, Anglia Ruskin University, Chelmsford, CM1 1SQ, UK; Medical Technology Research Centre, Anglia Ruskin University, Chelmsford, UK)、Jufen Zhang(Medical Technology Research Centre, Anglia Ruskin University, Chelmsford, UK; School of Medicine, Faculty of Health, Medicine and Social Care, Anglia Ruskin University, Chelmsford, UK)、Barbara Pierscionek(Faculty of Health, Medicine and Social Care, Anglia Ruskin University, Chelmsford, CM1 1SQ, UK; Medical Technology Research Centre, Anglia Ruskin University, Chelmsford, UK)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rudolph Schutte, Jufen Zhang, Barbara Pierscionek. Alcohol and acute kidney injury—prospective evidence from the UK Biobank in 250,791 alcohol consumers. Scientific Reports 2026-10-20. DOI: 10.1038/s41598-026-76255-9. 原著ライセンス:CC BY.