著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
世界保健機関(WHO)は、認知、移動、心理、活力、感覚(視覚・聴覚)という心身の能力の総体を「内在的能力」と呼び、高齢者の健康を見守る指標としています。論文によると、これまでの研究でも、内在的能力は年齢とともに徐々に低下し、その低下が要介護や死亡の予測につながることが示されてきました。
研究チームは、中年期から高齢期にかけて食事の多様さが保たれていたか、それとも低下したかによって、その後の死亡や内在的能力の低下に違いがあるのかを調べました。あわせて、あらかじめ決めた区分だけでなく、実際の食べ方のパターンをデータから分類した場合にも結果がどう違うのか、また分析上の前提を変えても結果が揺らがないかを確かめることも目的としています。
何を調べたか
分析に使われたのは、中国全国の高齢者を対象とした長期追跡調査「中国高齢者健康長寿縦断調査(CLHLS)」の2008年から2018年までのデータです。65歳以上の約1万6千人が対象となり、追跡期間中に9,359人が亡くなりました。
食事については、魚、豆類、ニンニク、乳製品、ナッツ類、キノコ・海藻、卵、お茶の8種類の食品を取り上げました。それぞれをどのくらいの頻度で食べているかを、2008年時点と、本人が思い出して答えた中年期の2つの時期について点数化しています。研究チームはまず、二つの時期の点数をもとに、参加者を「ずっと高い」「改善した」「悪化した」「ずっと低い」の4グループに分けました。さらに、統計的な手法を使って、実際にどの食品を組み合わせて食べているかという食べ方のパターンを分類しました。
内在的能力は、5つの領域のうちいくつが損なわれているかで評価しました。5領域すべてが保たれていれば5点で、損なわれた領域が増えるほど点数が下がります。調査の各回でこの点数を測り、年あたりの低下の速さを比べました。なお、食事の多様さが保たれていたグループは比較的若く、都市部に住む人や教育歴の長い人、運動習慣のある人が多いなど、ほかの面でも違いがありました。研究チームは、年齢、性別、教育、喫煙、飲酒、運動、持病などを統計的に調整したうえで比較しています。
主な結果
2008年時点の食事の点数が10点高いと、死亡のリスクは約3%低いという関連がみられました。一方、思い出して答えた中年期の点数には、2008年時点の点数とは独立した関連はみられませんでした。ただし著者らは、思い出しには誤差がつきまとうため、高齢期の食事のほうが本質的に重要だと結論づけることはできないと述べています。4つのグループの比較では、「悪化した」グループの死亡リスクが高いという結果が、分析の前提を変えても最も安定していました。一方、「ずっと低い」グループの結果は前提によって変わりやすいものでした。関連の大きさはいずれも控えめで、著者らは大きな効果は見いだせなかったと明記しています。
食べ方のパターンを4つに分類した分析では、多くの食品を幅広く食べる「多様型」に比べて、ほかの3つの型(食品の種類が少ない「乏しい型」、ニンニクと卵中心の「伝統型」、豆・卵・お茶中心の型)はいずれも死亡リスクが約8〜12%高くなっていました。ニンニクと卵は食べていても幅の狭い「伝統型」では、内在的能力の低下が多様型のおよそ4倍の速さでした。2008年時点で5領域すべてが保たれていた人に限ると、2018年までに亡くなった人の割合は、多様型の29.5%に対し、乏しい型では47.7%でした。
パターンを5つに分けた分析では、乏しい型の内在的能力の低下が多様型のおよそ8倍の速さでした。一方、肉や卵を多く食べる型は、死亡でも能力の低下の速さでも多様型と明確な差がありませんでした。著者らはこの結果について、高齢期にはたんぱく質が必要であることと整合し、動物性食品をすべて不利とみなすべきではないことを示すものだと述べています。
一方、能力が保たれていた人が新たに能力の低下を起こすかどうかという点では、死亡を適切に考慮して分析すると、どの食事のグループや型にも、はっきりしたリスクの上昇は残りませんでした。高齢期になってから食事を改善したことだけによる利点についても、結論は出ませんでした。
この研究が示すこと
この研究は観察研究であり、示されたのは関連であって、因果関係ではありません。食事は食べる頻度だけで評価しており、量は考慮していません。また、中年期の食事は本人の記憶に頼っています。著者らはこうした点に加え、中国以外の高齢者に当てはまるかどうかは確認が必要だとしています。
そのうえで研究チームは、特定の食品を単独で食べることよりも、さまざまな食品を日常的に組み合わせて食べる多様な食事が、死亡リスクの低さや内在的能力のゆるやかな低下と最も一貫して結びついていたと報告しています。中年期から高齢期にかけて食事の幅が狭まることは、好ましくない経過と関連していました。高齢者の心身の能力を保つうえで、食事の多様さが着目すべき点となりうることを示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Dejun Cun(Department of Traditional Chinese Medicine, The Third People's Hospital of Yunnan Province)、Guobin Xia(Department of Traditional Chinese Medicine, The Third People's Hospital of Yunnan Province)、Jing Chen(Department of Traditional Chinese Medicine, The Third People's Hospital of Yunnan Province)、Ye Zhang(Department of Traditional Chinese Medicine, The Third People's Hospital of Yunnan Province)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dejun Cun, Guobin Xia, Jing Chen, et al. Dietary deterioration from midlife to late life, intrinsic capacity decline, and mortality: a 10-year CLHLS study. Frontiers in Nutrition 2026-11-02. DOI: 10.3389/fnut.2026.2001769. 原著ライセンス:CC BY.