この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Metabolites

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

運動前に体内のエネルギー源がどれだけ蓄えられているかによって、運動が筋肉に与える負担は変わるのでしょうか。研究チームはこの問いを、持久系の自転車運動を用いて検討しました。

鍵となるのは「グリコーゲン」です。これは糖が連なった形で肝臓や筋肉に蓄えられているエネルギーの貯金にあたるもので、運動を続けると減っていきます。近年は、この貯金をあえて減らした状態でトレーニングする方法が注目されてきました。一晩絶食してから運動する方法や、1日に2回の練習を短い休憩だけを挟んで行い、2回目を貯金の減った状態で実施する方法などです。

ただし論文によれば、こうしたやり方が脂肪の利用を促すかどうかは調べられてきた一方で、筋肉そのものを傷めたり炎症を起こしたりしないかについては研究が不足していました。そこで研究チームは、運動前のエネルギー availability の違いが、筋damageと炎症の指標にどう表れるかを急性の反応として観察することを目的としました。対象には、有酸素系と無酸素系のエネルギーを交互に使い、ラマダン期間には絶食しながら練習・試合を行うこともあるサッカー選手が適していると論文は述べています。

どのように調べたか

参加したのは地域のアマチュアリーグで実際に競技しているトレーニング経験5年以上の男子サッカー選手で、1名が途中で離脱し、最終的に平均年齢19.91歳の11名で研究が完了しました。参加者は1週間おきに3回、大学の施設を訪れています。

1週目は身体組成と有酸素能力の測定にあて、最大酸素摂取量(VO2max、運動中に体が取り込める酸素の最大量で持久力の目安となる指標)の70%にあたる負荷を、その後の運動セッションの強度として設定しました。

2週目は10〜12時間の一晩絶食(FST条件)を行ったうえで、まず60分の自転車運動を実施します。この時点では肝臓のグリコーゲンは減っているものの、体全体の貯蔵はまだ保たれています。その後60分間あおむけで休み、今度は体のグリコーゲンも部分的に減った状態で、2回目の60分運動を行いました。3週目は比較のため、運動の2時間前に液状の食事を摂った状態(PPD条件)で、貯蔵が満たされた状態での60分運動を1回だけ実施しています。FST条件では味と量を合わせたプラセボ飲料が用いられ、前夜の食事内容も標準化されました。

各運動の前後に採血を行い、筋damageの指標とされるクレアチンキナーゼ(CK)と乳酸脱水素酵素(LDH)、炎症の指標となるインターロイキン6(IL-6)、さらに乳酸と血糖が測定されました。CKとLDHは筋細胞の中にある物質で、細胞膜が傷つくと血液中に漏れ出すため、その量が筋damageの手がかりになります。

報告された主な結果

研究チームが最も注目すべき所見として挙げたのは、絶食条件での2回目の運動、つまりグリコーゲンが減った状態で行った運動の後に、CK、LDH、IL-6のいずれもが有意に増加したことです。CKは運動前の279.36 U/Lから運動後は335.63 U/Lへ、LDHは178.72 U/Lから208.09 U/Lへ上昇したと報告されています。

これに対し、食事を摂ってから1回だけ運動を行ったPPD条件では、CKとLDHに有意な変化は見られませんでした。また1回目の運動の後だけを比べると、絶食条件と食事条件のあいだにCK・LDH・IL-6の有意差はなく、60分1回の運動にとどまるかぎり、グリコーゲンの状態はこれらの値に影響しなかったと論文は述べています。

IL-6については、絶食条件で運動前の2.60 pg/mLから1回目の運動後に4.52 pg/mLへ上昇し、2回目の運動後には8.69 pg/mLと最も高い値に達しました。IL-6は運動中に骨格筋から分泌され、炎症の指標であると同時に、肝臓からの糖の放出や脂肪の分解にも関わる物質です。血糖値については、絶食条件でも運動を通じておおむね維持されており、有意な変化は認められませんでした。乳酸は運動のたびに上がり休憩で下がるという動きを示し、この強度では無酸素性作業閾値を超えていないと研究チームは解釈しています。

研究チームはこれらの結果を、グリコーゲンを減らした状態での2回目の運動が、筋damageと炎症反応の面でより大きな代謝ストレスをもたらすことを示すものだと位置づけています。ただし採血は運動直後に行われたため、CKの上昇は回復期にさらに大きくなり、筋damageの実際の程度は数時間後により明確になる可能性があるとも述べています。

この研究が示すこと

エネルギーの貯金が減った状態でのトレーニングは、筋肉の適応を促す方法として関心を集めてきました。しかしこの研究は、同じ強度・同じ時間の運動であっても、直前のグリコーゲンの状態によって筋肉が受ける負担が変わりうることを、血液中の指標という形で具体的に示しています。

運動の内容だけでなく、その運動を「どんなエネルギー状態で始めるか」が、体に生じる反応を左右する。研究チームの報告は、トレーニングと栄養摂取を切り離さずに考える必要があることを浮かび上がらせています。

著者:Serdar Şerare(Sivas E Type Closed and Open Penal Institution, General Directorate of Prisons and Detention Houses, Ministry of Justice, Ankara 06659, Türkiye)、Serkan Paçacı(Erzincan Mustafa Dogan Anatolian High School, Ministry of National Education, Ankara 06640, Türkiye)、Necip ARMAN(Van Nene Hatun Girls’ Vocational and Technical Anatolian High School, Ministry of National Education, Ankara 06640, Türkiye)、Ahmet Karadağ(Department of Physical Medicine and Rehabilitation, Faculty of Medicine, Sivas Cumhuriyet University, Sivas 58140, Türkiye)、Anıl Şahin(Department of Cardiology, Faculty of Medicine, Sivas Cumhuriyet University, Sivas 58140, Türkiye)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Serdar Şerare, Serkan Paçacı, Necip ARMAN, et al. The Effects of Different Dietary and Glycogen-Loaded Two-a-Day Training Approaches on Muscle Damage and Inflammatory Markers for Enhancing Metabolic Efficiency. Metabolites 2026-09-13. DOI: 10.3390/metabo16090674. 原著ライセンス:CC BY.