著者の所属・活動拠点の国は、ガーナ、ドイツです。
掲載誌:International Journal For Multidisciplinary Research
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
PK戦の失敗は気持ちの問題だけか
サッカーの大会では、90分で決着がつかないと30分の延長戦を行い、それでも同点ならPK戦で勝敗を決めることがあります。PKは本来キッカーに有利とされますが、実際には多くの選手が失敗しています。その理由はこれまで、主にプレッシャーや緊張、不安といった心理面から説明されることが多く、120分間走り続けた後の体の状態はあまり注目されてきませんでした。
研究チームによると、筋肉に蓄えられた糖(グリコーゲン)は試合中にエネルギー源として使われ、通常の90分の試合だけでも大きく減ることが知られています。さらに30分プレーすれば疲労はいっそう強まると考えられます。そこで著者らは、120分の試合で生じる疲労を食事や補給で和らげた場合、その後のPKでキックの正確さが保たれるかを調べました。
20人の選手で120分の試合を再現
研究には、ガーナの国内トップリーグでプレーする男性フィールドプレーヤー20人(平均年齢約19歳、平均競技歴約9年)が参加しました。選手は10人ずつ、補給を受けるグループと受けないグループに分けられました。研究デザインは、完全な無作為化比較試験ではなく、それに近い形で介入の効果を比べる「準実験」と呼ばれる方法です。
両グループとも、試合の3時間前に米、油を使ったトマトシチュー、魚からなるガーナの伝統的な食事をとりました。補給グループは、ブドウ糖と果糖を半分ずつ含む電解質飲料を体重1キログラムあたり1.2グラムの量で用意し、試合開始前、2回の給水休憩、ハーフタイム、90分の時点に分けて飲みました。もう一方のグループは代わりに水を飲みました。試合は平均気温約33度の午後に行われました。
試合の前後には、指先からとった血液で血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)を測り、全般的な疲れの程度を質問票による自己評価で調べました。キックの正確さは、木製の的を狙うテストと、ゴールキーパーを置いたPKで評価しました。PKは動画に記録し、ゴールの枠を75の区画に分け、選手が狙ったと答えた位置と実際にボールが入った位置を比べて採点しました。
水だけのグループで正確さが低下
試合後の血糖値は、補給グループと水のグループの間に統計的に意味のある差がありました。水のグループでは試合前後で血糖値が大きく変化しており、著者らはこれを長時間の激しいプレーで糖が使い果たされた結果と解釈しています。補給グループでも試合前後の変化は認められましたが、著者らは補給が糖の減少を抑えたとみています。
疲れの自己評価では、水のグループは試合後に疲労が有意に高まった一方、補給グループでは試合前後で意味のある差はみられませんでした。試合後の疲労の程度も、両グループの間で差がありました。
キックの正確さでも同様の傾向が報告されました。水のグループでは、的を狙うテストでもPKでも、試合後の正確さが試合前と比べて有意に変化しました。一方、補給グループでは試合前後で意味のある差はみられず、試合後の正確さは両グループの間で差がありました。
体の疲れもPKの成否に関わる
著者らは、120分の試合後にPKの正確さが落ちるのは心理的な要因だけでなく、長時間の運動による体の変化と疲労も関係していると結論づけています。そして、ブドウ糖と果糖を含む電解質飲料による補給が血糖値の維持と疲労の軽減を通じて、PK戦でのキックの正確さを保つことに役立った可能性があると述べています。
この結果をもとに、論文は延長戦が予想される大会で、指導者やスタッフが今回用いた量の補給を取り入れることを提案しています。20人という小規模な研究ではありますが、PK戦を勝ち抜くには精神面だけでなく試合中の栄養補給も視野に入れるべきだという視点を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Timothy Mensah(Sports Directorate , Kwame Nkrumah University of Science and Technology , Kumasi , Ghana)、Monday Moses(Department of Physiotherapy and Sports Science , Faculty of Allied Health Science , College of Health Sciences , Kwame Nkrumah University of Science and Technology , Kumasi , Ghana)、Elvis Hagan Jr.(Neurocognition and Action -Biomechanics Research Group , Faculty of Psychology and Sport Sciences , Bielefeld University , Bielefeld , Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Timothy Mensah, Monday Moses, Elvis Hagan Jr. Effect Of Fatigue Mitigation On Kicking Precision During Penalty Shootout In Soccer. International Journal For Multidisciplinary Research 2026-08-14. DOI: 10.36948/ijfmr.2026.v08i04.85340. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。