著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。

掲載誌:Osmaniye Korkut Ata Üniversitesi Fen Bilimleri Enstitüsü Dergisi

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜダイダイの皮に注目したのか

ダイダイ(学名 Citrus aurantium L.、英語ではビターオレンジやセビリアオレンジとも呼ばれる)は、強い苦味と酸味をもつかんきつ類です。生で食べられることは少なく、ほかのかんきつ類を接ぎ木する台木や、ペクチン、クエン酸、果皮油などの原料として使われてきました。果実の重さの30〜50%を皮が占めますが、その多くは農業・食品加工のごみとして捨てられています。

この論文は、新しい実験を行った研究ではなく、これまでに発表された研究を整理した総説です。著者は、ダイダイ、とくに皮に含まれる成分や健康にかかわる性質を整理し、伝統的な使い方と現代の機能性食品や料理への応用を結びつけることを目的としています。あわせて、捨てられている皮を資源として生かす必要性と、動物実験や試験管内の結果を人の健康に当てはめるには限界があることも示そうとしています。

論文の説明によると、著者はScopus、Web of Science、Google Scholarを使い、1999〜2025年に発表された英語とトルコ語の研究論文、総説、学位論文を探しました。重複を除き、題名と要旨で選別したうえで全文を確認し、成分、生物学的な作用、抽出方法、技術的な応用を報告した研究を取り上げています。とくに最近10年ほどの研究を重視したとしています。

皮に含まれる多様な成分

総説によると、ダイダイの成分の種類や量は、産地、栽培の季節、収穫の時期によって大きく変わります。かんきつ類の皮では、熟すにつれてポリフェノール類が減る傾向があります。一方で、香りにかかわる揮発性の成分の多くは熟す過程で増えていくと紹介されています。

ダイダイの主な有効成分は、植物に広く含まれるポリフェノールの一群であるフラボノイドです。なかでもフラバノンと呼ばれるグループが最も多く、代表的なヘスペレチンとナリンゲニンはおもに皮に集まっていると整理されています。次に多いのがアピゲニンやルテオリンなどのフラボン類で、ケンフェロールやケルセチンなどのフラボノール類は少量含まれるとされています。かんきつの苦味のもとになるリモノイド類、アルカロイドの一種であるシネフリンも、ダイダイの特徴的な成分として取り上げられています。

皮そのものの組成については、既存の報告を引用し、ペクチンを最大42.5%、糖を16.9%、セルロースを9.21%、ヘミセルロースを10.5%含むと紹介しています。ペクチンはジャムを固める働きなどで知られる食物繊維です。ほかのかんきつ類と比べ、ダイダイの皮はペクチンと精油が豊富とされ、精油の含有量は0.1〜1.7%です。精油に含まれる香りの主成分はリモネンで、総説では皮の精油を構成する多数の香り成分とその香りの特徴も整理されています。

報告されている作用と安全上の注意

これまでの研究では、ダイダイやその成分に抗酸化、抗炎症、抗菌などの作用が報告されています。ただし著者は、その多くが動物や試験管内の実験に基づいていると述べています。がんや変性疾患の予防にかかわる役割については、人を対象にした臨床試験による確認が必要だとしています。

人を対象にした研究の例として、骨髄の検査を受ける慢性骨髄性白血病の患者がダイダイの精油を吸入したところ、不安の指標が下がったという報告が紹介されています。一方で、リスクについての指摘もあります。シネフリンやオクトパミンは血圧の上昇や不整脈につながるおそれがあると報告されています。また、ダイダイの煎じ液は免疫抑制薬シクロスポリンの血中濃度を高め、中毒を起こす可能性があるとされます。そのため、治療や食事に使う際には注意が必要だと著者は述べています。

食文化から資源利用へ

総説は、地中海地域の食文化におけるダイダイの位置づけにも触れています。皮はほろ苦いマーマレードに加工され、皮や果汁は肉や魚のマリネやソースに使われてきました。グラン・マルニエやキュラソーといったリキュールにも、皮の香り成分が生かされています。花から作るオレンジフラワーウォーターは菓子や飲み物の香り付けに使われ、花は婚礼などで縁起物にもなってきました。近年は、シェフやバーテンダーが伝統食材として見直しているとも紹介されています。

産業での活用については、これまでの研究をもとに幅広い可能性が示されています。食品分野では、成分を包み込んで保護する材料、抗菌剤、添加物、安定剤、プレバイオティクスとしての利用が挙げられています。そのほか、医薬品や化粧品の原料、生物肥料や汚染物質の吸着材、バイオ炭などの環境分野、エタノールやメタン、水素といったエネルギーの生産も候補とされています。一方で著者は、ポリフェノールやフラボノイドを効率よく安く取り出す抽出方法の改良、体内でどの程度吸収・利用されるかの評価、実用的な製品づくりにはまだ課題が残ると指摘しています。

この総説から伝わるのは、ダイダイの皮が「ごみ」ではなく、多様な成分を含む未活用の資源だという見方です。同時に、報告されている健康への作用の多くはまだ人で確かめられておらず、安全面の注意も必要です。皮の価値を生かすには、その可能性と現時点での限界の両方を踏まえることが大切だと、著者は示しています。

原著論文の著者・所属:Çağla Özbek(TOROS UNIVERSITY)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Çağla Özbek. From Waste to Worth: Functional Potential and Sustainable Contributions of Bitter Orange (Citrus aurantium L.) Peel. Osmaniye Korkut Ata Üniversitesi Fen Bilimleri Enstitüsü Dergisi 2026-09-09. DOI: 10.47495/okufbed.1782278. 原著ライセンス:CC BY.