著者の所属・活動拠点の国は、スロバキア、メキシコ、チュニジア、中国、イタリア、ポーランドです。

掲載誌:Journal of Food Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ルッコラは独特の香りをもつ葉物野菜で、多くは生のまま食べられます。そのため微生物の付着による品質低下が起こりやすく、保存中の衛生状態を保つ方法が求められています。一方で、ルッコラの微生物を保存期間に沿って調べた研究は多くありません。

研究チームが注目したのは、ビターオレンジの日本の品種であるダイダイの花から採った精油です。精油は植物の香り成分が混ざり合ったもので、主成分のリナロールやリモネンには、微生物を抑える作用や虫に対する作用が以前から報告されています。著者らは、この精油の成分を分析したうえで、細菌や酵母に対する作用を試験管内と食品の上で調べ、真空包装と組み合わせた場合にルッコラの冷蔵保存中の微生物数がどう変わるかを検証しました。あわせて、貯蔵中の豆類などを食害する甲虫2種に対する殺虫作用も評価対象としています。

精油の成分と微生物への作用

研究には市販品の1ロットが使われました。成分分析では、リナロールが42.8%と最も多く、次いでリモネン19.9%、酢酸リナリル15.3%で、この3成分で全体の78%を占めました。ネロリ油と呼ばれる系統に典型的な組成だと報告されています。なお、この割合は分析で得られた信号の面積比に基づくおおよその値です。また精油の組成は産地や収穫時期などで変わるため、結果はこのロットについてのものだと著者らは断っています。

精油をしみ込ませた紙片を寒天培地に置き、周囲で微生物が育たない範囲の広さを測る試験では、調べた細菌6種と酵母5種のすべてで生育が抑えられました。抑えられた範囲の直径は7.33〜13.67ミリでした。最も影響を受けやすかったのは黄色ブドウ球菌やリステリア菌などのグラム陽性菌で、カンジダ属の酵母は最も影響を受けにくい結果でした。比較対象の抗菌薬と比べると、その効き目はおよそ25〜45%に相当しました。

液体培地で生育を50%抑える濃度を調べると、1ミリリットル当たり0.29〜6.30ミリグラムと、微生物によって大きな差がありました。寒天培地の試験では最も影響が小さかったカンジダ・アルビカンスが、この試験では最も低い濃度で抑えられました。著者らは、水になじみにくい精油成分は寒天の中を広がりにくく、寒天培地の試験では作用が小さく見積もられる可能性があると説明しています。

さらに、ナシ、モモ、コールラビ、ジャガイモの切片に微生物を付け、精油が揮発した気体だけに触れさせる試験も行われました。どの食品でも、濃度が高いほど微生物の生育を強く抑える傾向が確認されました。最も高い濃度ではコールラビで約69〜94%の抑制がみられるなど、抑制の程度は全体にコールラビで高く、食品の種類によっても効き方が異なっていました。

ルッコラの冷蔵保存実験

保存実験では、市販のルッコラを25グラムずつに分け、「真空包装の有無」と「精油処理の有無」を組み合わせた4つのグループを作りました。精油はルッコラ1グラム当たり1.0ミリグラムとなるよう表面に付け、4℃で14日間保存しました。そのうえで、生きている微生物の総数と、衛生状態の目安とされる大腸菌群の数を調べました。数値は1グラム当たりの菌数を対数で表したものです。

保存14日後、何もしなかったグループでは大腸菌群が3.49、微生物の総数が4.32でした。これに対し、精油を付けて真空包装したグループでは、それぞれ2.23と3.04にとどまりました。時間とともに菌数はすべてのグループで増えましたが、精油と真空包装を組み合わせたグループは、1日目、7日目、14日目のいずれでも最も低い値を示しました。統計解析では、処理の違いと保存日数がそれぞれ菌数に大きく影響していました。一方で4グループの優劣の関係は保存期間を通じて変わらなかったと報告されています。精油だけでも菌数は対照より減りましたが、真空包装と組み合わせたときに効果が最もはっきり現れました。著者らは、真空によって酸素が減り、酸素を好む微生物の増殖が遅くなることと、精油成分の作用が合わさった可能性を挙げています。

ルッコラから分離して培養できた細菌を、たんぱく質の特徴から種を見分ける質量分析の手法で調べたところ、263株が9科、14属、30種に分類されました。約半数(49.4%)をシュードモナス科が占め、次いで腸内細菌科が16.4%でした。種としてはシュードモナス・コレエンシスが最も多く見つかりました。ただし、これは見た目で選んで培養できた菌に限った結果で、ルッコラにすむ微生物の全体像を表すものではないと著者らは説明しています。

この研究が示すこと

この研究は、ダイダイの花の精油が幅広い細菌や酵母の生育を抑え、真空包装と組み合わせると冷蔵中のルッコラで微生物の増加を抑えられたことを報告しています。一方で、見た目や食感、においといった品質はこの研究では評価されていません。そのため著者らは、今回の結果は「保存期間の延長」そのものではなく、「冷蔵保存中の微生物学的な品質の改善」を支持するものだと位置づけています。天然由来の成分と包装方法を組み合わせて、生で食べる葉物野菜の衛生状態を保つという考え方を、具体的なデータで示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Minhang Qiao(Institute of Horticulture, Faculty of Horticulture and Landscape Engineering Slovak University of Agriculture Nitra Slovakia)、Joel Horacio Elizondo‐Luevano(Laboratory of Natural Sciences, Biomolecular Innovation Group, Faculty of Agronomy Universidad Autónoma de Nuevo León Ciudad General Escobedo Nuevo León Mexico)、Anis Ben Hsouna(Department of Environmental Sciences and Nutrition, Higher Institute of Applied Sciences and Technology of Mahdia University of Monastir Monastir Tunisia; Laboratory of Biotechnology and Plant Improvement Centre of Biotechnology of Sfax Sfax Tunisia)、Rania Ben Saad(Laboratory of Biotechnology and Plant Improvement Centre of Biotechnology of Sfax Sfax Tunisia)、Zhaojun Ban(School of Biological and Chemical Engineering, Zhejiang University of Science and Technology, Zhejiang Provincial Key Laboratory of Chemical and Biological Processing Technology of Farm Products Zhejiang Provincial Collaborative Innovation Center of Agricultural Biological Resources Biochemical Manufacturing Hangzhou China)、Li Li(Key Laboratory for Agro‐Products Postharvest Handling of Ministry of Agriculture and Rural Affairs, College of Biosystems Engineering and Food Science Zhejiang University Hangzhou China)、Jian Lou(School of Biological and Chemical Engineering, Zhejiang University of Science and Technology, Zhejiang Provincial Key Laboratory of Chemical and Biological Processing Technology of Farm Products Zhejiang Provincial Collaborative Innovation Center of Agricultural Biological Resources Biochemical Manufacturing Hangzhou China)、Stefania Garzoli(Department of Chemistry and Technologies of Drug Sapienza University Rome Italy)、Miroslava Kačániová(Institute of Horticulture, Faculty of Horticulture and Landscape Engineering Slovak University of Agriculture Nitra Slovakia; School of Medical & Health Sciences VIZJA University Warszawa Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Minhang Qiao, Joel Horacio Elizondo‐Luevano, Anis Ben Hsouna, et al. Daidai Flower Essential Oil as a Multifunctional Natural Agent: Chemical Profile, Antimicrobial Activity, Preliminary Insecticidal Potential, and Improved Microbiological Quality of Fresh Arugula During Refrigerated Storage. Journal of Food Science 2026-08-01. DOI: 10.1111/1750-3841.71413. 原著ライセンス:CC BY.