著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。
掲載誌:Journal of Ethnic Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:好き嫌いだけでは説明できないこと
キムチは、四季のある朝鮮半島で、冬に新鮮な野菜が手に入りにくいことから、野菜を塩漬けにし乳酸発酵させて保存する知恵として育まれてきた食べ物です。晩秋に冬用のキムチを漬けて分け合う「キムジャン」は、2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。決まったレシピはなく、地域ごとに味付けや材料が異なります。
近年、キムチは韓国の外でもスーパーや飲食店で手に入りやすくなり、メディアでも目にする機会が増えました。しかし研究チームは、知名度や入手しやすさだけでは、人々がキムチを普段の食事に取り入れられるかどうかは説明できないと考えました。発酵によって酸味や香り、炭酸のような刺激、食感が変化するキムチは、なじみのない人にとって「いつ、何と、どれくらい食べればよいのか」が分かりにくい食べ物でもあるからです。
そこで著者らは、米国と英国の消費者がキムチをどのような種類の食べ物として捉えているのか、味や香り、文化的な意味をどう受け止めているのか、そして日常の食事に取り入れるうえで何が助けになり、何が妨げになるのかを調べました。
調べ方:性格の異なる4つのグループで話し合ってもらう
研究チームは、2023年8月にオンラインで4つの消費者グループ討論(フォーカスグループ)を行い、米国と英国の計14人が参加しました。フォーカスグループとは、少人数で一つのテーマについて自由に話し合ってもらい、その発言から考え方や意味づけを読み取る調査方法です。参加者は20〜49歳の米国または英国の市民で、韓国系の人や韓国人の配偶者がいる人などは原則として対象外とされました。
米国では、キムチをよく食べ、料理にも使える人のグループと、たまに食べる程度の人のグループに分けました。英国では、キムチを食べたことがある人のグループと、キムチを知ってはいるものの食べたことがない人のグループに分けました。米英でグループの分け方が異なるため、著者らはこの研究を国どうしの違いを比べるものではなく、さまざまな立場を描き出す探索的な調査と位置づけています。
討論では、キムチを知ったきっかけ、初めて食べたときの印象、今の食べ方、健康や発酵についての受け止め方などを話し合ってもらいました。白菜キムチ、水キムチ、きゅうりキムチ、大根キムチの画像や、キムチチャーハン、キムチチゲ、キムチタコスなどの料理の画像も見せましたが、それらへの反応は実際の習慣ではなく「想像上の使い方」として扱われました。発言の記録は、繰り返し読み込んで内容ごとに分類し、テーマとしてまとめる方法で分析されました。
主な結果:「知っている」と「使いこなせる」の間にある差
参加者は、韓国料理店や焼肉、食料品店、家族や友人、メディアなどを通じてキムチに出会っていました。多くの人は「キムチとは何か」だけでなく「食事のどこに置くものか」を理解しようとしていました。英国のある参加者は、調べるまで前菜なのか主菜なのかデザートなのかも分からなかったと語っています。韓国の食べ物だと知っていても、それだけで食事の中での位置づけが分かるわけではありませんでした。
におい、酸味、発酵、辛さ、食感はためらいを生みましたが、越えられない壁ではありませんでした。最初は「腐っているよう」と感じた人もいた一方で、経験を重ねた人は、刺激や酸味を歯ごたえ、新鮮さ、風味の複雑さとともに語っていました。ザワークラウトやコールスロー、チャーハンなど、なじみのある料理に例えることで、経験の少ない人も味の役割を想像しやすくなっていました。
グループ間で最もはっきりした違いは、食事への置き方、組み合わせ、買い方、保存、調理といった実践的な知識にありました。よく食べる米国のグループは、キムチを副菜や調味料、料理の材料、酸味のアクセントとして柔軟に使い、冷蔵の瓶入り商品を傷まないよう容量を選んで買うなど、日常的に使いこなしていました。たまに食べる米国のグループは、画像を見て使い道を想像できても、家で自分で使うことにはためらいを見せていました。英国の食べたことのある人々は、カレーや卵料理の付け合わせなど限られた場面で取り入れていました。英国の未経験者たちは、キムチを拒んでいたのではなく、温かいのか冷たいのか、どう保存するのか、何と合わせるのかといった「使い方の手順」が分からないことが主な壁になっていました。
著者らは、この4つの立場はあくまで分析上の整理であり、個人が順番にたどる段階ではないと述べています。また、グループの分け方そのものが違いに影響しているため、観察された差を米国や英国の消費者全体の特徴とみなすべきではないとしています。
研究が示す意味
この研究では、味の好みや健康イメージ、文化的な認知、試してみたい気持ちだけでは、キムチが日常の食事に取り入れられるかどうかを十分に説明できませんでした。カギとして浮かび上がったのは、どこで買い、どう保存し、どの料理にどう添えるかを知っている「使いこなす知識」でした。酸味は「傷み」ではなく「アクセント」として、発酵は「自然さ」として受け止め直されるなど、味の意味は食事の中での役割が分かることで変わっていました。
著者らは、キムチの発信には文化的な背景だけでなく、保存方法や食べ方、組み合わせといった具体的な情報を添えることが役立つ可能性を指摘しています。ただし、参加者の健康に関する発言は消費者の受け止め方として分析されたもので、健康効果の証拠ではありません。伝統的な食文化は、知られることだけでなく、日々繰り返し使われることで受け継がれていく――この研究は、その「使い方」の知識の大切さを示しています。
原著論文の著者・所属:Chang Hyeon Lee(Science-Culture Convergence Team, World Institute of Kimchi, 86 Kimchi-Ro, Nam-Gu, Jeonnam-Gwangju, 61755, Republic of Korea)、Young Ju Ko(Science-Culture Convergence Team, World Institute of Kimchi, 86 Kimchi-Ro, Nam-Gu, Jeonnam-Gwangju, 61755, Republic of Korea)、Yong Min Kwon(Science-Culture Convergence Team, World Institute of Kimchi, 86 Kimchi-Ro, Nam-Gu, Jeonnam-Gwangju, 61755, Republic of Korea)、Min Ji Song(Science-Culture Convergence Team, World Institute of Kimchi, 86 Kimchi-Ro, Nam-Gu, Jeonnam-Gwangju, 61755, Republic of Korea)、Chae Lin Park(Science-Culture Convergence Team, World Institute of Kimchi, 86 Kimchi-Ro, Nam-Gu, Jeonnam-Gwangju, 61755, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chang Hyeon Lee, Young Ju Ko, Yong Min Kwon, et al. Kimchi as Korean fermented-food heritage in everyday meal practices: a qualitative focus group study in the USA and the UK. Journal of Ethnic Foods 2026-11-02. DOI: 10.1186/s42779-026-00339-0. 原著ライセンス:CC BY.