著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。
掲載誌:Journal of Ethnic Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
減塩キムチの味をどう補うか
キムチは白菜などの野菜を塩漬けし、薬味で味付けして乳酸菌の働きで発酵させる韓国の伝統食品です。塩は野菜から水分を抜き、食感を整え、発酵に関わる微生物が育ちやすい環境をつくるなど、製造に欠かせない役割を担っています。一方で、キムチは日常的に食べられるため、ナトリウム摂取の大きな供給源にもなり得ます。論文が引用する先行報告によれば、市販の白菜キムチには100グラムあたりおよそ534〜783ミリグラムのナトリウムが含まれます。
ただし、単純に塩を減らすと塩味が弱まり、発酵の進み方や食感、風味のバランスも変わるおそれがあります。塩化カリウムなどの代替塩は苦味や金属的な味を生むこともあります。そこで著者らが注目したのが、植物性たん白質を酵素で分解した「加水分解植物たん白(HVP)」です。HVPには遊離アミノ酸や小さなペプチドが含まれ、うま味を与えたり、塩味の感じ方を変えたりする可能性があります。
研究チームは、精米の副産物である米ぬかを原料にしたHVPを減塩キムチに加え、発酵の様子や味わいへの影響を、何も加えない減塩キムチや、ほかの味の調整素材を加えたキムチと比べました。
米ぬかHVPと5種類のキムチ
HVPは、米ぬか粉末と米たん白粉末を3対1で混ぜ、塩水の中で複数の酵素を加えて50℃で10日間分解し、ろ過と加熱処理を経てつくられました。分析の結果、このHVPに含まれる遊離アミノ酸の合計は1リットルあたり3778.97ミリグラムで、なかでもアルギニン(632.28ミリグラム)とグルタミン酸(479.98ミリグラム)が多く含まれていました。グルタミン酸はうま味の代表的な成分であり、アルギニンは塩味の感じ方を変える働きが調べられてきたアミノ酸です。
キムチは5種類が用意されました。海塩2.0%の通常のキムチ、海塩1.0%の減塩キムチ、そして海塩1.0%の減塩キムチに、米ぬかHVP、アルギニン、グルタミン酸ナトリウム(いわゆるうま味調味料)のいずれかを0.5%加えたものです。これらを20℃で2日、続いて10℃で8日間発酵させ、ナトリウム量、酸っぱさの指標となるpHと酸度、乳酸菌や酵母の数、抗酸化性の指標などを調べました。さらに、訓練を受けた13人の評価者が発酵3日目のキムチを食べ比べ、塩味や苦味、歯ごたえ、全体的な好ましさなどを9段階で評価しました。
塩分は減り、塩味と好ましさは保たれた
ナトリウム量は、通常のキムチが100グラムあたり504.45ミリグラムだったのに対し、何も加えない減塩キムチは388.14ミリグラム、米ぬかHVPを加えた減塩キムチは324.06ミリグラムでした。論文は、HVP入りのキムチで通常品に比べ35.8%の低減になったと報告しています。HVPを加えても、何も加えない減塩キムチよりナトリウム量が増えることはありませんでした。
発酵の進み方を見ると、何も加えない減塩キムチは酸っぱくなりやすく、発酵10日目のpHは3.78と最も低く、酸度も通常品の0.81%に対して1.35%に達しました。一方、HVPを加えた減塩キムチは、pHと酸度の変化が通常のキムチに比較的近い経過をたどりました。乳酸菌の数は発酵期間の大半で通常品と同程度かそれ以上に保たれ、最終的な酵母の数は何も加えない減塩キムチより多くはなりませんでした。抗酸化性の指標には、どのキムチの間でも統計的に意味のある差は見られませんでした。
味わいの評価では、塩を半分にした減塩キムチの塩味の点数が6.42から2.69へと大きく下がりました。ところが、同じ1.0%の海塩でも、HVP、アルギニン、グルタミン酸ナトリウムを加えたキムチは、それぞれ7.15、7.38、7.12と、通常品を上回る塩味と評価されました。全体的な好ましさはHVP入りのキムチが8.35で最も高く、苦味が比較的少なく、歯ごたえがよく、やわらかく崩れた食感が最も弱いと評価されました。対照的に、アルギニンを加えたキムチは塩味が最も強く感じられたものの、苦味とやわらかく崩れた食感が強く、好ましさは最も低くなりました。
研究が示すこと
この研究は、塩を減らしたキムチのおいしさが、塩味の強さだけで決まるのではなく、苦味や食感を含めた複数の要素のバランスによって左右されることを示しています。著者らは、米ぬかHVPが減塩キムチの風味を整える素材として可能性をもち、あまり活用されていない米ぬかの有効利用にもつながりうると結論づけています。
なお、論文は、味の評価を発酵の進み具合がそろった時点ではなく同じ発酵日に行ったため、キムチ間の発酵の進み具合の違いが評価結果の一部に影響した可能性があるとも述べています。今回の結果は、この研究で設定した条件のもとでの比較として報告されたものです。
著者:Eun Kyeong Lee(Food Science & Biotechnology Major, School of Natural Sciences, Eulji University, Seongnam-si, 13135, Republic of Korea)、A Hyun Lee(Food Science & Biotechnology Major, School of Natural Sciences, Eulji University, Seongnam-si, 13135, Republic of Korea)、Inkyu Lee(Department of Health, Environment & Safety, Eulji University, Seongnam-si, Gyeonggi-do, 13135, Korea)、Jung Hoan Kim(Food Science & Biotechnology Major, School of Natural Sciences, Eulji University, Seongnam-si, 13135, Republic of Korea)、Younglim Kho(Department of Health, Environment & Safety, Eulji University, Seongnam-si, Gyeonggi-do, 13135, Korea)、Yeong Ji Oh(Food Science & Biotechnology Major, School of Natural Sciences, Eulji University, Seongnam-si, 13135, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eun Kyeong Lee, A Hyun Lee, Inkyu Lee, et al. Rice bran-based hydrolyzed vegetable protein for modulating fermentation and sensory properties of reduced-salt kimchi. Journal of Ethnic Foods 2026-10-14. DOI: 10.1186/s42779-026-00337-2. 原著ライセンス:CC BY.