キムチは発酵食品であるがゆえに、長距離を運ぶあいだにも発酵がじわじわと進んでしまいます。乳酸菌の働きで酸味が強くなりすぎたり、発生したガスで容器が膨張・破裂したりする問題は、海外輸出の現場で長年の悩みの種になってきました。今回紹介する研究は、この課題に対して発想を変えたアプローチを試しています。キムチそのものを完成品として運ぶのではなく、キムチの味を決める『ヤンニョムソース(薬念、和えだれ)』だけを冷凍状態で輸出し、白菜などの食材と合わせる工程は現地で行うという方法です。

この考え方が成立するかどうかを確かめるため、研究チームはヤンニョムソースを−18℃の冷凍と4℃の冷蔵の両条件で24週間保存し、乳酸菌の生存数や糖分、酸度といった発酵の指標がどう変化するかを追跡しました。

冷蔵と冷凍でここまで違う発酵の進み方

まず冷蔵保存(4℃)のソースでは、乳酸菌の数が保存中に急速に増加し、それに伴って還元糖(糖分)の量が減少し、8週間を過ぎたあたりから滴定酸度(酸っぱさの指標)が上昇していくことが確認されました。これは発酵がどんどん進んでしまうことを意味しており、研究チームは冷蔵保存が長期の流通には向かないと結論づけています。

一方、冷凍保存(−18℃)のソースでは、還元糖の減少も滴定酸度の上昇もゆるやかで、発酵の進行が大きく抑えられていました。低温によって乳酸菌の活動そのものが抑制されるためと考えられますが、冷凍によって乳酸菌の生存数自体は徐々に低下していく傾向も見られました。せっかく発酵を止められても、肝心の乳酸菌が死んでしまっては現地でのキムチ作りに支障が出かねません。

凍結保護剤で乳酸菌の『生き残り』を後押し

そこで研究チームは、凍結による乳酸菌へのダメージを和らげる目的で、カラギーナン、イヌリン、トレハロース、マルトデキストリンという4種類の凍結保護剤(食品の冷凍時に微生物や成分を保護する目的で添加される物質)をそれぞれソースに加え、効果を比較しました。

  • トレハロースを加えたソースでは、還元糖の減少と乳酸菌数の低下がともに緩和され、冷凍による乳酸菌へのダメージを抑える効果が見られました。
  • イヌリンとマルトデキストリンを加えたソースでは、逆に発酵が早く進んでしまう傾向が見られました。これらはプレバイオティクス(乳酸菌などの栄養源になりやすい成分)としての性質を持つため、乳酸菌のエサとなって発酵を後押ししてしまった可能性があると考察されており、長期保存には不向きだと位置づけられています。
  • カラギーナンについては、試験したいずれの濃度でも目立った効果は確認されませんでした。

これらの結果を総合し、研究チームはトレハロースを加えたヤンニョムソースであれば、冷凍状態での長期保存・長距離輸送が実現可能ではないかとの見方を示しています。

この研究の位置づけと今後の課題

この研究はソースそのものの保存性を評価したものであり、実際に保存後のソースを使ってキムチを仕上げた場合の味や品質までは検証されていません。研究チーム自身も、保存したソースから作ったキムチの品質評価や、実際の輸出条件を想定した検証が今後の課題であると述べています。したがって、この結果だけで『冷凍ソース輸出が実用化された』と判断するのは早計で、一つの研究として今後の追試や応用研究の進展を見ていく必要があります。

なお、本研究には世界キムチ研究所(産業革新研究本部)、世宗大学校、韓国食品研究院、慶尚国立大学校、建国大学校、江陵原州大学校など韓国の複数の研究機関の研究者が参加しています。

まとめ

キムチの完成品ではなく、味の要となるヤンニョムソースだけを冷凍して運び、現地で仕上げるという発想は、輸送中の過発酵や容器破裂といった課題に対する一つの解決の方向性として示されました。とりわけトレハロースの添加が、冷凍保存中の乳酸菌の生存性と発酵の安定性を保つうえで有望と報告されていますが、これはあくまで保存中のソースの性質を調べた基礎的な研究段階の知見であり、今後さらなる検証が必要とされています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Ye-Won Kim, 이상윤, Sejun Park, et al. Long-term frozen storage of kimchi Yangnyeom sauce: impact of cryoprotectants on microbial viability and fermentation stability. 国際食品特性誌 (2026). DOI: 10.1080/10942912.2026.2720997.