著者の所属・活動拠点の国は、韓国、インドです。
掲載誌:Journal of Microbiology and Biotechnology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
γ-アミノ酪酸(GABA)は、哺乳類の中枢神経系で神経の働きを抑える役割を担う主要な物質の一つで、植物や動物、微生物にも含まれています。食品素材としても関心を集めていますが、多くの食品に自然に含まれる量は少なく、発酵によってGABAを含む食品をつくる方法が有力とされています。乳酸菌の中には、うま味成分として知られるグルタミン酸を、グルタミン酸脱炭酸酵素という酵素の働きでGABAに変えるものがあります。
ただし、同じ種類の乳酸菌でも、菌株の由来や与える糖・窒素源、グルタミン酸の量などによってGABAの生産量は変わります。そのため、新しく見つけた菌株ごとに、適した培地(菌を育てる栄養液)の条件を調べる必要があります。研究チームは、韓国の苦味のある野菜コドゥルペギ(韓国の苦菜)でつくるキムチからGABAを生産する乳酸菌を探し出して種を特定し、培地成分の種類と濃度を絞り込むことを目的としました。著者らは、これを今後、複数の条件を同時に最適化するための予備的な土台と位置づけています。
菌の分離と種の特定
研究チームは、白菜キムチ、コドゥルペギキムチ、若大根キムチ、トンチミ(水キムチ)を材料に、グルタミン酸を加えた培地で乳酸菌を増やし、酸をつくる菌を選び出しました。続いて、薄層クロマトグラフィー(成分を板の上で分離して見分ける方法)でGABAの生成を調べ、コドゥルペギキムチ由来で特にはっきりとGABAの反応を示した菌株を選び、FBL-3と名付けました。
FBL-3は、長さ1.5〜2.0マイクロメートルの棒状の細胞で、グラム陽性、カタラーゼ陰性、酸を生成するといった乳酸菌に典型的な性質を示しました。どの糖を利用できるかを調べる検査ではレビラクトバチルス・ブレビス(Levilactobacillus brevis)と99.1%の類似度を示し、さらに遺伝子の塩基配列(16S rRNA遺伝子)を比べたところ、この種の基準となる株と100%一致しました。これらの結果を合わせて、研究チームはこの菌をL. brevis FBL-3と同定しました。
培地成分とGABA生産の関係
研究チームは、一度に一つの栄養成分だけを変え、菌の増え方(乾燥させた菌体の重さ)とGABAの量を比べました。培養は37℃で48時間、培養中のpH調整は行わない条件です。まず8種類の糖を比べたところ、キシロース、果糖、ブドウ糖、麦芽糖で比較的多くのGABAが得られ、キシロースが菌の増殖とGABA量の両方で最もよい結果となりました(果糖との差はわずかでした)。一方、乳糖、デンプン、ショ糖は、糖を加えない場合とほぼ同じ結果で、この条件では利用されていないと考えられました。キシロースの濃度を変えると、1リットル当たり10グラムでGABAが最も多くなり、それより多く加えると増殖もGABA量も徐々に減りました。
次に、酵母エキスや肉エキスなど8種類の窒素を含む素材を同じ重さずつ加えて比べると、酵母エキスが最も多くの菌体とGABAをもたらしました。ただし著者らは、素材ごとに窒素の量や含まれるビタミン、ペプチドなどが異なるため、この結果を窒素の量だけの効果とは解釈できないと注意しています。酵母エキスの濃度は1リットル当たり10〜50グラムの範囲でGABA量に統計的な差がみられず、研究チームは、平均値が最も高かった50グラムに近いGABA量を、より少ない量で得られる20グラムを以後の実験に用いました。
最後に、GABAの原料となるグルタミン酸の濃度を変えました。菌が最もよく増えたのは1リットル当たり10グラムのときでしたが、GABAが最も多くなったのは50グラム加えたときで、48時間後に1リットル当たり約19.6グラムのGABAが得られました。これは1時間当たり平均約0.41グラムの生産速度、加えたグルタミン酸に対する見かけの変換率は約56%に相当すると報告されています。なお、GABAの量は薄層クロマトグラフィーの画像解析による推定値であり、著者らは、より精密な分析法(HPLC)による確認が必要だとしています。
研究が示すこと
著者らは、FBL-3の意義を、GABA生産がこの種に特有だという点ではなく、コドゥルペギキムチという由来と、糖・窒素源・グルタミン酸濃度に対する反応を一つの培養手順のもとで具体的に示した点にあると述べています。得られたGABA量は、高度に最適化された他の生産工程には及ばないものの、食品から新たに分離した乳酸菌が、pHを制御しない簡単な培養でも測定可能な量のGABAをつくることを示しました。伝統的な発酵食品が、GABAをつくる乳酸菌の供給源になりうることを改めて示す結果といえます。
原著論文の著者・所属:Eun-Ju Jang(Department of Food Science and Technology, Yeungnam University, Gyeongsan 38541, Republic of Korea)、Veeranjaneya Reddy Lebaka(Department of Microbiology, Yogi Vemana University, Kadapa, AP 516005, India)、Young-Min Kim(Department of Food Science & Technology, Chonnam National University, Gwangju 61186, Republic of Korea)、Young‐Jung Wee(Department of Food Science and Technology, Yeungnam University, Gyeongsan 38541, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eun-Ju Jang, Veeranjaneya Reddy Lebaka, Young-Min Kim, et al. Isolation and Characterization of Levilactobacillus brevis FBL-3 from Godeulppaegi Kimchi and Screening of Medium Components for γ-Aminobutyric Acid Production. Journal of Microbiology and Biotechnology 2026-09-22. DOI: 10.4014/jmb.2608.08011. 原著ライセンス:CC BY.