キムチは発酵食品として世界的にも知られていますが、実は「ヤンニョム」と呼ばれる合わせ調味料(キムチソース)の質が、出来上がるキムチの品質を大きく左右します。ソースを事前にまとめて作り、必要なときに白菜と混ぜて仕込めれば、製造や流通の効率が上がりそうです。ただし、ソースを長期間保存する場合、冷蔵と冷凍のどちらが適しているのか、また冷凍する場合にソースの品質をどう保つのかは、あまり詳しく調べられてこなかったテーマのようです。今回紹介する研究は、こうした「キムチソースの長期保存」に焦点を当て、凍結保護剤を使うことで品質を保てるかどうかを検証したものです。

研究では、カラギーナン(Car)またはトレハロース(Tre)という凍結保護剤を加えたキムチソースと、何も加えていないソースを用意し、それぞれを冷蔵(4℃)または冷凍(−18℃)の条件で最長24週間保存しました。そして保存期間の節目ごとに、新たに塩漬けした白菜(15%の食塩水で7時間浸漬)とソースを混ぜてキムチを作り、4℃で発酵させながら品質を分析するという方法がとられました。

研究でわかったこと

キムチの発酵度合いを示す指標として、酸の量を示す「滴定酸度」と「pH」が調べられています。滴定酸度については、保存期間が4週間までのキムチはすべて、熟成に適したとされる目安の範囲(0.7〜0.9%)を下回っていました。一方でpHについては、保存12週間を過ぎるとすべてのキムチで最適熟成の目安(pH4.2〜4.5)を下回る結果になったと報告されています。

興味深いのは8週目の結果で、カラギーナン入りソースを冷蔵保存したもの(CarR)、トレハロース入りソースを冷蔵保存したもの(TreR)、そしてトレハロース入りソースを冷凍保存したもの(TreF)の3つが、pHと滴定酸度の両方を同時に見たときに最適な熟成状態に近づいていたということです。

また、還元糖(発酵の進み具合に関わる糖の一種)の濃度を比較したところ、トレハロース入りソースを冷凍保存したTreFがもっとも高い値を示し、これは統計的にも有意な差だったとされています。逆に、凍結保護剤を加えていない対照群と、カラギーナン群のキムチは還元糖濃度が低めだったと報告されています。

微生物の面では、一般生菌数や乳酸菌数はどのキムチも典型的なキムチ発酵の傾向を示し、ソースの種類による大きな違いは見られなかったとのことです。これらの結果から、この研究では、トレハウロースを加えたキムチソースを冷凍保存することが、長期流通の間の発酵安定性を保つのに役立つ可能性が示唆されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この記事で紹介した内容は、あくまで今回の実験条件(特定の凍結保護剤の種類や濃度、保存温度、保存期間、キムチの作り方など)のもとで得られた結果です。キムチソースの冷凍保存が発酵の質にどう影響するかを示す一つの研究であり、これだけで「トレハロースを使えば必ず品質が保たれる」といった結論が確定したわけではありません。実際の製造・流通の現場での応用可能性については、さらなる検証が必要と考えられます。

まとめ

今回紹介した研究では、キムチソースを長期保存する際に、トレハロースという凍結保護剤を加えたうえで冷凍保存することが、その後のキムチ発酵の安定性維持に役立つ可能性が示唆されました。普段何気なく口にしているキムチも、ソースの保存方法一つで発酵の進み方が変わりうるというのは、発酵食品の奥深さを感じさせる研究結果と言えそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:長期流通中のキムチソース冷凍保存に及ぼす凍結保護剤の効果とキムチ調製への適用可能性(インターナショナル・ジャーナル・オブ・フード・プロパティーズ・2026年12月掲載予定)