著者の所属・活動拠点の国は、エストニアです。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

有機栽培の果物は、健康によく環境にやさしいと受け止められることが多くあります。北欧やバルト諸国では、リンゴは一年の大半を通じて手に入るほぼ唯一の地元産果物で、特に重要な作物です。これまでにも有機栽培と慣行栽培のリンゴを比べた研究はありました。しかし、果実の品質と土壌の生物多様性を一緒に評価した例は限られていました。また、多くは比較的短期間の比較でした。土の生き物や土壌の性質の違いは、同じ管理を何年も続けて初めてはっきり現れることが多いと考えられています。

そこでエストニアの研究チームは、長年それぞれの方式で管理されてきた2つのリンゴ園を比べました。1つは有機栽培の園、もう1つは総合的病害虫管理(IPM)の園です。IPMは、生物的防除や抵抗性品種などの化学的でない方法を優先し、農薬の使用を最小限に抑える考え方で、欧州連合では2014年から義務化されています。研究の目的は、果実の品質と、土壌の生物多様性やそれに関わる土の性質について、両者の違いを明らかにすることでした。

どのように調べたか

調査は2022年から2024年にかけて、エストニア南部のポッリ園芸研究センターで行われました。2つの園は約300メートル離れており、土壌の種類も同じです。有機栽培園は2008年、IPM園は2010年に開園し、調査開始時点でそれぞれ14年と12年、その方式で管理されてきました。植え付け間隔や台木、仕立て方、下草の管理は共通で、どちらの園でも除草剤は使われていません。

主な違いは病害虫対策と施肥です。IPM園では、登録済みの合成殺虫剤や殺菌剤が使われました。有機栽培園では、有機生産で認められた資材で害虫を防除し、殺菌剤は使っていません。肥料はIPM園では化学肥料、有機栽培園では鶏ふんを原料とする肥料が使われました。施肥した年の窒素の投入量は、IPM園のほうがかなり多くなっていました。

対象としたのは「カトレ」「クリスタ」「アレシャ」の3品種です。収量、糖度や酸度、ビタミンC、ポリフェノールやアントシアニン(赤い色素)、果肉の硬さ、果皮の色、果実のミネラルを測りました。土については化学的性質を調べ、ミミズとトビムシ(土の中にすむ小さな節足動物)の数と種類を調べました。なお、2023年は5月の厳しい霜で収穫がまったくなく、果実の品質評価は行われていません。収量は2022年のみ評価されています。

果実についての主な結果

2022年の収量は、3品種のうち「カトレ」と「アレシャ」でIPM園のほうが多くなりました。総収量だけでなく、生食用として出荷できる果実の量もIPM園が上回りました。一方、収穫した果実のうち生食用に回せる割合は、2つの園の間で一貫した差はみられませんでした。「アレシャ」だけは、有機栽培園のほうがこの割合が低い結果でした。

果皮の色を3品種の平均で比べると、有機栽培園のリンゴのほうが暗く、色が濃く鮮やかでした。果肉の硬さには、どの品種・どの年でも園による差はありませんでした。果実に含まれる窒素はIPM園の果実で多く、リン(P)は有機栽培園の果実で多い傾向がありました。

甘さや酸味などの味に関わる性質や、抗酸化成分の違いは、品種や年によって変わりました。栽培方式と一貫して結びついてはいなかったと論文は報告しています。ポリフェノールが2年とも有機栽培園で多かったのは「カトレ」だけでした。また「アレシャ」は、どちらの園で育ってもポリフェノールとアントシアニンが最も多くなりました。著者らは、栽培方式よりも品種そのものの性質が大きく影響していると指摘しています。

土の生き物についての結果と、その意味

土壌では、有機栽培園のほうがpHが高く、リン(P)とカルシウム(Ca)も多くなっていました。ミミズの総数はIPM園のほうが多い結果でした。ただし有機栽培園では「アネシック」と呼ばれるタイプのミミズの割合が高く、特にアポレクトデア・ロンガという種が目立ちました。アネシックとは、地中深くまで縦穴を掘り、地表の落ち葉などを取り込んで暮らすミミズのグループです。トビムシの数には、2つの園の間で統計的に有意な差はみられませんでした。

研究チームは、長期間の有機栽培園の環境は、生態的に重要なミミズのグループにとってより好ましい条件であったと考えています。しかもそれは、果実の内部品質に一貫した影響を与えることなく実現していたといいます。一方で、収量は品種によってIPM園のほうが多くなりました。この研究は、同じ地域で長く続けられてきた2つの管理方式を比べたものです。その結果、果実の品質と土の生き物とでは、栽培方式との結びつき方が異なる様子が示されました。

原著論文の著者・所属:Ulvi Moor(Chair of Horticulture, Institute of Agricultural and Environmental Sciences, Estonian University of Life Sciences)、Annely Kuu(Chair of Soil Science, Institute of Agricultural and Environmental Sciences, Estonian University of Life Sciences)、Kersti Kahu(Polli Horticultural Research Centre, Chair of Horticulture, Institute of Agricultural and Environmental Sciences, Estonian University of Life Sciences)、Priit Põldma(Chair of Horticulture, Institute of Agricultural and Environmental Sciences, Estonian University of Life Sciences)、Reelika Rätsep(Chair of Horticulture, Institute of Agricultural and Environmental Sciences, Estonian University of Life Sciences; Polli Horticultural Research Centre, Chair of Horticulture, Institute of Agricultural and Environmental Sciences, Estonian University of Life Sciences)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ulvi Moor, Annely Kuu, Kersti Kahu, et al. Apple quality and soil biological diversity in long-term organic and IPM apple orchards. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-21. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1943487. 原著ライセンス:CC BY.