この研究は、フィリピンの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Journal of Academe and Industry Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ内陸の養魚池に目を向けたのか

水産養殖は世界の食料供給と地域経済を支える柱のひとつになりつつある一方で、水質の悪化や気候に関わる負荷など、さまざまな環境の問題にさらされています。著者らは、フィリピンにおけるこれまでの養殖研究が沿岸部や大規模な生産地帯に集中してきたことを指摘し、内陸部の養魚池がほとんど調べられてこなかったと述べています。

そこで研究チームは、災害の影響を受けやすいキリノ州を対象に、内陸の小規模な養魚池の経営者が日頃どのような管理を行い、環境の乱れにどう備え、どう対応しているのかを実地のデータとして把握することを目的に掲げました。研究の枠組みとしては「社会生態的レジリエンス」の考え方が用いられています。これは、環境が変化しても人や仕組みが大事な機能を保ち続ける力を指す見方で、ここでは対処の仕方を三つに分けて整理しています。混乱が起きる前に備える「予防的」な対応、状況の変化に合わせてその場で調整する「適応的」な対応、そして長い時間をかけてやり方や技術そのものを変えていく「変革的」な対応です。

誰に、何を尋ねたか

調査に協力したのは、キリノ州で養魚池を営む小規模経営者100人です。池の所有者または管理者であること、養魚池の経営経験が1年以上あること、降雨や水源の汚染といった気候に関わる出来事の影響を受けた経験があることを条件に選ばれました。著者ら自身、この選び方は調査地の外へ結果を広げるには向かないと断っています。

回答者の多くは男性(86%)で、年齢は36〜45歳が最も多くなっていました。経営歴が5年未満の人が54%を占め、養魚池からの月収が5,000ペソ未満という人も35%いました。資金はほぼ personal savings、つまり自己資金に頼っており(89%)、池の形式は土池の半集約型がほぼすべて(97%)。自治体などから技術的な支援を受けている人が68%いた一方、まったく受けていないと答えた人も32%いました。

調査は、専門家による確認と予備調査を経た質問票を使い、池の準備・放養と育成・収獲と収獲後といった各段階の管理の実施状況、三種類のレジリエンス対応の実践度、そして環境の乱れをどの程度経験しているかを尋ねる形で行われました。集計には平均値のほか、グループ間の違いを調べる検定と、順位に基づく相関の分析が用いられています。

報告された主な結果

まず管理の面では、池の準備から収獲後に至るすべての段階で、経営者が基本的な作業を一貫して行っていると報告されています。池をしっかり干すことや水源の確認、稚魚を水に慣らしてから放すこと、健康な種苗を選ぶことなどが、とくに高い実施度を示しました。

レジリエンス対応については、予防的なものと適応的なものは日常的に実践されている一方、変革的なものはそれらより実践の頻度が低いという結果でした。実際に多く挙がったのは、季節ごとの作業計画を立てる、環境の変化に強い魚種を使う、別の水源や曝気を利用する、給餌の時間帯を調整するといった、手元の資源の範囲でできる工夫です。逆に、研究機関や専門家との連携は最も実践されていない対応でした。

環境の乱れについては、経営者が強い経験を報告しています。強風や台風、豪雨と洪水といった気候に関わる出来事、水がよどんだり排水がうまくいかなかったりすることに伴う水質・土壌の問題、そして収益の低下や渇水期の水不足といった経営面への影響が、いずれも高い水準で挙げられました。

性別、年齢、学歴、経営年数、収入、組合への加入の有無、池の規模や生産方式といった属性でグループを分けて比べても、管理の実施状況やレジリエンス対応に統計的に意味のある違いは見られませんでした(いずれもp>0.05)。相関の分析では、環境の乱れと一部のレジリエンス対応との間に統計的に意味のある関係が見つかりましたが、いずれも弱いものでした。たとえば適応的な対応は、水質・土壌の乱れと弱い逆向きの関係(ρ=−0.209、p=0.037)を示しています。著者らは、この研究が一時点を切り取った相関の調査であるため、これらは関連であって因果を示すものではないと明記しています。一方、池の準備や収獲後の作業と環境の乱れとの間には意味のある関係が見られず、こうした日常の手順は環境の困難があってもおおむね一定に保たれていたと解釈されています。

この調査が示すこと

著者らは、100人という規模、一時点の設計、自己申告のデータという制約から、結果をそのまま広く一般化することはできないと述べています。そのうえで結論として、キリノ州の養魚池経営者は日々の管理を着実に続け、手持ちの資源でできる備えと調整によって環境の乱れに向き合っているものの、やり方そのものを長期的に作り替えるような対応には手が届きにくい状況がうかがえる、と整理しています。

属性による違いが見られなかったことから、著者らは、特定の層だけを対象にした施策よりも、経営者に共通する制約に応える支援のほうが役立ちうると論じています。具体的には、技術的な助言、共同で使える機材、手の届く価格の資材、資金を調達する手段などが挙げられ、それらは内陸の養魚池の実情に合わせて設計されるべきだとしています。ほとんど調べられてこなかった内陸の小規模養殖について、現場からの手がかりを示したところに、この研究の意味があります。

著者:Resty Gumuwang(Wesleyan University-Philippines)、Ali Mamaclay(Wesleyan University-Philippines)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Resty Gumuwang, Ali Mamaclay. Farm management practices and resilience strategies among fishpond operations in the Province of Quirino facing environmental disruption. International Journal of Academe and Industry Research 2026-09-15. DOI: 10.53378/ijair.353382. 原著ライセンス:CC BY.