この研究は、サウジアラビア、アメリカ、台湾、イギリス、クウェートの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Bioengineering and Biotechnology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

コショウ(Piper nigrum L.)は世界で広く使われる香辛料であり、同時に生物活性をもつ植物成分の供給源でもあります。著者らによると、コショウの辛味や価値は「オレオレジン」と呼ばれる油状の抽出物、アルカロイドのピペリン、精油といった成分に支えられています。オレオレジンとは、コショウの粉末から有機溶媒で取り出される粘り気のある成分のことで、香りと辛味を併せ持ち、食品加工の分野で利用されています。

論文は、黒コショウの成分についてはこれまで多くの研究があるものの、黒コショウと白コショウのメタノール抽出オレオレジンを、収率・成分分析・抗酸化活性・抗菌活性・物理化学的性質という複数の観点から直接比べた研究は限られていると述べています。そこで研究チームは、同一の抽出法を用いて両者を同じ条件で比較することを目的としました。

どのように調べたか

研究チームは乾燥させた黒コショウ約500 gを粉砕し、溶媒としてメタノールを用いてソックスレー抽出装置で成分を取り出しました。ソックスレー抽出とは、溶媒を循環させながら固体試料から成分を繰り返し抽出する古典的な手法です。論文では、複数の抽出技術を比較した先行研究で、この方法が総合的に良好な結果を示したと報告されていることを選択理由に挙げています。白コショウについても同じ手順で抽出が行われました。

得られた抽出物について、著者らは四つの評価を行いました。第一に、試料の重量に対する抽出物の重量の割合として収率を算出しました。第二に、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で成分の種類と構成比を調べました。これは混合物を成分ごとに分け、それぞれの質量の情報から物質を同定する分析法で、同定はNIST(米国国立標準技術研究所)のデータベースとの照合によって行われました。第三に、DPPHラジカル消去試験で抗酸化活性を測定しました。DPPHは安定した状態を保つ活性の高い分子で、抗酸化物質から水素を受け取ると紫色から黄色へ変化するため、その色の変化量から活性を数値化できます。第四に、寒天平板に穴を開けて抽出物を入れ、その周囲に細菌が生育しない領域(阻止円)がどれだけ広がるかを測る方法で、抗菌活性を調べました。対象としたのはグラム陽性菌の Bacillus subtilis と Staphylococcus aureus、グラム陰性菌の Escherichia coli の3株です。あわせて、水分・灰分・タンパク質・脂質・繊維・炭水化物といった一般成分の分析も実施されました。すべての実験は3回繰り返して行われたと報告されています。

報告された主な結果

オレオレジンの収率は、黒コショウが4.2%、白コショウが3.2%でした。著者らは黒コショウのオレオレジン量のほうが多かったと述べています。

GC-MS分析では、アルカロイド、テルペノイド、脂肪酸、ステロールなど多様な成分が検出されました。黒コショウのオレオレジンでは、ピペリンが8.54%を占める主要成分の一つとして同定され、そのほかモノテルペンのチモールやセスキテルペンのカリオフィレン、オレイン酸なども見つかっています。一方、白コショウではステロールに分類されるコレスタ-3,5-ジエンが28.67%と最も多く、インドールアルカロイドのヨヒンビンが12.27%検出されました。論文は、両者のオレオレジンに含まれる総アルカロイド量はおよそ35%であったと報告しています。

抗酸化活性については、濃度50 μg/mLの条件で、黒コショウ抽出物が86.80%、白コショウ抽出物が87.62%のDPPHラジカル消去率を示しました。著者らは、濃度が高くなるにつれて阻害率も上昇したと述べ、この高い活性の背景としてピペリンやフェノール性化合物、テルペノイド成分の関与が考えられると考察しています。

抗菌活性では、グラム陽性菌の Bacillus subtilis に対する作用が最も強く、阻止円の大きさは黒コショウ抽出物で20 mm、白コショウ抽出物で16 mmでした。Staphylococcus aureus に対する阻止円は最も小さかったと報告されています。著者らは、Bacillus subtilis に対して活性が高かった理由として、抽出物に含まれるアルカロイドやテルペノイドが細菌の膜の構造を乱す働きに関係している可能性を挙げています。一般成分の分析では、黒コショウのほうが水分(9.93%)と灰分(13.1%)が多く、白コショウのほうがタンパク質(10.11%)が多いという違いが見られました。

この研究が示すこと

同じ抽出法を使って並べて比べたことで、黒コショウと白コショウは、どちらも高い抗酸化活性を示す一方で、取り出せるオレオレジンの量や中心となる成分の種類が異なることが明らかになりました。黒コショウではアルカロイドのピペリンが主要成分となり、白コショウではステロールが最も多い成分群となる、という対比です。

著者らは、両方のオレオレジンが生物活性をもつ植物成分の豊富な供給源であり、天然由来の抗酸化・抗菌成分として利用できる可能性を示すものだと結論づけています。同時に、個々の活性成分を単離した検討や生体内での調査が今後必要だとも述べています。香辛料としてなじみ深い素材が、化学的に見ると異なる顔を持っていることを、比較という手法が浮かび上がらせた研究といえます。

著者:Shaimaa A. M. Abdelmohsen(Department of Physics, College of Science, Princess Nourah bint Abdulrahman University)、Arooj Anees(Department of Chemistry, School of Science, University of Management and Technology)、Mohsin Javed(Department of Chemistry, School of Science, University of Management and Technology)、Sana Mansoor(Department of Chemistry, School of Science, University of Management and Technology)、Misbah Umar(Department of Chemistry, University of Engineering and Technology)、Urooj Fatima(Department of Chemistry, School of Science, University of Management and Technology)、Zafar Iqbal(Senior Scientific Officer, Applied Chemistry Research Centre, PCSIR Laboratories Complex)、Muhammad Faizan(Department of Chemical and Materials Engineering, Chang Gung University)、Chi-Hsien Liu(Department of Chemical and Materials Engineering, Chang Gung University)、Syed Kashif Ali(Department of Physical Sciences, Chemistry Division, College of Science, Jazan University)、Shahid Iqbal(Department of Chemical and Environmental Engineering, University of Nottingham)、Sajid Mahmood(Department of Mathematics and Natural Sciences, Gulf University for Science and Technology)、Meznah M. Alanazi(Department of Physics, College of Science, Princess Nourah bint Abdulrahman University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shaimaa A. M. Abdelmohsen, Arooj Anees, Mohsin Javed, et al. Comparative evaluation of methanolic extracts from black pepper varieties: yield, GC-MS characterization, and antioxidant and antibacterial activities. Frontiers in Bioengineering and Biotechnology 2026-09-25. DOI: 10.3389/fbioe.2026.1845332. 原著ライセンス:CC BY.