日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Gastronomy
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
食べ物の食感は、おいしさや製品の品質を左右する大切な要素です。焼き菓子やスナック菓子では、軽く砕けるような食感や、硬く噛み砕くような食感が、新鮮さや食べる楽しさと深く結びついています。そのため、機械で測った値と人の感じ方を結びつける客観的な方法は、食品の設計や品質管理に役立つとされています。
これまでの研究では、機械で測った値と人が感じる食感との間に「関連がある」ことは報告されてきました。しかし、二つの値の相関を一組ずつ見るだけでは、ある特徴が食感に直接関わっているのか、それとも別の特徴を通じて間接的に関わっているだけなのかを区別できません。
著者らは、データから変数どうしの影響の向きを推定する「因果探索」という統計手法に着目しました。その一つであるDirectLiNGAMを用いて、食品の物理的な特徴と「サクサク」「カリカリ」という二つの食感の感じ方との間の、向きを持った統計的な関係を明らかにできるかを調べることが、この研究の目的です。論文では、サクサクは比較的小さな力で簡単に割れる食感、カリカリはより硬く、力強く割れる食感と定義されています。
何をどのように調べたか
研究チームは二種類の試料を用意しました。一つは、小麦粉・卵・無塩バター・白砂糖で作った手作りのクッキーです。バター、卵、小麦粉の量は固定し、砂糖の量だけを変えて硬さの異なる複数のクッキーを焼きました。もう一つは、構造の多様な市販スナック菓子9種類です。
機械による測定には、くさび形の先端で食品を押しつぶす磁気式の食感センサーを使いました。試料を高さの80%まで2回押しつぶし、そのときにかかる力の変化から、硬さ、もろさ、付着力、付着性、凝集性、弾力性、ガム性という7つの特徴を計算しました。
人による評価では、参加者が目を閉じた状態で試料を食べ、サクサクとカリカリの強さを0から100の目盛りで評価しました。目を閉じたのは、見た目による先入観を避けるためです。
分析では、まず相関を調べたうえで、DirectLiNGAMを適用しました。この手法は、データの性質に関する一定の仮定のもとで、どの変数がどの変数に直接影響しているかを矢印の形で推定します。その際、「人の感じ方が物理的な特徴を変える」という不自然な向きはあらかじめ除外しました。さらに、データを繰り返し抜き出し直して1000回分析し、推定された矢印がどの程度安定して現れるかを確かめました。また、人の評価と機械の測定は別々の試料で行われていたため、両者の組み合わせ方を同じ試料グループ内でランダムに変えて1000回分析し、結果が組み合わせ方に左右されないかも検討しました。
主な結果
手作りクッキーでは、砂糖が多いほどサクサクの評価は低く、カリカリの評価は高くなりました。物理的な特徴では、硬さ、もろさ、ガム性が砂糖の量とともに高くなる傾向が見られました。相関分析では、ガム性がサクサクと負の、カリカリと正の強い相関を示し(相関係数はそれぞれ−0.73と0.72)、硬さも同様に比較的強い相関を示しました(−0.69と0.68)。
一方、物理的な特徴どうしにも強い相関があり、相関だけでは直接の関係と間接的な関係を区別できないことも示されました。そこでDirectLiNGAMで全ての変数を同時に考慮して分析したところ、クッキーでは硬さともろさが、サクサクとカリカリの両方に直接関わる要因として推定されました。この二つの矢印は、1000回の繰り返し分析のすべてで現れ、評価と測定の組み合わせ方を変えた分析でも安定して現れました。
市販スナック菓子では、関係の構造がより複雑になりました。カリカリについては、もろさと付着力が1000回すべてで、硬さが964回で直接の要因として現れました。これに対してサクサクについては、凝集性やガム性が比較的多く現れ、硬さともろさの出現回数は少なくなりました。著者らは、市販品が配合だけでなく形や内部構造、すき間の多さ、水分量、製法、割れ方などの点でも大きく異なることが、こうした違いの背景にあると考えています。
研究から分かること
この研究は、因果探索が相関分析を補い、複数の物理的な特徴の関係を同時に考慮しながら、向きを持った統計的な関係を推定できることを示しました。特に、条件をそろえたクッキーでは、硬さともろさがサクサクとカリカリの感じ方に安定して結びつく指標として浮かび上がりました。
ただし著者らは、推定された関係は確定した因果関係ではなく、探索的な統計上の仮説として扱うべきだとしています。その理由として、手法の前提となるデータの性質が一部の変数でしか確認されなかったこと、人の評価と機械の測定が別々の試料で行われたこと、ガム性が硬さと凝集性から計算される値であること、2回目の押しつぶしに基づく特徴は1回目で割れた破片の状態を反映している可能性があることなどを挙げています。食感という人の感覚と機械の測定値を結ぶ一つの見方を示した、探索的な研究といえます。
原著論文の著者・所属:Yuichiro Kawasaki(Graduate School of System Informatics, Kobe University, Kobe 6578501, Japan)、Hiroyuki Nakamoto(Graduate School of System Informatics, Kobe University, Kobe 6578501, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yuichiro Kawasaki, Hiroyuki Nakamoto. Causal Discovery Between Physical Features of Foods and Texture Perception. Gastronomy 2026-09-03. DOI: 10.3390/gastronomy4030019. 原著ライセンス:CC BY.