この研究は、マレーシア、バングラデシュの研究機関の研究論文です。
掲載誌:MicrobiologyOpen
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
複数の抗菌薬が効かなくなった細菌(多剤耐性菌)の増加は、食品の安全性、とくに食品の保存という面で大きな課題になっています。著者らは、こうした状況に対して、食品の発酵などに用いられる乳酸菌が手がかりになりうると位置づけています。乳酸菌は抗菌物質(AMS)やバクテリオシン様阻害物質(BLIS、細菌がつくるタンパク質性の抗菌成分に似た物質)を通じて多剤耐性菌を抑えることで、プロバイオティクスとして評価されているためです。
そこで研究チームは、5株の乳酸菌について、プロバイオティクスとしての性質と、抗菌物質を産生する能力を評価することを目的としました。対象となったのは、ラクチプランチバチルス・プランタルム NBRC 3070(LP)、ラクトバチルス・アシドフィルス ATCC 4356(LA)、ラクチカゼイバチルス・カゼイ ATCC 393(LC)、ラクチカゼイバチルス・ラムノサス GG ATCC 53103(LGG)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクチス ATCC 27673(BAL)の5株です。
何をどう調べたか
抗菌物質は、菌を取り除いた培養液(無細胞上清)を中性に調整し、濃縮したうえで抽出されました。中性に戻すのは、乳酸菌がつくる酸そのものの影響と、酸以外の抗菌成分のはたらきを分けて見るための処理です。こうして得た抽出物について、食品由来の代表的な病原菌に対する抗菌活性を、最小阻害濃度(MIC、菌の増殖を抑えるのに必要な最小の濃度)を用いて調べています。
プロバイオティクスとしての性質の評価には、菌の表面疎水性(細胞表面が水になじみにくい度合い)や凝集能といった指標が用いられました。また、抗菌物質の性質を確かめるため、酵素に対する感受性の試験も行われています。抗菌活性については、温度と培養時間を変えた条件での活性も報告されています。
報告された主な結果
著者らの報告によると、5株すべてが病原菌に対する拮抗作用(増殖を抑えるはたらき)を示し、なかでもLPの拮抗作用が最も強かったとされています。抗菌薬への耐性については、4株が複数の抗菌薬に耐性を示しながらもアジスロマイシンとテトラサイクリンには感受性を保っていた一方、LPは試験したすべての抗菌薬に耐性を示したと報告されています。
プロバイオティクスとしての潜在能力は、細胞表面疎水性と凝集能に基づくと、LPとLCが最も高いと評価されました。抗菌物質の活性が最適となったのは、37℃では24〜36時間、30℃では28〜48時間の範囲で、その活性は85.36〜91.29%と報告されています。また、LGGは抗菌物質の活性が最も高く、サルモネラ・エンテリカ セロバー・ティフィムリウムに対するMICが最も低かったとされています。酵素に対する感受性の試験からは、LP、LA、LC、LGGの4株が産生する阻害物質がペプチド(タンパク質を構成する成分がつながったもの)性であることが確認されました。
この研究が示すこと
著者らは結論として、これら乳酸菌株が顕著なプロバイオティクス特性を示し、抗菌物質、とくに4株についてはBLISを産生する能力をもつこと、なかでもLPとLCが最も有望であるとまとめています。そして、これらの知見は多剤耐性菌に対する天然の生物的保存手段としての応用を支持するものとしつつ、実際の食品系におけるさらなる検証が必要だとも述べています。
つまりこの研究は、乳酸菌の抗菌成分の性質と、それが最もよくはたらく培養条件を実験室レベルで整理し、株によって強みが異なることを示したものと読めます。食品の保存を考えるうえで、どの株のどの性質に着目すべきかという出発点を与える報告といえるでしょう。
著者:Md. Moklesur Rahman(Halal Products Research Institute Universiti Putra Malaysia UPM Serdang Selangor Malaysia)、A. Q. Sazili(Faculty of Agriculture Universiti Putra Malaysia UPM Serdang Selangor Malaysia)、Siti Aqlima Ahmad(Faculty of Biotechnology and Bimolecular Science Universiti Putra Malaysia UPM Serdang Selangor Malaysia)、Khalilah Abdul Khalil(Faculty of Applied Sciences Universiti Teknologi MARA Shah Alam Selangor Malaysia)、Mohammad Rashedi Ismail‐Fitry(Faculty of Food Science and Technology Universiti Putra Malaysia UPM Serdang Selangor Malaysia)、M. S. K. Sarker(Poultry Research Center Bangladesh Livestock Research Institute (BLRI) Savar Dhaka Bangladesh)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Md. Moklesur Rahman, A. Q. Sazili, Siti Aqlima Ahmad, et al. Evaluation of Probiotic Properties and Antimicrobial Substances Produced by Five Lactic Acid Bacteria Against Foodborne and Spoilage Pathogens. MicrobiologyOpen 2026-09-25. DOI: 10.1002/mbo3.70052. 原著ライセンス:CC BY.