この研究は、ナイジェリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Path of Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

食肉処理場(屠畜場)では、血液や胃の内容物、糞などを洗い流すために大量の水が使われ、そこから出る排水は環境汚染の大きな原因になります。論文の著者らは、ナイジェリアの多くの食肉処理場では排水処理の設備や運用が整っておらず、未処理の排水がそのまま土壌や水域へ流れ込んでいると指摘しています。従来の処理方法としては物理的・化学的・生物学的な手法がありますが、著者らは化学物質による毒性やコストの高さといった難点を挙げています。

そこで研究チームは、新しい選択肢として「バクテリオシン」に注目しました。バクテリオシンとは、細菌がリボソームで合成してつくり出す抗菌性のペプチド(短いタンパク質のような分子)で、ほかの細菌の増殖を抑えたり殺したりする働きをもちます。なかでも乳酸菌がつくるバクテリオシンは、食品や飼料、廃棄物の中の汚染菌を抑える用途で関心を集めてきました。この研究の目的は、乳酸菌が産生するバクテリオシンが、食肉処理場の排水から分離した細菌をどれくらい抑えられるかを調べることです。

何をどのように調べたか

研究チームはまず、ナイジェリア・アビア州ウムアヒアのウバカラ食肉処理場から排水を採取し、複数の培地を使って細菌を分離しました。分離した菌は、顕微鏡での形の観察やグラム染色、運動性の確認、各種の生化学的な試験によって種類を判定しています。

一方、抗菌物質をつくる側の乳酸菌は、同じ地域で得た発酵食品(フフとオギ)やキャッサバ・トウモロコシの加工工場から出る排液から分離しました。形態や生化学的な性質で候補を絞り込んだうえで、排水由来の細菌をよく抑えた株については16S rRNA遺伝子の塩基配列を読み、データベースと照合して種を確認しています。

バクテリオシンは、選んだ乳酸菌を液体培地で培養し、菌体を除いた培養液から硫酸アンモニウムによる沈殿とカラムクロマトグラフィー(成分を分離・精製する手法)などを重ねて精製しました。得られた抽出物の抗菌力は、寒天培地に穴を開けて試料を入れ、その周囲にできる増殖の抑えられた範囲(阻止円)の直径を測る「寒天ウェル拡散法」で評価しています。さらに、pH(4〜9)、温度(40〜100℃)、37℃での保存時間(96時間まで)を変えたときに活性がどう変わるかも調べ、結果は分散分析などで統計的に比較しました。

報告された主な結果

排水から分離・同定された細菌は、大腸菌(Escherichia coli)、Enterobacter aerogenes、Klebsiella oxytoca、サルモネラ属、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、セレウス菌(Bacillus cereus)でした。著者らは、これらの病原性細菌が見つかった背景として、食肉処理場で大量の有機性廃棄物が発生することを挙げています。

発酵食品由来の乳酸菌のうち、排水由来の細菌をはっきり抑えた2株は、遺伝子解析によりLactobacillus plantarum B19とLactobacillus fermentum HB3-3と同定されました。精製したバクテリオシンを大腸菌、黄色ブドウ球菌、Enterobacter aerogenesの3種に対して試したところ、どちらのバクテリオシンも黄色ブドウ球菌に対して最も強い抑制を示し、阻止円はL. plantarum由来で16 mm、L. fermentum由来で15 mmと報告されています。

条件を変えた試験では、いずれのバクテリオシンもpHが上がるほど活性が下がり、pH 4で最も高い活性を示しました。温度については、試した範囲のうち40℃で最も活性が高く、80〜100℃では活性が最も低くなりました。また37℃で保存した場合、活性は開始時点(0時間)が最も高く、保存時間が長くなるにつれて低下しました。これらの差はいずれも統計的に有意(P=0.05)と報告されています。

この研究が示すこと

著者らは、乳酸菌がつくるバクテリオシンが食肉処理場排水から分離された細菌の増殖を有意に抑えたことから、バクテリオシンが排水処理の代替的なアプローチになりうると述べています。抗菌物質をつくる乳酸菌が発酵食品の排液から得られた点についても、廃棄物を有用なものに変える可能性を示すものとして位置づけています。

同時にこの研究は、調査した食肉処理場では排水処理がまったく行われていないという現状も明らかにしました。排水に病原性細菌が含まれ、しかも抗生物質への耐性が広がりつつあることを踏まえると、排水を通じた病原体の拡散を抑える管理の重要性が浮かび上がります。試験管レベルで示された抗菌活性が、pHや温度、保存時間に左右されるという観察も、この物質を扱う際に押さえておくべき性質として報告されています。

著者:Chidiebere Anab-Atulomah(Michael Okpara University of Agriculture)、Ejikeme Nwachukwu(Michael Okpara University of Agriculture)、Vincent Chukuemeka Eze(Michael Okpara University of Agriculture)、Ezinne Geraldine Uwanu-Mecha(Michael Okpara University of Agriculture)、Kanu Vivian Nwanyibueze(Michael Okpara University of Agriculture)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chidiebere Anab-Atulomah, Ejikeme Nwachukwu, Vincent Chukuemeka Eze, et al. Antimicrobial Activity of Bacteriocins Produced by Lactic Acid Bacteria Against Bacteria Isolated From Abattoir Wastewater. Path of Science 2026-08-31. DOI: 10.22178/pos.133-2. 原著ライセンス:CC BY.