この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
タチウオ(Trichiurus haumela)は中国で漁獲量・加工量ともに多い魚で、生食のほかに魚肉だんごや魚肉ソーセージ、カニ風味かまぼこといった「すり身製品」へ加工されます。こうした製品の品質は、魚肉のたんぱく質(筋原線維たんぱく質)が加熱によって網目状に固まる力、すなわちゲル形成能に大きく左右されます。研究チームによれば、タチウオの筋原線維たんぱく質はもともとゲルになりにくく、強く安定した網目構造ができにくいため、製品の質が伸び悩み、資源の活用が制限されてきました。
そこで著者らが着目したのが、乾燥カボチャ粉末(Cucurbita moschata、以下DPP)です。DPPは主にセルロース、ヘミセルロース、ペクチン、リグニンからなり、多孔質の構造と高い保水性を持つと報告されています。植物由来の食物繊維をすり身に加えて品質を高める試みはこれまでにもありましたが、著者らは、カボチャ粉末をすり身に応用した例はほとんどなく、その作用の仕組みも未解明だと述べています。本研究の狙いは、DPPの最適な添加量を見いだし、すり身ゲルの品質が改善される仕組みを明らかにすることでした。
何をどう調べたか
著者らは冷凍タチウオすり身を解凍し、DPPを0%(対照)、0.4%、0.75%、1.1%、1.5%、1.85%(重量比)の割合で加えて練り、40℃で60分、続いて90℃で35分という二段階加熱でゲル化させました。食塩や水、その他の材料は加えず、変化がDPPの添加量だけに対応するようにしています。
得られたゲルについて、硬さと弾力(弾性)を示すテクスチャー測定、遠心分離による保水力(水を抱え込む力)、加熱時の重量減少を示すクッキングロス、加熱中の粘弾性の変化を追うレオロジー測定、外観の白さ、訓練を受けた12名のパネルによる官能評価(色・におい・味・食感)を行いました。さらに、赤外分光法(FT-IR)でたんぱく質の二次構造(αヘリックスやランダムコイルといった分子の折りたたまれ方)を調べ、走査型電子顕微鏡(SEM)でゲル内部の網目構造と空隙の大きさを観察しています。
報告された主な結果
論文が報告する結果で一貫していたのは、効果が添加量に対して「山なり」だったことです。硬さと弾力はDPP 1.1%で最大となり、それぞれ313.69±2.54 g、0.86±0.004でした。それ以上増やすと、いずれも低下しています。
保水力も1.1%で最大の57.25%に達し、対照群の46.04%に比べて11.21ポイント、率にして約24.3%高い値だったと報告されています。クッキングロスはこれとちょうど逆の動きを示し、1.1%で最も低くなりました。加熱中のレオロジー測定では、すべての試料で弾性的な性質が優勢であり、90℃到達時点で1.1%群の粘弾性が対照群や1.85%群より高かったとされています。
たんぱく質の構造では、対照群のαヘリックス含量が35%と最も高かったのに対し、1.1%添加ではαヘリックスが10%まで減り、代わりに柔軟な構造とされるランダムコイルが36%へと増えていました。著者らは、この秩序だった構造からより柔軟な構造への移行が、加熱時にたんぱく質同士が結びつきやすくなることと関連する可能性を指摘しています。電子顕微鏡でも、1.1%群が最も均一で連続した網目をつくり、空隙の面積と周囲長が最小でした。一方、1.5%以上では空隙が大きく表面が粗い不均一な構造となり、ゲルの質は損なわれました。
外観については、DPPを増やすほど白さは有意に低下しました。著者らはこれをカボチャに含まれるカロテノイド(特にβ-カロテン)由来の黄橙色によるものと説明しています。ただし官能評価の総合点は1.1%群が72.7点で最も高く、においの評点はDPPを増やすほど上がりました。なお著者らは、本研究ではDPP自体の食物繊維組成や水結合特性を測定しておらず、どの成分がどれだけ寄与したかは結論づけられないという限界を明記しています。
この報告が示すこと
著者らは、適量のDPPが「充填材としての働き」「たんぱく質の構造変化」「保水」という三つの経路を通じて協調的に働き、すり身ゲルの品質を高めるという枠組みを提案しています。ただし多ければよいわけではなく、繊維がたんぱく質の網目に収まりきらない量になると、かえって構造を乱します。著者らはこれを、添加量に応じて効果の向きが変わる二相性(山なり)の応答と表現しています。
つまりこの研究が示しているのは、身近で安価な植物素材でも、量を適切に選べばゲルになりにくい魚のすり身の食感や保水を改善しうるという点と、その効果がたんぱく質の分子レベルの変化から網目構造、最終的な食感までひと続きにつながって観察されたという点です。素材を加えるという単純な操作の背後で何が起きているのかを、複数の測定で並べて示した報告と言えます。
著者:Feng F(College of Culinary and Food Science Engineering, Sichuan Tourism University, Chengdu 610100, China.; College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)、Yu S(Key Laboratory of Plant Resource Conservation and Germplasm Innovation in Mountainous Region (Ministry of Education), College of Life Science, Guizhou University, Guiyang 550025, China.)、Xu Y(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)、Pang J(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)、Wu C(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Feng F, Yu S, Xu Y, et al. Effects of Dried Pumpkin Powder on the Gel Properties and Protein Structural Characteristics of <i>Trichiurus haumela</i> Surimi. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-21. DOI: 10.3390/foods15183348. 原著ライセンス:CC BY.