著者の所属・活動拠点の国は、タイ、中国、韓国です。
掲載誌:Gels
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
かまぼこやカニ風味かまぼこなどの練り製品は、魚肉(すり身)を加熱して固めることで、あの独特の弾力や歯ごたえを生み出しています。この弾力を支えているのは、魚肉に含まれる筋原線維タンパク質が加熱によって網目状に絡み合う「ゲル化」という現象です。しかし熱帯性の魚は、加熱の途中で自身の酵素がタンパク質を分解してしまい、かえって食感が弱くなる「モドリ現象」が起こりやすいという弱点を抱えています。この現象を抑え、練り製品の品質を保つための添加物として、近年はポリフェノールを含む植物抽出物や、多糖類を含む素材が注目されています。今回紹介する研究は、東南アジアで練り製品の原料として広く使われるイトヨリダイ(Nemipterus属)のすり身を対象に、グアバの葉から得た抽出物とアロエベラ粉末という、性質の異なる2種類の植物由来素材がゲルの物理的な性質にどう影響するかを調べたものです。
グアバ葉抽出物には何が含まれていたか
研究チームはまず、グアバの葉を超音波処理で抽出したのち、緑色の色素であるクロロフィルを除去する処理(脱クロロフィル化)を施した抽出物(DGLE)を用意しました。この抽出物は、乾燥重量1gあたり没食子酸換算で439.35ミリグラムの総フェノール含量、カテキン換算で666.66ミリグラムの総フラボノイド含量を示し、既存の同様の抽出法による報告と近い値でした。研究チームは、この高い含有量は超音波処理による細胞壁の破壊とクロロフィル除去の両方が寄与した可能性があるとしています。さらに質量分析(LC-MS/MS QTOF)によって、エラグ酸、複数のカテキン類、ケンフェロール、クエルセチンおよびその配糖体(ハイペロシド、グアイアベリンなど)を含む12種類のフェノール化合物が暫定的に同定されました。もう一方の素材であるアロエベラ粉末は、アセマンナンと呼ばれる、マンノースとグルコースを主成分とする多糖類を豊富に含む点が特徴とされています。
単独添加と組み合わせで結果が分かれた
すり身にアロエベラ粉末を0.2%加えた場合、無添加の対照区と比べて破断強度が33.61%、変形度が24%それぞれ高くなり、ゲルの硬さ・ガム性・咀嚼性も最も高い値を示しました。一方、グアバ葉抽出物を0.05%加えた場合には破断強度が35.88%、変形度が20.8%上昇し、加えて弾力性(スプリンギネス)と凝集性はこちらの方が高くなりました。どちらの素材も、保水性の指標である「離水量」を最も低く抑える濃度が0.2%(アロエベラ)と0.05%(グアバ葉抽出物)付近にあり、これより濃度を上げるとかえって効果が弱まる傾向が見られました。興味深いのは、この2つを組み合わせた場合の結果です。0.2%のアロエベラ粉末に0.05〜0.2%のグアバ葉抽出物を加えたゲルは対照区より強度は高いものの、グアバ葉抽出物単独で得られる最高値には届きませんでした。研究チームは、多糖類とタンパク質がポリフェノールの結合部位を奪い合う形で複合体を作り、タンパク質同士の架橋を妨げた可能性、また添加の順番(先にアロエベラを混ぜてから抽出物を加えた点)が影響した可能性を挙げています。なお、SDS-PAGE(タンパク質を電気泳動で分離する分析)やFTIR(赤外分光法)による解析では、いずれの添加区でも新たな共有結合が生じたのではなく、水素結合など弱い相互作用を介してゲル構造が補強されていたことが確認されています。レオロジー測定でも、アロエベラ添加区の弾性率(G′、ゲルの硬さに関わる指標)が109,800Paと最も高く、グアバ葉抽出物添加区は96,530Pa、両者の組み合わせは78,680Paにとどまり、対照区の63,310Paをいずれも上回る結果でした。ただし色調については、グアバ葉抽出物の添加量が増えるほどゲルの白色度が下がる傾向があり、研究チームはポリフェノールに由来する黄色味が原因ではないかとしています。
この研究をどう読むか
今回の研究は、著者らの所属機関の情報からは、タイのプリンス・オブ・ソンクラー大学やソンクラー・ラチャパット大学に加え、中国の中国農業大学や浙江海洋大学、韓国の慶熙大学の研究者が名を連ねる国際共同研究であることがわかります。日本の研究機関や日本の食習慣への言及は今回提供された情報には含まれていません。研究自体は、イトヨリダイという特定の魚種のすり身を用いた実験室レベルの検証であり、ヒトが摂取した場合の健康影響を調べたものではない点に注意が必要です。またグアバ葉抽出物とアロエベラ粉末を組み合わせた場合に単独添加より効果が弱まった点について、著者らは添加の順序や素材同士の相互作用が影響した可能性を示唆しつつも、そのメカニズムを完全には解明できていないとしています。
まとめ
この研究では、グアバの葉から得たポリフェノール豊富な抽出物と、アロエベラ由来の多糖類を、それぞれ適切な濃度でイトヨリダイのすり身に加えることで、ゲルの強度や保水性が改善されうることが示されました。特にグアバ葉抽出物は0.05%という低濃度で単独添加した際に最も良好な結果を示した一方、2つの素材を組み合わせた場合はかえって効果が弱まるという、単純な足し算では説明できない結果も得られています。天然由来の添加物によって練り製品の品質を高める可能性を示す知見ですが、あくまで一つの実験研究であり、実際の製品応用や他の魚種への展開については今後の検証が必要です。
原著論文の著者・所属:Staphny Snowy Dsouza(International Center of Excellence in Seafood Science and Innovation (ICE-SSI), Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai 90110, Songkhla, Thailand)、Umesh Patil(International Center of Excellence in Seafood Science and Innovation (ICE-SSI), Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai 90110, Songkhla, Thailand)、Avtar Singh(International Center of Excellence in Seafood Science and Innovation (ICE-SSI), Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai 90110, Songkhla, Thailand)、Natchaphol Buamard(International Center of Excellence in Seafood Science and Innovation (ICE-SSI), Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai 90110, Songkhla, Thailand)、Mallikarjun Chanchi Prashanthkumar(Faculty of Agricultural Technology, Songkhla Rajabhat University, Khao-Rupchang, Muang 90000, Songkhla, Thailand)、Hui Hong(Beijing Laboratory for Food Quality and Safety, College of Food Science and Nutritional Engineering, China Agricultural University, Beijing 100083, China)、Bin Zhang(Key Laboratory of Health Risk Factors for Seafood of Zhejiang Province, College of Food Science and Pharmacy, Zhejiang Ocean University, Zhoushan 316022, China)、Yadong Zhao(Key Laboratory of Health Risk Factors for Seafood of Zhejiang Province, College of Food Science and Pharmacy, Zhejiang Ocean University, Zhoushan 316022, China)、Soottawat Benjakul(Department of Food and Nutrition, Kyung Hee University, Seoul 02447, Republic of Korea)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Staphny Snowy Dsouza, Umesh Patil, Avtar Singh, et al. Effects of Aloe Vera and Guava Leaf Extract on Threadfin Bream Surimi Gel: Physicochemical, Textural and Rheological Properties. ゲルズ (2026). DOI: 10.3390/gels12080728. 原著ライセンス: cc-by.