著者の所属・活動拠点の国は、インドです。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜビタミンB12欠乏に注目したのか

ビタミンB12は、DNAの合成、赤血球をつくる働き、神経を包む被膜(ミエリン)の維持に欠かせない栄養素です。自然界では細菌などの微生物だけが合成でき、人は主に肉、魚、卵、乳といった動物性食品から取り入れます。不足すると、大型の未熟な赤血球が増えるタイプの貧血、末梢神経の障害、認知機能の低下などが起こることがあります。妊娠中の母親のB12が低いことは、胎児の神経管閉鎖障害などとの関連も報告されています。

ビタミンB12欠乏は世界で最も多い微量栄養素の不足の一つとされます。ただし、研究ごとに使う血液検査の指標や「欠乏」と判定する基準値が異なり、国全体を長期にわたって比べられるデータも限られているため、実際の規模はつかみにくい状況です。そこで著者らは、インドの状況を年齢、性別、妊娠などの生理的な状態、食事、地域ごとに整理し、他の地域と比較するとともに、過去50年間に報告された有病率(集団のうち欠乏状態にある人の割合)の移り変わりを検討しました。

どのように資料を集めたか

この論文は、既存の研究をまとめて解説する「ナラティブ・レビュー」と呼ばれる総説です。決められた手順で研究を網羅的に選ぶ系統的レビューとは異なります。著者らは複数の文献データベースで、1966年1月から2026年7月までに発表された英語の論文を検索しました。その際、複数の研究結果を統合したメタ解析、インドの全国栄養調査(CNNS)のように国全体を代表する調査、大規模な多施設研究を優先しました。

採用したのは、血液中のB12総量、ホロトランスコバラミン(細胞に実際に届けられるB12の量を反映する指標)、メチルマロン酸(B12不足で増える物質)のいずれかで欠乏を判定し、その割合を報告した人を対象とする研究です。症例報告や、欠乏の判定基準を明示していない研究は除外しました。

インドでは約半数に欠乏 年齢とともに割合が上昇

著者らによると、複数のメタ解析の統合推計では、インドの人口の約半数(51〜53%)がビタミンB12欠乏とされ、世界でも最も高い水準の一つにあります。年齢層別に報告された割合は、未就学児で約14%、学齢期の子どもで約17%、思春期で31%、成人で48%、高齢者で約62%と、年齢が上がるほど高くなっていました。妊婦では40〜70%と報告されています。子どもや思春期の数値は全国調査に基づき、成人や高齢者の数値はさまざまな基準を用いた研究をまとめた目安です。

国内の地域差も大きく、全国調査では子どもから思春期のどの年齢層でも中部地域の割合が最も高くなっていました。一方で、農村と都市の差は研究によって結果が一致しませんでした。著者らは、住んでいる場所そのものよりも、食事内容や社会経済的な状況のほうがB12の状態に強く関わっているようだと述べています。

欠乏と最も一貫して関連していたのは、乳製品はとるが肉や魚は食べない菜食(ラクト・ベジタリアン)中心の食生活、低い社会経済的地位、高い年齢、女性であることでした。ただし、もとになった研究の多くはある一時点を調べた横断研究です。そのため著者らは、これらは「関連」として読むべきで、原因と結果の関係が確かめられたわけではないと強調しています。

世界全体を見ると、動物性食品を入手しやすい高所得国では欠乏は比較的少なく、北米や欧州の成人では3〜5%程度とされます。これに対し、南アジア、中南米、サハラ以南アフリカでは割合が高くなっていました。ただしアフリカは研究の数が少なく、質の高いデータが不足しています。

50年間続く高い水準と、測り方の課題

インドでは1970年代から現在まで、データのあるどの時期でも高い有病率が報告されてきました。成人・一般集団では40〜55%前後で推移し、過去25年間に明確な減少は見られないといいます。ただし、同じ人々を長期間追跡した調査は存在しません。この傾向は、時期の異なる独立した横断研究をつなぎ合わせて再構成したものであり、著者らもその点に注意を促しています。

研究間で数値がばらつく大きな理由として、著者らは検査指標と基準値が統一されていないことを挙げています。たとえば、健康な若い菜食者を調べたある研究では、血中B12総量で判定すると約半数が欠乏でした。ところが、ホロトランスコバラミンの低値は男性の70%に見られ、B12不足などで上昇するホモシステインの高値は男性の92%に見られました。同じ集団でも、どの指標を使うかによって「欠乏」の割合が大きく変わるのです。また、2024年の健診データでは成人の欠乏割合が24.2%と低めでした。著者らはこれを本当の減少ではなく、より高い血清B12の基準値を用いたことと、比較的裕福で自ら健診を受けに来た都市部の人々という標本の特徴を反映したものと解釈しています。

これらを踏まえ著者らは、インドのビタミンB12欠乏は急速に広がる流行ではなく、大規模で長く続いているのに十分な対策がとられていない慢性的な問題だと結論づけています。そのうえで、血中B12総量と機能的な指標を組み合わせた統一的な診断基準、妊婦・授乳中の女性・思春期・高齢者・厳格な菜食者を対象としたスクリーニング、そして現在の食品強化基準の見直しが必要だと提言しています。食品強化の拡大については、規制の運用や効果・安全性の監視体制などに課題があることも併せて指摘しています。予防も治療も比較的容易な状態であるにもかかわらず、優先度が低いままにされてきた点が、この総説から伝わる大きなメッセージです。

著者:Gurudayal Singh Toteja(Jamia Hamdard University)、Nishant Toteja(Department of Pediatrics, Hamdard Institute of Medical Sciences and Research, New Delhi, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gurudayal Singh Toteja, Nishant Toteja. Vitamin B12 deficiency: epidemiological trends and risk factors. Frontiers in Nutrition 2026-10-16. DOI: 10.3389/fnut.2026.1930037. 原著ライセンス:CC BY.