著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
パンは世界中で日常的に食べられている主食です。精製した白い小麦粉のパンには、ふすま(外皮)や胚芽がほとんど含まれていません。これらの部分には、食物繊維やミネラル、ポリフェノールが多く含まれています。そこで、外皮ごと挽いた全粒粉が注目されており、特にアントシアニンという色素を含む「黒小麦」が有望視されています。ただし著者らによると、全粒の黒小麦をパンに使うと、外皮の粒子や水に溶けない繊維がグルテンのつながりを妨げます。その結果、パンが膨らみにくく、中身が硬くなりやすいという課題があります。
研究チームが着目したのは、ツイリ(刺梨、学名ロサ・ロクスブルギー)という果実です。中国南西部の雲南・貴州高原に自生し、実にはとげがあります。ビタミンCやポリフェノールなどを多く含みますが、酸味と渋みが強いため、そのまま食べられることは多くありません。著者らは以前の研究で、この果実を2種類の微生物で発酵させるとγ-アミノ酪酸(GABA)が増えることを確かめていました。本研究の目的は、この発酵果実を、白小麦と全粒黒小麦を半分ずつ混ぜたパンに加えたときの影響を調べることです。対象としたのは、生地の性質、パンの栄養・機能性成分、そしてパンの品質です。
何を調べたか
研究チームは、乾燥したツイリ果実を粉にして水と混ぜ、ピューレにしました。発酵は二段階で行いました。まず、空気のある条件で枯草菌(バチルス・サブチリス)を24時間働かせました。次に容器を密閉し、GABAを作る乳酸菌(ラクチプランチバチルス・プランタルム)で48時間発酵させました。発酵中には、GABAの材料となるグルタミン酸ナトリウムなども加えています。著者らは二つの菌の役割分担を想定しています。枯草菌は植物の成分を分解する酵素を出し、乳酸菌は酸やGABAを作るという考え方です。
比較したパンは4種類です。白小麦だけのパン、白小麦のパンに発酵ツイリを加えたもの、白小麦と全粒黒小麦を50対50で混ぜたパン、そしてそのブレンドに発酵ツイリを加えたものです。発酵ツイリの量は、粉の重さの30%に当たる量としました。生地については、酸性度、粘りや弾力、酵素の働きを測りました。焼いたパンについては、食物繊維、GABA、ポリフェノール類の量、試験管内での抗酸化の働き、膨らみ具合、硬さを調べました。
主な結果
発酵ツイリを加えると、生地は弱い酸性になりました。たとえば白小麦生地のpHは5.84から5.02に下がりました。酵素の働きは、焼く前に生地を発酵させる工程(ホイロ)の前後で比べました。結果は酵素ごとに異なりました。β-グルコシダーゼの活性は、4種類すべての生地で有意に上昇しました。発酵ツイリを含まない白小麦生地でも、ほかの生地と同じくらい上がっています。このため著者らは、この上昇の多くは発酵ツイリ以外の要因、たとえば小麦や酵母がもともと持つ酵素によると考えています。α-アミラーゼの活性は、発酵ツイリ入りの2種類と黒小麦ブレンドの生地では有意に上昇しましたが、白小麦生地では有意な変化がありませんでした。フェルロイルエステラーゼの活性が有意に上昇したのは、黒小麦ブレンドに発酵ツイリを加えた生地だけでした。ホイロ後の配合ごとの差は、全体としてわずかでした。また、発酵ツイリを加えた生地は、弾力が弱く、より柔らかい性質を示しました。
パンの成分は、白小麦だけのパンと、黒小麦ブレンドに発酵ツイリを加えたパンで比べると、後者で多くの値が大きく上がりました。値はいずれも乾燥重量あたりです。GABAは1kgあたり5.7mgから312.2mgに増えました。ポリフェノール全体は100gあたり70.7mgから484.8mg(没食子酸換算)に、フラボノイドは100gあたり17.0mgから58.0mg(ケルセチン換算)に増加しました。食物繊維の総量も100gあたり3.01gから9.46gに増え、そのうち水に溶ける食物繊維は0.30gから2.29gになりました。
試験管内で、ラジカルと呼ばれる不安定な分子を消す働きも高まりました。2種類の測定法で、それぞれ11.9%から72.9%、28.8%から80.0%になりました。
論文によると、食物繊維の総量の増加は主に黒小麦によるものです。一方、水に溶ける食物繊維の増加は、ツイリ果実そのものに含まれる繊維による可能性が高いとしています。発酵によって繊維が溶けやすくなった可能性もありますが、本研究では確かめられていません。
パンの品質では、黒小麦ブレンドのパンに発酵ツイリを加えると、中身の硬さが493gから410gへと有意に下がりました。一方、膨らみを示す比容積は3.94mL/gから4.17mL/gで、統計的に意味のある差はありませんでした。なお、食物繊維が血糖値やコレステロールに与える影響は、この研究では評価されていません。
研究が示すこと
著者らは、枯草菌と乳酸菌で発酵させたツイリ果実は、ブレンドパンのGABA、ポリフェノール、水に溶ける食物繊維を増やす有望な材料だと結論づけています。全粒黒小麦を使ったときの課題だった中身の硬さは、発酵ツイリによって和らぎました。一方で、膨らみがよくなったとはいえませんでした。この研究は、酸味が強く使いにくかった果実に、パンの材料という使い道があることを示しており、成分を豊かにすることとパンらしい食感を両立させるための工夫の一つといえます。
原著論文の著者・所属:Angelo Uriho(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Laboratory of Baking and Fermentation Science, Cereals/Sourdough and Nutritional Functionality Research, School of Food Science and Technology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)、Jacob Ojobi Omedi(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Laboratory of Baking and Fermentation Science, Cereals/Sourdough and Nutritional Functionality Research, School of Food Science and Technology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)、Binle Zhang(Department of Food Engineering, Zhangzhou Institute of Technology, Zhangzhou 363000, China; State Key Laboratory of Food Science and Resources, Laboratory of Baking and Fermentation Science, Cereals/Sourdough and Nutritional Functionality Research, School of Food Science and Technology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)、Liuping Fan(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Laboratory of Baking and Fermentation Science, Cereals/Sourdough and Nutritional Functionality Research, School of Food Science and Technology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)、Jianxian Zheng(College of Food and Bioengineering, South China University of Technology, and Guangzhou Institute of Food Industry, Guangzhou 510000, China)、Yongqing Zeng(College of Food and Bioengineering, South China University of Technology, and Guangzhou Institute of Food Industry, Guangzhou 510000, China)、Shuning Zhang(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Laboratory of Baking and Fermentation Science, Cereals/Sourdough and Nutritional Functionality Research, School of Food Science and Technology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)、Li Liang(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Laboratory of Baking and Fermentation Science, Cereals/Sourdough and Nutritional Functionality Research, School of Food Science and Technology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)、Yan Xu(Key Laboratory of Industrial Biotechnology of Ministry of Education, School of Biotechnology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)、Weining Huang(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Laboratory of Baking and Fermentation Science, Cereals/Sourdough and Nutritional Functionality Research, School of Food Science and Technology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Angelo Uriho, Jacob Ojobi Omedi, Binle Zhang, et al. Cili (Rosa roxburghii Tratt.) Fruit and Its Co-Culture Fermentation with Bacillus subtilis and Lactiplantibacillus plantarum Improves the Nutritional, Functional and Bioactive Quality of White–Black Wheat Composite Bread. Foods 2026-10-17. DOI: 10.3390/foods15203705. 原著ライセンス:CC BY.