著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Toxics
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的:底質で重要な金属は、食べる魚介類でも重要か
川や養殖場、港、都市から流れ込む重金属は、内湾の海底の泥(底質)にたまりやすく、沿岸の汚染評価は底質の指標から始めるのが一般的です。中国南部の北部湾周辺では、こうした底質指標によってカドミウム(Cd)が、次いで水銀(Hg)が優先して注意すべき金属とされてきました。
一方で、魚介類の体内にどの金属がどれだけたまるかは、生き物の種類によって異なります。取り込み方、蓄え方、排出のしくみがそれぞれ違うためです。著者らは、底質で上位とされる金属が、魚介類の組織でも、食べた人への健康ハザード(有害性の目安)の評価でも上位になるのか、つまり底質から作った優先リストを水産物の安全評価にそのまま当てはめられるのかを検討しました。なお、ここでいう重金属は監視の慣例に従い、銅(Cu)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、カドミウム、クロム(Cr)、水銀、ヒ素(As)の7元素です。
何を調べたか:一つの調査で水・底質・魚介類をそろえて比較
対象は中国広西チワン族自治区・欽州湾の奥にある浅い半閉鎖性の内湾、茅尾海です。カキの筏やいけす養殖が広く行われ、三つの川が流れ込んでいます。2022年4月に国の手順に沿って実施された一回の調査記録を用い、27地点の海水と15地点の表層底質、湾内12か所の底びき網で採集した商業的に漁獲される7種類の生き物(エビ、モクズガニ類、マングローブシジミ、カキ、ハマグリ、スズキ類、ボラ類)の筋肉や軟体部を分析しました。同じ調査・同じ分析機関のデータで比べるため、評価段階の違いが研究間の差に由来するとは考えにくい設計です。
評価は三段階です。環境の段階では、水質基準との比較に加え、地域のバックグラウンド値に対する濃縮度と金属ごとの毒性の重みを組み合わせた「潜在的生態リスク指数」で底質を評価しました。蓄積の段階では、組織中濃度を水や底質の濃度で割った「蓄積係数」で種類ごとの比較を行いました。食事の段階では、全国平均の水産物摂取量(1日48グラム)、体重60キログラムなどを仮定し、その種類だけを食べ続けた場合の健康ハザード指数を計算しました。指数が1を超えると、がん以外の健康影響の可能性を示す目安になります。
ヒ素の有害性は、毒性の強い無機ヒ素がどれだけ含まれるかで大きく変わりますが、今回の調査では測定されていません。そこで著者らは、無機ヒ素の割合を10%と5%と仮定した二つのシナリオを並べて示しました。また、摂取量や体重などのばらつきを乱数で多数回試すモンテカルロ・シミュレーション(2万回)も行いました。種類間の比較は各地点平均値に基づく大まかな順位比較であり、統計的な検定ではないと著者らは位置づけています。
主な結果:段階や生き物の種類によって上位の金属が変わる
海水では水銀以外の金属は全地点で第一類水質基準を下回りましたが、水銀は27地点中16地点で基準を超えました。底質では、カドミウムが地域のバックグラウンドの平均2.6倍、水銀が1.5倍に濃縮していました。生態リスク指数への寄与はカドミウムが48%、水銀が37%で、この二つが突出していました。湾全体としては低〜中程度のリスクと評価され、15地点のうち9地点が低リスク、6地点が中程度に分類されました。
ところが、生き物の体内への蓄積では順位が種類ごとに分かれました。カドミウムが底質の濃度を上回って蓄積していたのは二枚貝3種だけで、底質に対する蓄積係数は4.3〜4.8でした。甲殻類では、環境指標では目立たなかった銅の蓄積が際立ち、カニは銅について全種類の中で最も高い蓄積係数を示しました。魚では底質の濃度を上回った金属は水銀だけでした。著者らは、二枚貝がカドミウムを排出しにくく体内に蓄えること、甲殻類が血液中の色素に銅を使うこと、魚がメチル水銀を効率よく取り込み排出が遅いことなど、生き物ごとの性質と整合する結果だと説明しています。
食品の安全基準との比較では、今回の仮定のもとでは基準値の超過は示されませんでした。一方、健康ハザード指数は無機ヒ素の割合に左右されました。無機ヒ素を10%と仮定すると、ハマグリ(1.44)とカニ(1.04)が1を超え、カキ(0.99)もほぼ1でした。5%と仮定すると、どの種類も1を超えませんでした。指数を最も押し上げる金属も仮定で入れ替わり、10%ではヒ素が検出された種類の多くで最大でしたが、5%ではエビ、カニ、カキで銅、スズキ類で水銀が最大になりました。
シミュレーションでは、全種類で指数の中央値が1を下回りました。指数が1を超えた試行の割合はハマグリで32%、カキで27%、カニで26%でしたが、著者らはこれを、実際にリスクを負う消費者の割合ではなく、仮定した条件の組み合わせを示すものとしています。指数に最も強く影響したのは摂取量で、クラム類やボラ類では無機ヒ素の割合がそれに次ぎました。
この研究が示すこと
同じ湾の同じ調査データでも、底質のリスク、魚介類への蓄積、食事による健康ハザードのどれで見るかによって、注意すべき金属の順位は一致しませんでした。底質ではカドミウムと水銀が主役でも、食べる側から見ると、生き物の種類によっては銅やヒ素が前面に出てきます。この研究は、環境監視で得た優先リストを水産物の安全評価にそのまま持ち込むことには注意が必要であり、食事由来の評価では、どの種類をどれだけ食べるかと、測定されていない無機ヒ素の割合が結論を大きく左右することを示しています。
原著論文の著者・所属:Zhang E(College of Architecture and Civil Engineering, Beijing University of Technology, Beijing 100124, China.)、Deng L(Beijing Zhongdihongke Environmental Technology Co., Ltd., Beijing 100085, China.)、Zeng J(Guangxi Key Laboratory of Marine Environmental Science, Guangxi Academy of Marine Sciences, Guangxi Academy of Sciences, Nanning 530007, China.)、Lai J(Guangxi Key Laboratory of Marine Environmental Science, Guangxi Academy of Marine Sciences, Guangxi Academy of Sciences, Nanning 530007, China.)、Li H(Guangxi Key Laboratory of Marine Environmental Science, Guangxi Academy of Marine Sciences, Guangxi Academy of Sciences, Nanning 530007, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhang E, Deng L, Zeng J, et al. Heavy-Metal Rankings Across Sediment Risk, Seafood Bioaccumulation and Dietary Hazard in the Maowei Sea, China. Toxics 2026-09-30. DOI: 10.3390/toxics14100875. 原著ライセンス:CC BY.