この研究は、スリランカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Tropical Agricultural Research and Extension

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

汚染された食品による健康被害は、今も世界の公衆衛生上の大きな課題です。この論文が引用する世界保健機関(WHO)の推計では、汚染された食品を食べたことで病気になる人は世界で年間約8億6600万人(およそ9人に1人)にのぼり、約152万人が亡くなっています。論文の要旨では、これに伴う経済的損失を年間3100億米ドルとしています。被害は年齢層によって偏っており、5歳未満の子どもが食品由来疾患の負担全体の40%を占め、年間12万5000人が亡くなっているとされています。

著者は、こうした状況を踏まえ、食中毒を起こす病原体、食品添加物、重金属、微小プラスチック(マイクロプラスチック)、農薬や肥料の残留物といった人間活動に由来する新たな危険要因、さらに検出・監視技術の進展について、現在の知見をまとめることを目的としました。

どのように文献を集めたか

このレビューは、新たな実験や調査を行ったものではなく、既存の研究論文を集めて整理したものです。著者は、系統的レビューの報告手順の指針であるPRISMAの流れに沿って、ScienceDirect、Google Scholar、PubMed、ResearchGateなどの文献データベースを「食中毒」「重金属」「マイクロプラスチック」「食品添加物」「CKDu」といった語で検索しました。

検索で見つかった1500件から重複を除くと1123件が残り、題名と要旨の確認で主題に合わないもの、英語以外のもの、論説や意見記事などを除外して100件の全文を精査しました。最終的に56件の研究が、数値をまとめて統計的に統合するのではなく、内容を整理・記述する形の統合に用いられました。

報告された主な内容

病原体については、サルモネラ、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌(O157:H7など)、リステリア、黄色ブドウ球菌といった細菌が取り上げられ、それぞれの主な感染源や体内で害を及ぼす仕組みが整理されています。たとえばリステリアは冷蔵温度でも増えることができ、調理済み食肉製品や殺菌していないソフトチーズで問題になりやすく、弱い立場の人々では致死率が20〜30%に達すると紹介されています。ウイルスではノロウイルスとA型肝炎ウイルスが主要なものとして挙げられ、ごく少量で発症し得ること、食品を扱う人の手指衛生が最も効果的な防御策であることが述べられています。

人間活動に由来する化学的な危険要因も幅広く扱われています。食品添加物については、一部の乳化剤や増粘剤が腸内細菌のバランスや腸の保護層に影響を与え得ること、人工甘味料や一部の保存料を多く摂取することと体格指数(BMI)やインスリン抵抗性の上昇との関連、加工肉に含まれる亜硝酸塩・硝酸塩と特定のがんのリスクとの関連を報告した研究が紹介されています。これらは関連を示す研究として整理されています。

マイクロプラスチック(5ミリメートル未満のプラスチック粒子)は、海では貝類や魚に取り込まれ、陸では下水汚泥や農業用フィルム、汚染された灌漑水を通じて農地に蓄積するとされます。表面に有害な化学物質や重金属を吸着して運ぶ役割も指摘されています。重金属では、ヒ素、カドミウム、鉛、メチル水銀が取り上げられ、コメが土壌や地下水からヒ素やカドミウムを蓄積しやすいこと、マグロやメカジキなどの大型魚にメチル水銀が濃縮されることが紹介されています。農薬では有機リン系の神経毒性、肥料では過剰な硝酸塩が体内で亜硝酸塩に変わり、血液が酸素を運べなくなるメトヘモグロビン血症などにつながり得ることが述べられています。

特に論文が詳しく論じているのが、スリランカ北中部州や中米の太平洋沿岸、インドの一部などの農業地域で見られる「原因不明の慢性腎臓病(CKDu)」です。糖尿病や高血圧といった一般的な危険因子のない若い男性農業従事者に多いとされます。著者は、重金属、フッ化物、農薬の残留物を、コメや淡水魚、浅井戸の水などを通じて長期間少量ずつ摂取することが主な要因として指摘されている研究を紹介しつつ、正確な発症の仕組みはまだ解明されておらず、さらなる研究が必要だとしています。

このほか、気候変動で海水温が上がるとビブリオ属細菌が増えやすくなることや、食品供給網の国際化で一か所の汚染が短時間で国境を越えて広がり得ることが指摘されています。対策としては、病原体の遺伝情報を全体にわたって読み取る全ゲノム解析などの迅速な検査技術や、人の医療、動物の監視、環境の毒性評価を一体として扱う「ワンヘルス」の考え方が紹介されています。

この研究が示すこと

このレビューは、昔からある細菌やウイルスによる食中毒と、マイクロプラスチックや重金属、農薬残留物のような比較的新しい化学的な危険要因を一つの視点で整理しています。著者は、従来の衛生管理だけでは現代の複雑な食品流通に十分に対応できなくなっているとし、高度な検査技術とワンヘルスの枠組みを組み合わせて、人・動物・環境にまたがる対策を進める必要性を結論として示しています。

著者:V. S. Jayamanne(University of Ruhuna, Mapalana, Kamburupitiya 81100)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):V. S. Jayamanne. Foodborne Illnesses, Food Poisoning, Environmental Contaminants and Food Safety in the World: A Comprehensive Mini Review. Tropical Agricultural Research and Extension 2026-09-30. DOI: 10.4038/tare.v29i3.5850. 原著ライセンス:CC BY.