著者の所属・活動拠点の国は、ナイジェリア、アメリカです。
掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
身近な食品添加物の安全性を問う
ナイジェリア北部では、「ナトロン」と呼ばれる天然のアルカリ性の塩が、現地で「カンワ」の名で広く使われています。料理の添加物や肉を柔らかくする材料として、また伝統的な治療にも用いられ、食文化に深く根づいています。
一方で、ナトロンは鉱物として自然に産出するため、有害な重金属が混じっている可能性が指摘されてきました。研究チームによれば、ナイジェリアの食品汚染研究はこれまで農作物や水、工業由来の汚染物質が中心で、カンワのような地元産の鉱物系添加物はあまり調べられていませんでした。市場に出回るナトロンへの規制や監視も乏しく、消費者が知らないうちに有害な元素を摂取しているおそれがあります。
そこで著者らは、ナイジェリア北西部のケビ州で日常的に食べられているナトロンを対象に、重金属の量を測り、それを摂取し続けた場合の健康リスクを評価しました。
何をどのように調べたか
研究チームは、ケビ州のビルニンケビ、カルゴ、ジェガ、ブンザの4つの地方行政区で、主要な市場から「バルマ」「カンワ・ジャリンライ」「カンワ・トゥウォ」という3種類のナトロンを購入しました。
試料は乾燥させて粉末にし、強い酸で分解して溶液にしたうえで、原子吸光分析という方法でカドミウム、鉛、ニッケル、クロム、マンガンの5種類の金属の濃度を測定しました。原子吸光分析は、元素ごとに特定の光を吸収する性質を利用して、含まれる量を調べる手法です。
健康リスクの評価には、二つの指標が使われました。一つは、ナトロンを通じて1日にどれだけの金属を取り込むかを見積もった「1日摂取量(DIM)」です。もう一つは、その摂取量を、健康への悪影響がないと考えられる基準の量(参照用量)で割った「健康リスク指数(HRI)」で、この値が1を超えると、がん以外の健康影響が生じる潜在的なリスクがあるとみなされます。評価は大人と子どもに分けて行われました。
主な結果:カドミウム、鉛、クロムで基準を超える
調べた5種類の金属は、すべての地域・すべての種類のナトロンから検出されました。濃度には地域による差が目立ち、カドミウムと鉛はビルニンケビとブンザの試料で比較的高い傾向が見られました。クロムとマンガンは全体として濃度が高く、とくにカンワ・トゥウォで目立ったと報告されています。
1日摂取量の見積もりでは、マンガンとクロムが最も多く、マンガンは1人1日あたり最大0.054ミリグラム、クロムは最大0.027ミリグラムでした。鉛は最大0.020ミリグラム、カドミウムは最大0.0134ミリグラムで、いずれもビルニンケビやブンザで高めでした。ニッケルは最も少ない値でした。大人は子どもよりやや高い摂取量と見積もられており、著者らはこれを摂取量の多さによるものと説明しています。
健康リスク指数では、カドミウム、鉛、クロムがすべての試料で1を上回りました。カドミウムは約4.14から13.37、クロムは2.90から9.07、鉛は1.76から5.82の範囲で、カドミウムでは特にブンザとビルニンケビ、クロムではブンザの試料で高い値が示されました。一方、ニッケル(0.14〜0.50)とマンガン(0.09〜0.39)はすべて1未満で、単独では差し迫ったリスクは小さいと判断されています。ただし著者らは、複数の金属に同時にさらされることで影響が重なり合う可能性にも注意を促しています。
この研究が示すこと
この研究は、伝統的に使われてきた天然の食品添加物であっても、重金属の摂取源になりうることを、地域と種類ごとの具体的な数値で示しました。とくにカドミウム、鉛、クロムについては、調べたすべての試料でリスクの目安を超えたと報告されています。
著者らは、ナトロンを日常的に摂取することが長期的な健康リスクにつながる可能性があるとし、定期的な監視、消費者への情報提供、食品添加物に含まれる重金属への規制の必要性を指摘しています。生活に溶け込んだ身近な食材ほど、その安全性を確かめるデータが欠かせないことを伝える研究といえます。
著者:Shemishere B. Ufuoma(Department of Biochemistry and Molecular Biology Federal University Birnin Kebbi, Kebbi State)、Anyebe A. Daniel(Department of Biochemistry and Molecular Biology Federal University Birnin Kebbi, Kebbi State)、Liman U. Usman(Department of Biochemistry and Molecular Biology Federal University Birnin Kebbi, Kebbi State)、Erhovwosere Oghenevwede(Delta State University, US)、Aghayere Faith(Department of Biochemistry, University of Benin, Benin City, Edo state)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shemishere B. Ufuoma, Anyebe A. Daniel, Liman U. Usman, et al. Health Risk Assessment of Heavy Metal Contamination in Natron (Kanwa) Consumed in Selected Local Government Areas, Northwestern Kebbi State, Nigeria. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-10-15. DOI: 10.5281/zenodo.23389475. 原著ライセンス:CC BY.