著者の所属・活動拠点の国は、イギリスです。
掲載誌:Marine Policy
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
魚介類は傷みやすいため、漁獲から加工、流通に至る各段階の連携が不十分だと、本来は価値の高い素材が十分に活かされないまま終わってしまうことがあります。研究チームはこうした問題意識から、産業界や政策担当者などの関係者が互いを理解し、共通の目標を持つことが、貴重な海洋資源を最大限に活用するための長期的な協力関係につながると考えました。
対象となったのはスコットランドの水産業です。著者らによると、この国では水産部門が経済的にも社会的にも大きな役割を担っています。また、漁獲した水産物のうち実際に利用される割合を高めることには、まだ活かされていない大きな経済的可能性があるとされています。
何を調べたのか
研究チームは、漁獲から加工、流通までのバリューチェーン(価値の連鎖)全体にわたる関係者との対話を実施しました。方法には半構造化インタビューを用いています。これはあらかじめ大枠の質問を用意しつつ、相手の答えに応じて柔軟に話を掘り下げる聞き取りの手法です。
この聞き取りをもとに、著者らは次の点を整理しました。廃棄がどの段階で多く生じ、どのような種類のものか。現在どのような方法で副産物などに付加価値をつけて利用しているか(価値化の経路)。価値を高める余地はどこにあるか。関係者どうしのネットワークがその過程でどのような役割を果たすか。そのうえで、水産物を100%利用することを目指した政策面と産業面の提言をまとめています。
主な結果
論文の報告によると、業界では近年の世界的な出来事への対応が優先され、漁獲物に付加価値をつける取り組みは後回しになっていました。この傾向は、加工の過程で出る副産物で特に顕著でした。副産物にはまだ競争力のある市場が確立されておらず、追加の投資を正当化しにくいためです。とりわけ取扱量の少ない個々の企業にとっては、投資に踏み切るのが難しい状況だと報告されています。
こうした課題に対する有望な選択肢として浮かび上がったのが、アイスランドで成果を上げてきた「クラスター」型のモデルです。これは複数の企業や組織が集まって連携する仕組みです。著者らは、このモデルによって副産物などの流通量をまとまった規模に引き上げられること、そして研究者、イノベーター、産業界の担い手を結びつけ、より循環型の海洋経済を築けることを指摘しています。
一方で、その前段階として、産業界と研究者の間に信頼関係を築く必要があるとしています。そのためには双方の大きな努力が求められると研究チームは述べています。
この研究が示すこと
この研究は、水産資源を無駄なく活かすことが技術だけの問題ではないことを示しています。市場の未整備、企業規模による投資の難しさ、関係者間の連携や信頼といった、バリューチェーン全体にかかわる課題が絡んでいるのです。関係者の声を通して、資源を余さず利用するには、個々の企業の努力を超えた協力の枠組みと、その土台となる信頼づくりが鍵になるという見方が示されました。
原著論文の著者・所属:Nazli Koseoglu(Social, Economic & Geographical Sciences, The James Hutton Institute, Craigiebuckler, Aberdeen, Scotland AB15 8QH, UK)、Phoebe Somervail(Social, Economic & Geographical Sciences, The James Hutton Institute, Craigiebuckler, Aberdeen, Scotland AB15 8QH, UK)、Tareq Mzek(Social, Economic & Geographical Sciences, The James Hutton Institute, Craigiebuckler, Aberdeen, Scotland AB15 8QH, UK)、Simone Piras(Social, Economic & Geographical Sciences, The James Hutton Institute, Craigiebuckler, Aberdeen, Scotland AB15 8QH, UK)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nazli Koseoglu, Phoebe Somervail, Tareq Mzek, et al. Building a sustainable and higher-value seafood sector: Insights from a stakeholder dialogue in the Scottish value chain. Marine Policy 2026-07-31. DOI: 10.1016/j.marpol.2026.107240. 原著ライセンス:CC BY.