著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Journal of Fungi
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
紅麹菌(モナスカス属の菌)の発酵でつくられる色素は、とくにアジアの食文化で、天然の食品着色料として古くから使われてきました。その一つであるモナスシンは黄色の色素です。光に当たると構造が壊れて色があせやすく、この性質が利用を難しくしていると著者らは指摘しています。
光による分解には、活性酸素と総称される反応性の高い酸素由来の物質が関わると考えられてきました。ただ、分解の途中で実際にラジカル(不対電子を持ち、反応しやすい分子)が生じている直接の証拠は十分ではありませんでした。過酸化水素、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルのそれぞれがどの程度関与するのかも、はっきりしていませんでした。研究チームは、とりわけ反応性が高いヒドロキシルラジカルが分解の主な原因であると仮説を立て、それを確かめるとともに、分解を抑えるための効果的な対策の的を探りました。
何を調べたか
実験には、70%アセトニトリル(有機溶媒の一種)に溶かしたモナスシンを使いました。キセノンランプで、太陽光に近い光(照射強度100mW/cm²)を当てています。モナスシンは385nmの光をよく吸収するため、この波長の吸光度がどれだけ下がったかで分解の程度を評価しました。
まず、光だけ、過酸化水素だけ(暗所)、光と過酸化水素の組み合わせの三つの条件で分解の度合いを比べました。次に、電子スピン共鳴(ESR)という方法でラジカルを調べました。ESRは不対電子を持つ分子を検出する手法で、寿命の短いラジカルを捕捉剤で安定な形に変えてから測定します。さらに、溶液から窒素で酸素を追い出した場合や、酵素や抗酸化物質を加えた場合に、分解とラジカルの発生がどう変わるかを調べました。酵素には、過酸化水素を分解するカタラーゼと、スーパーオキシドを過酸化水素と酸素に変えるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を使い、抗酸化物質にはアスコルビン酸(ビタミンC)とα-リポ酸を用いました。
主な結果
疑似太陽光を20分間当てると、モナスシンは20.1%分解しました。暗所で過酸化水素を加えた場合の分解は最大11%にとどまりました。ところが、光と過酸化水素を組み合わせると、分解は過酸化水素の濃度に応じて42%から65%まで大きく増えました。ESRでは、ヒドロキシルラジカルに特有の信号が検出されました。この信号は、照射時間が長いほど、またモナスシンの濃度が高いほど強くなりました。過酸化水素だけに光を当てた場合にもヒドロキシルラジカルが生じることが確かめられています。
溶液から酸素を除くと、20分間の照射による分解は19.65%から5%に減り、ラジカルの信号も68%低下しました。酵素を加えた実験では、何も加えない場合の分解が20%でした。SOD(150U/mL)を加えると14%、カタラーゼ(10U/mL)を加えると7%でした。カタラーゼはSODの15分の1の濃度でしたが、ラジカルの信号を61%減らしており、SODの約32%より強い抑制効果を示しました。
抗酸化物質の実験では、60分間の照射でモナスシンだけの場合38.50%が分解しました。5mg/mLのアスコルビン酸を加えると22.29%、同じ濃度のα-リポ酸では12.28%にとどまりました。どちらも濃度が高いほど保護効果が大きく、比べた条件ではα-リポ酸の方が効果的でした。
研究が示すこと
著者らは結果をもとに、モナスシンの光による色あせを次のように説明しています。光を吸収したモナスシンから活性酸素が生じ、その中の過酸化水素が光で分解されてヒドロキシルラジカルとなり、これが色素を壊す主な原因になる、というものです。溶液中の酸素はこの連鎖を強めると考えられます。そのため光安定性を高めるには、酸素を除くこと、過酸化水素を分解すること、α-リポ酸のような働きの幅広い抗酸化物質を使うことが有効な方向性だと論文は述べています。
ただし、実験はすべてアセトニトリル溶液というモデル系で行われており、実際の食品の複雑な環境を十分に再現したものではないことを著者ら自身が限界として挙げています。この研究は、天然色素の色あせを防ぐ手立てを考えるうえで、どこを狙えばよいかの手がかりを示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Zhihan Shang(School of Grain Science and Technology, Jiangsu University of Science and Technology, Zhenjiang 212100, China)、Xiaowei Zhang(Jiangsu Provincial Engineering Research Center of Grain Bioprocessing, Zhenjiang 212100, China; School of Grain Science and Technology, Jiangsu University of Science and Technology, Zhenjiang 212100, China)、Mingfei Li(School of Grain Science and Technology, Jiangsu University of Science and Technology, Zhenjiang 212100, China)、Qian Lu(School of Grain Science and Technology, Jiangsu University of Science and Technology, Zhenjiang 212100, China)、Fenghe Wang(School of Grain Science and Technology, Jiangsu University of Science and Technology, Zhenjiang 212100, China)、Ting Chen(School of Grain Science and Technology, Jiangsu University of Science and Technology, Zhenjiang 212100, China)、Yang Li(School of Grain Science and Technology, Jiangsu University of Science and Technology, Zhenjiang 212100, China)、Yizheng Liu(School of Grain Science and Technology, Jiangsu University of Science and Technology, Zhenjiang 212100, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhihan Shang, Xiaowei Zhang, Mingfei Li, et al. Hydroxyl Radical Formation: A Key Mechanism and Regulatory Target in Monascin Photo-Degradation. Journal of Fungi 2026-07-31. DOI: 10.3390/jof12080561. 原著ライセンス:CC BY.