この研究は、ポーランド、イラクの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
中東のスパイスを焼き菓子に使えるか
ブラックライム(ルーミーとも呼ばれます)は、熟したキーライムを果実ごと乾燥させ、硬く黒っぽくなるまで仕上げたものです。強い酸味と乾燥柑橘特有の香りがあり、中東の料理では丸ごと、または粉にして酸味付けや香り付けに使われています。果皮だけでなく果実全体から作られるため、皮だけや搾りかすを使う一般的な柑橘副産物とは成分や性質が異なると、研究チームは指摘しています。
一方で、ブラックライムを食品素材として使った研究は少なく、これまでは主に飲料が対象でした。ショートブレッドクッキーで小麦粉の一部を置き換える使い方は、著者らの知る限り調べられていませんでした。研究チームはまずブラックライム粉末そのものの成分を調べ、次に小麦粉の一部をこの粉末に置き換えたクッキーで、成分、硬さ、色、抗酸化性、食味評価がどう変わるかを検討しました。
粉末の特徴:食物繊維とポリフェノールが豊富
材料にはイラク産のブラックライムを使いました。供給業者によると、塩水で短時間湯通しした後、天日で乾燥させたものです。これを果実ごと粉砕して粉末にしました。
論文によると、この粉末は小麦粉と比べて食物繊維がきわめて多く、総食物繊維は53.75%で、小麦粉(2.17%)の約25倍でした。水に溶けにくい繊維と溶けやすい繊維の両方を多く含み、溶けやすい繊維が全体の約45%を占めていました。植物に含まれる抗酸化成分の一群であるフェノール化合物(ポリフェノール類)の総量は小麦粉の約26倍でした。試験管内で測る2種類の抗酸化活性(ABTS法とDPPH法)も、小麦粉よりはるかに高い値を示しました。色は小麦粉よりずっと暗い色でした。
個々のフェノール化合物では、プロトカテク酸などのフェノール酸が中心でした。フラボノイドの仲間では、ビテキシンとイソビテキシンの合計量が特に多いことが報告されています。
クッキーへの配合:柔らかく、色は濃く、食物繊維は増加
クッキーは、小麦粉の3%、6%、9%、12%、15%を重量でブラックライム粉末に置き換えて作り、粉末を加えないものと比較しました。
粉末を加えたクッキーは、水分と水分活性(微生物が利用できる水の目安)がわずかに上がりました。ただし、水分活性はいずれも0.60を下回っていました。著者らは、この値はほとんどの細菌やカビが増えにくい範囲にあるものの、保存性を全面的に評価したものではないと断っています。切断に必要な力は、置き換え率が上がるにつれて小さくなりました。15%では対照の52.91 Nから32.77 Nへ、約38%低下しています。つまりクッキーは柔らかくなりました。一方、焼いたときの広がり具合や体積の膨らみは、対照と比べてはっきりした変化を示しませんでした。赤外分光(FTIR)による分析では、デンプンやグルテンの構造に変化が見られました。研究チームは、粉末由来の多糖類と小麦成分の間の相互作用や水の奪い合いが、柔らかくなった一因である可能性を挙げています。ただし、どの仕組みがどれだけ寄与したかは今回の測定では特定できないとしています。
成分面での最も明確な変化は食物繊維の増加でした。総食物繊維は対照の2.67%から、15%置き換えでは10.53%と、ほぼ4倍になりました。灰分(ミネラル分)も増え、たんぱく質と利用可能な炭水化物はやや減りました。脂肪はほとんど変わりませんでした。色は置き換え率に応じて暗くなり、明るさを示す値は73.22から42.69へ下がりました。
フェノール化合物の総量と抗酸化活性も配合量に応じて上がりました。15%では対照と比べて、フェノール化合物の総量が約5.5倍、ABTS法の活性が約11.1倍、DPPH法の活性が約28.9倍でした。DPPH法の倍率が大きく見える点について、著者らは、対照の値がもともと非常に低かったことが影響していると説明しています。さらに、試験管内の抗酸化活性が高いことは、健康への効果を直接示すものではないと注意を促しています。
おいしさとのバランスと研究の意味
9段階の嗜好評価では、総合的な好ましさは置き換え率12%まで対照と統計的に同程度でした。15%では評価が有意に下がりました。食感の評価も15%でのみ低下しました。3〜9%のクッキーは、平均点で香りと味が対照より高く評価されました。最も味の評価が高かったのは6%で、総合評価も対照と並んで最高でした。香りの評価が最も高かったのは9%です。一方、色の評価は9%から、見た目の評価は12%から有意に下がりました。
研究チームは、今回の条件では6〜9%が食味の面で最もバランスがよいとまとめています。どの配合を選ぶかは、味や香りを優先するのか、見た目を重視するのか、食物繊維をできるだけ増やしたいのかによって変わるとしています。中東の伝統的な乾燥ライムが、焼き菓子の食物繊維を増やし、独特の風味を加える素材になりうることを示した研究といえます。同時に、色や食感の変化との兼ね合いも具体的に示しています。
著者:Dariusz Dziki(Department of Thermal Technology, University of Life Sciences in Lublin, Głęboka 31, 20-612 Lublin, Poland)、Anna M. Krajewska(Department of Food Engineering and Machines, University of Life Sciences in Lublin, Głęboka 28, 20-612 Lublin, Poland)、Waleed H. Hassoon(Department of Animal Production, College of Agriculture, Al-Qasim Green University, Babylon 51001, Iraq)、Agnieszka Nawrocka(Institute of Agrophysics, Polish Academy of Sciences, Doświadczalna 4, 20-290 Lublin, Poland)、Renata Nowak(Department of Pharmaceutical Botany, Medical University of Lublin, Chodźki 1, 20-093 Lublin, Poland)、Marta Olech(Department of Pharmaceutical Botany, Medical University of Lublin, Chodźki 1, 20-093 Lublin, Poland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dariusz Dziki, Anna M. Krajewska, Waleed H. Hassoon, et al. Characterization of Black Lime (Citrus × aurantiifolia) Powder and Its Effects on the Physicochemical, Antioxidant, and Sensory Properties of Shortbread Cookies. Molecules 2026-09-15. DOI: 10.3390/molecules31183271. 原著ライセンス:CC BY.