著者の所属・活動拠点の国は、オーストリア、ドイツ、ペルーです。

掲載誌:Communications earth & environment

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

アグロフォレストリーは、作物の畑に樹木を一緒に植えて育てる農法です。熱帯では、食料生産と生物多様性の保全を両立する方法として期待されています。ただし、その恩恵は畑の中の木の植え方や、畑を取り巻く景観の管理によって変わります。研究チームによると、これまでの研究では、日陰樹が茂って畑が暗くなるほど生物多様性には良い一方で収量は下がる、というトレードオフが報告されてきました。しかし、日陰樹の高さのばらつきや配置の偏りといった樹冠の構造、さらに周囲の景観が、収量や畑の多面的な働きにどう関わるのかは十分に分かっていませんでした。

そこで著者らは、カカオを育てるアグロフォレストリー(以下、カカオ農林地)を対象に調べました。畑の中の日陰樹の構造と、周囲の景観の複雑さ(森林や樹木がどれだけ残っているか)が組み合わさったとき、生物多様性、生態系サービス、病害虫の被害、微気象、土壌の肥沃度、収量がどう変わるかを総合的に検証しています。目的は、生物多様性に配慮しつつ農家の収益も確保できる管理方法と景観のあり方を見つけることです。

何をどう調べたか

調査地は、ペルー北部アマゾンのサン・マルティン県にある有機栽培のカカオ農林地28か所です。この県はペルーのカカオ生産の4割を担っています。研究チームは各農林地で、鳥類、コウモリ、アリ、チョウ、クモ、カメムシ目の昆虫、甲虫の7つの生物群を調べました。これらの種数を標準化して平均した「多重多様性」という指標も用いています。

畑の中の条件としては、日陰樹の被覆の割合、被覆のばらつき、平均の高さ、高さのばらつきの4つを測りました。周囲の景観については、各農林地から半径500メートルの範囲で森林が占める割合と、森林に加えて樹木作物や点在する木なども含めた樹木全体が占める割合を調べています。

収量については、16か所の農林地で計128本のカカオの木を2022年9月から2023年9月まで2週間ごとに観察しました。半数の木は竹の枠と釣り網で囲み、鳥とコウモリだけが近づけないようにしました。昆虫などの節足動物や病原体は網を通り抜けられます。網のない木と比べることで、鳥やコウモリが収量にどう関わっているかを推定しました。あわせて、花の数と結実率、主要な害虫と病気による被害、土壌の成分、気温と地温も測っています。

主な結果

周囲に森林がまったくない景観では、鳥とコウモリを締め出した木のほうが平均収量が高くなりました。鳥やコウモリなど空を飛ぶ脊椎動物が木に近づけることで、1ヘクタールあたり年間約500キログラムの損失が出ると予測されています。ところが、周囲の森林被覆がわずか10%になると、両者の平均収量はほぼ同じになりました。この差がなぜ生じるのかは確かめられておらず、著者らは、網のない木では一般的な果実食の動物(地元農家によれば主にインコ、キツツキ、サル)による実の食害が、網で囲った木では節足動物どうしの捕食関係が、それぞれ説明になりうると推測しています。さらに著者らは、森林の割合が30〜35%のときに鳥とコウモリの経済的な貢献が最も大きくなり、40%を超えると収量への上乗せはむしろ小さくなる傾向があったと報告しています。この害虫抑制の効果は畑の中の日陰樹の構造とは関係していませんでした。

日陰樹の被覆が15%から80%に増えると、カカオの結実率は1.6%から6.4%に上がりました。一方で、花の数は548個から139個へと約75%減りました。その結果、実になる花の数はほとんど変わらなかったにもかかわらず、収量は日陰の増加とともに76%減少しました。著者らは、この収量減の原因として、果実が育つ途中で光を奪い合い、落果することが最も考えられるとしています。また、日陰樹の高さのばらつきが大きいほど、カカオの花の数は3倍に増えました。高さの異なる木を組み合わせると樹冠にすき間ができ、下層まで光が届くためと考えられています。

病害虫にも違いが見られました。カカオの実を食害するガの仲間(カルメンタ属)の被害は、単純な景観では果実の5%でしたが、最も複雑な景観では35〜45%に増えました。一方、カビによる病気であるモニリア病の被害は景観とは関係せず、日陰樹の被覆が増えるにつれて35%から6.6%に減りました。ただし、収量は複雑な景観で最も高くなっていました。著者らは、鳥やコウモリによる害虫抑制の効果が、ガによる被害の増加を上回ったと解釈しています。

土壌では、pH、リン、窒素は日陰樹の構造の影響を受けませんでした。一方、カリウムは日陰樹の被覆が増えると3倍になり、土壌の有機炭素は日陰樹が高くなるほど2%から3%に増えました。ただし著者らは、局所的な土壌の違いが畑全体の肥沃度の向上につながるとは限らないとして、慎重な解釈を求めています。温度については、日陰樹の被覆が増えると、地温の最高値が2.12℃、下層の気温の最高値が1.3℃下がりました。日陰は暑さを和らげる一方で収量を下げるという、両立の難しさも示されています。

研究が示すこと

著者らは、日陰樹の高さや配置に変化をもたせることと、周囲の景観に森林を残すことを組み合わせれば、生物多様性と農家の暮らしの双方に利益がある、と結論づけています。森林のない景観で見られた鳥やコウモリの出入りによる収量の差が、わずか10%の森林被覆で見られなくなり、30〜35%で鳥とコウモリの収量への貢献が最も大きくなったという結果は、畑の中と外を一体として管理する視点の大切さを示しています。ただし、その差を生む仕組みは推測の段階にとどまっています。

また、この研究の対象は人口がまばらな農村地域で、調査範囲に占める市街地は最大でも6.1%でした。著者ら自身も、人口が多い地域では今回示した景観設計の実現が難しい場合があると述べています。

原著論文の著者・所属:Aycart-Lazo P(Department of Botany and Biodiversity Research, University of Vienna, Vienna, Austria.; Department of Animal Ecology and Tropical Biology, Biocenter, University of Würzburg, Würzburg, Germany.)、Ivañez-Ballesteros B(Department of Animal Ecology and Tropical Biology, Biocenter, University of Würzburg, Würzburg, Germany.)、Alvino-Rosas A(Universidad Nacional Agraria de la Selva (UNAS), Huanuco, Peru.)、Ochterbeck D(Agroecology and Functional Agrobiodiversity, Department of Crop Sciences, University of Göttingen, Göttingen, Germany.; Department of Conservation Biology, University of Göttingen, Göttingen, Germany.)、Opolka M(Department of Animal Ecology and Tropical Biology, Biocenter, University of Würzburg, Würzburg, Germany.; Animal Population Ecology, Bayreuth Center for Ecology and Environmental Research (BayCEER), University of Bayreuth, Bayreuth, Germany.)、Cabezas Huayllas O(Universidad Nacional Agraria de la Selva (UNAS), Huanuco, Peru.)、Dullinger S(Department of Botany and Biodiversity Research, University of Vienna, Vienna, Austria.)、Thomas E(Bioversity International, Lima office, Lima, Peru.)、Tscharntke T(Agroecology and Functional Agrobiodiversity, Department of Crop Sciences, University of Göttingen, Göttingen, Germany.)、Steffan-Dewenter I(Department of Animal Ecology and Tropical Biology, Biocenter, University of Würzburg, Würzburg, Germany.)、Ocampo-Ariza C(Agroecology and Functional Agrobiodiversity, Department of Crop Sciences, University of Göttingen, Göttingen, Germany.; Ecological Networks, Technische Universität Darmstadt, Darmstadt, Germany.)、Maas B(Department of Botany and Biodiversity Research, University of Vienna, Vienna, Austria.; Institute of Zoology, Department of Ecosystem Management, Climate and Biodiversity, BOKU University, Vienna, Austria.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Aycart-Lazo P, Ivañez-Ballesteros B, Alvino-Rosas A, et al. Integrating local and landscape management promotes biodiversity, multifunctionality and yields in tropical agroforests. Communications earth & environment 2026-10-30. DOI: 10.1038/s43247-026-04141-3. 原著ライセンス:CC BY.