著者の所属・活動拠点の国は、ペルー、チリです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
2型糖尿病は世界中で患者数が増え続けている慢性疾患で、血糖コントロールがうまくいかないと血管の合併症につながることが知られています。薬物治療に加えて食事や運動といった生活習慣の改善が重要とされていますが、実際の診療現場でどこまで効果を上げられるかは、地域や文化によって事情が異なります。今回紹介する研究は、ペルー・アマゾン地域(ロレト州マイナス郡)の病院で、2型糖尿病の成人患者を対象に、食事教育・実技講習・グループ運動・家庭訪問・電話やSNSでの見守りを組み合わせた3か月間のプログラムを実施し、その効果を調べたものです。
研究チームには、ペルー国立アマソニア大学の食品科学・食品工学・社会科学の各学科、ペルー国立サンマルコス大学、チリのアメリカス大学、ペルー科学南大学の研究者が名を連ねています。
どのように調べたのか
対象は、イキトス市のEsSalud第3病院の糖尿病外来に通う18〜59歳の2型糖尿病患者です。無作為化ではなく、もともと病院が組んでいた診察予約の順番に沿って、先に来院した73人(最終的に72人)を介入群、後に来院した72人を対照群として振り分ける「準実験デザイン」が用いられました。介入群のうち1人が研究と無関係の理由で死亡したため、最終的な解析対象は144人(介入群72人・対照群72人)となっています。
介入群が受けたプログラムは3か月間で、健康的な食事や炭水化物の数え方、運動の重要性を学ぶ座学(3回)、低コストで手に入りやすい食材を使った調理実習(2回)、伝統舞踊やズンバを取り入れた運動セッション(週3回、1回60〜90分、合計36回)から構成されていました。さらに月1回・約20分の家庭訪問、必要に応じた電話相談、参加者専用のWhatsAppグループでの教材共有や励まし合いも行われ、参加率はすべての活動を通じて90%を超えていたと報告されています。対照群はこの期間、通常どおりの外来診療(メトホルミンやインスリンなどの薬物治療を継続)のみを受け、倫理的配慮から研究終了後に同じプログラムが提供されました。
評価項目は、食習慣(食品摂取頻度調査票による36項目のスコア)、空腹時血糖値、HbA1c(ヘモグロビンA1c)、中性脂肪、総コレステロール、血清クレアチニン、身体活動量(IPAQ-SFという質問票でMET・分/週として算出)、BMI、ウエスト周囲径、ウエスト身長比です。統計解析には、参加者ごとの繰り返し測定を扱える線形混合効果モデルが用いられ、年齢・性別・罹病期間に加え、婚姻状況や教育レベルの群間差も調整されました。
わかったこと
介入群は対照群と比べて、食習慣スコアがより大きく改善したと報告されています(群間差の推定値は17.85ポイント)。血糖関連の指標では、空腹時血糖値が対照群よりも大きく低下し(推定差 約−84mg/dL)、HbA1cも同様により大きく低下しました(推定差 約−2.3ポイント)。介入群単独の変化を見ると、HbA1cはおよそ8.8%から2.2ポイント低下、空腹時血糖値はおよそ185mg/dLから78mg/dL低下したとされています。
脂質や体格の指標でも、中性脂肪、総コレステロール、BMI、ウエスト周囲径、ウエスト身長比のすべてで、介入群のほうがより大きな改善を示しました。身体活動量も介入群で大きく増加したと報告されています(群間差の推定値は約3015 MET・分/週)。一方、腎機能の指標である血清クレアチニンについては、統計的に意味のある群間差は見られませんでした。
著者らは、こうした変化の大きさについて過去の同種研究と比べてかなり大きいと述べつつ、いくつかの理由を挙げています。参加者のベースラインの血糖値がもともと高めだったこと(改善の余地が大きかった可能性)、プログラムが座学だけでなく運動・訪問・SNS支援まで含む集中的な内容だったこと、介入群がより頻繁に研究チームと接触したことによる動機づけの効果(いわゆるホーソン効果)が関与した可能性などです。また、身体活動量は本人の自己申告による質問票で測定されているため、思い出しやすさや「良く見せたい」という心理の影響を受けやすい点も指摘されています。
この研究を読むうえでの注意
この研究は、無作為化ではなく病院の診察予約順に基づいて介入群・対照群を分けた準実験デザインである点に注意が必要です。著者ら自身も、この割り付け方法が選択バイアスや測定されていない要因の偏りを生んだ可能性を認めており、実際に婚姻状況と教育レベルには群間で統計的な差があったため、これらは解析上の調整対象とされています。また、薬物治療の服薬遵守(きちんと薬を飲んでいたか)は体系的に確認されておらず、介入群がより多くの支援を受けたことで服薬状況にも違いが生じ、血糖値の変化に影響した可能性は否定できないとされています。食事の変化・運動量の変化・体格の変化・脂質の変化は同時に生じているため、どの要素がどの結果にどれだけ寄与したかを個別に切り分けることはできない点も著者らが明記しています。腎機能についても、今回の短い追跡期間と血清クレアチニン単独の測定では変化を捉えきれない可能性があり、今後は推算糸球体濾過量(eGFR)や尿中アルブミンなど、より詳しい指標を用いた検証が必要だとされています。あくまで一つの医療機関・一つの地域集団を対象にした研究であり、結果がそのまま他の集団にも当てはまるとは限りません。
まとめ
この研究では、食事教育・調理実習・グループ運動・家庭訪問・SNSでの見守りを組み合わせた3か月間の生活習慣プログラムを受けたペルー・アマゾン地域の2型糖尿病患者で、通常診療のみの対照群と比べて、食習慣、血糖コントロール、脂質、体格、身体活動量のいずれにおいてもより大きな改善が見られたと報告されています。ただし無作為化されていない準実験デザインであることや、服薬状況が確認されていないことなど、著者ら自身が挙げる複数の限界があり、この結果だけで介入の効果が確立したと結論づけることはできません。今後、より厳密なデザインでの検証が期待される段階の研究といえます。
原著論文の著者・所属:Monica Yenji Chia Sánchez(Departamento de Ciencia y Tecnología de Alimentos, Facultad de Industrias Alimentarias, Universidad Nacional de la Amazonía Peruana, Iquitos 16001, Peru)、Alexander Imán(Departamento de Ciencia y Tecnología de Alimentos, Facultad de Industrias Alimentarias, Universidad Nacional de la Amazonía Peruana, Iquitos 16001, Peru)、Wellington Eduardo Xavier Guerra(Departamento de Ingeniería de Alimentos, Facultad de Industrias Alimentarias, Universidad Nacional de la Amazonía Peruana, Iquitos 16001, Peru)、Carlos Antonio Li Loo Kung(Departamento de Ingeniería de Alimentos, Facultad de Industrias Alimentarias, Universidad Nacional de la Amazonía Peruana, Iquitos 16001, Peru)、Susy Karina Dávila Panduro(Departamento de Ciencias Sociales, Facultad de Ciencias de la Educación y Humanidades, Universidad Nacional de la Amazonía Peruana, Iquitos 16000, Peru)、Oscar Huamán Gutiérrez(Carrera de Nutrición Humana, Facultad de Medicina, Universidad Nacional Mayor de San Marcos, Lima 15001, Peru)、Antonio Castillo-Paredes(Grupo AFySE, Investigación en Actividad Física y Salud Escolar, Escuela de Pedagogía en Educación Física, Facultad de Educación, Universidad de Las Américas, Santiago 8370040, Chile)、José Jairo Narrea Vargas(Grupo de Investigación en Nutrición, Metabolismo y Ejercicio, Carrera de Nutrición y Dietética, Facultad de Ciencias de la Salud, Universidad Científica del Sur, Lima 15067, Peru)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Monica Yenji Chia Sánchez, Alexander Imán, Wellington Eduardo Xavier Guerra, et al. Effects of a Multicomponent Lifestyle Intervention on Behavioral and Cardiometabolic Outcomes in Adults with Type 2 Diabetes Mellitus in the Peruvian Amazon. ニュートリエンツ (2026). DOI: 10.3390/nu18162699. 原著ライセンス: cc-by.