著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Frontiers in Dental Medicine
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
加齢とともに体の予備力が落ち、小さなきっかけでも健康を損ないやすくなった状態を「フレイル」と呼びます。高齢化が進むなか、フレイルは世界的に重要な公衆衛生上の課題とされています。
口の中が乾く自覚症状(口腔乾燥感)がある高齢者ほどフレイルが多いことは、これまでの研究でも報告されてきました。唾液は食べ物を噛み、まとめ、飲み込むことを助けます。そのため、口の乾きが食事量や食事の質を下げ、栄養状態の悪化を通じてフレイルにつながるのではないかと考えられてきました。ただし、この「栄養を介した経路」が実際にどの程度関わっているのかを、地域住民を対象に確かめた研究は限られていました。
そこで研究チームは、口の乾きの症状の強さとフレイルの関係について、直接の結びつきと、栄養状態の悪さを介した間接的な結びつきを分けて調べました。著者らは当初、栄養状態がこの関係の一部を仲立ちしていると予想していました。
調べた方法
調査はブラジル・サンパウロ州のバウルとボラセイアという2つの自治体で、2025年3月から2026年4月にかけて行われました。対象は、自宅など地域で暮らす60歳以上の人です。公的なプライマリケア施設の担当地域を単位として、そこに住む人を無作為に選ぶ方法で参加者を集めました。当初の参加者437人のうち、必要な情報がすべてそろった398人が分析の対象となりました。
口の乾きの症状の強さは5項目の質問票で、フレイルの程度は「エドモントン・フレイル尺度」で測りました。この尺度は点数が高いほどフレイルが進んでいることを示し、7点以上をフレイルとみなします。栄養状態は高齢者向けの簡易栄養評価票(0〜14点で、点数が高いほど栄養状態が良い)で調べました。分析ではこの点数を14点から差し引いた値を「栄養面の脆弱さ」という指標とし、値が高いほど栄養状態が悪いことを示すようにしました。
分析には「構造方程式モデリング」という統計手法を使いました。これは、複数の要因が互いにどうつながっているかを一度に推定する方法です。年齢、性別、学歴の影響を考慮したうえで、口の乾きからフレイルへの直接の結びつきと、栄養状態を経由する間接的な結びつきを同時に推定しました。また、調査対象の選ばれ方の偏りを補正する重みづけも行っています。
主な結果
重みづけ後の参加者の平均年齢は約71歳で、約6割が女性でした。口の乾きの症状が強い人は全体の24.5%、栄養リスクがあるか低栄養と判定された人は35.5%、フレイルと判定された人は12.3%でした。
口の乾きの症状が強い人では、フレイルの割合が26.5%でした。症状が軽い人の7.7%を上回っています。フレイル尺度の平均点も、症状が強い人で4.74点、軽い人で3.32点でした。症状が強い人では、自分の健康状態を「まあまあ」または「悪い」と評価する人、複数の薬を使っている人、気分の落ち込みがある人、失禁がある人の割合も高くなっていました。
構造方程式モデリングでは、口の乾きの症状が強いほどフレイルの点数が高いという直接の結びつきが、統計的に意味のある大きさで認められました。栄養面の脆弱さの値が高い、つまり栄養状態が悪いほどフレイルの点数が高いという関連も見られました。一方で、口の乾きの症状の強さと栄養状態の悪さの間には、統計的に意味のある関連は確認されませんでした。その結果、栄養状態を介した間接的な結びつきも有意ではありませんでした。
居住する自治体の違いを追加で考慮しても、口の乾きとフレイルの直接の結びつきは保たれました。フレイル尺度から栄養に関する項目を除いて分析した場合も同様でした。なお、栄養に関する項目を除くと、栄養状態とフレイルの関連は弱まり、有意ではなくなりました。著者らはこの点から、栄養状態とフレイルの関連は慎重に解釈すべきだとしています。
研究が示すこと
この研究では、口の乾きの症状が強い高齢者ほどフレイルの程度が高いという関係が確認されました。一方で、その関係が栄養状態の悪化を通じて生じているという予想は支持されませんでした。著者らは、複数の薬の使用、全身の健康状態、気分など、栄養以外の要因も関わっている可能性を指摘し、フレイルが多くの要因から成り立つ状態であることを強調しています。
ただし、この調査はある一時点の状態を調べたものです。どちらが原因でどちらが結果かは判断できません。口の乾きは本人の自覚症状として質問票で測ったもので、唾液の量を実際に測定したわけではありません。また、調査はブラジルの2つの自治体に限られています。こうした制約はあるものの、著者らは、口の健康の確認を高齢者の総合的なケアに組み込むことに意義がある可能性を示しています。
原著論文の著者・所属:Patrícia Soares da Silva Pereira(Bauru School of Medicine, University of São Paulo)、Billy de Jesus Vieira de Paula e Silva(Department of Pediatric Dentistry, Orthodontics and Public Health, Bauru School of Dentistry, University of São Paulo)、Ana Laura Melo Gonçalves(Department of Pediatric Dentistry, Orthodontics and Public Health, Bauru School of Dentistry, University of São Paulo)、Rafaela Bilancieri(Department of Pediatric Dentistry, Orthodontics and Public Health, Bauru School of Dentistry, University of São Paulo)、Beatriz Della Terra Mouco Garrido(Department of Pediatric Dentistry, Orthodontics and Public Health, Bauru School of Dentistry, University of São Paulo)、Roger Palma(Department of Pediatric Dentistry, Orthodontics and Public Health, Bauru School of Dentistry, University of São Paulo)、Roosevelt Silva Bastos(Bauru School of Medicine, University of São Paulo; Department of Pediatric Dentistry, Orthodontics and Public Health, Bauru School of Dentistry, University of São Paulo)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Patrícia Soares da Silva Pereira, Billy de Jesus Vieira de Paula e Silva, Ana Laura Melo Gonçalves, et al. Xerostomia symptom severity and frailty among community-dwelling older adults: a survey-weighted structural equation modeling analysis. Frontiers in Dental Medicine 2026-10-14. DOI: 10.3389/fdmed.2026.1941262. 原著ライセンス:CC BY.