この研究は、リビアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:AlQalam Journal of Medical and Applied Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を確かめようとした研究か

パンはリビアで、社会層や経済状況を問わず欠かすことのできない主食です。この研究チームが注目したのは、そのパンに残る「臭素酸カリウム」という物質です。臭素酸カリウムは無色・無臭・無味の白い結晶または粉末で、強い酸化作用を持ち、製パン業では小麦粉の改良剤として長く使われてきました。生地のグルテンに作用して弾力と安定性を高め、きめの細かいパンやよく膨らんだ大きなパンをつくる働きがあると論文は説明しています。

一方で、この物質には安全性の懸念が指摘されてきました。論文によれば、国際がん研究機関(IARC)は長期的な研究を経て臭素酸カリウムを「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」グループ2Bに分類しており、2012年にはコーデックス委員会(食品規格を定める国際機関)が食品添加物としての規格を正式に取り下げています。著者らは、製パン時に臭素酸カリウムは無害な臭化物イオンへ完全に還元されるのが理想だが、焼成の条件が適切でない場合には最終製品に残ることがあると述べています。そこで本研究は、リビアのパン、とくにゲミネス市のパンが臭素酸カリウムを含まないかどうかを確かめることを目的としました。

どのように調べたか

研究チームは、ゲミネス市内の19軒の異なるパン屋から、それぞれパンの試料を無作為に集めました。各試料の中心部分を取り出して70℃のオーブンで1時間乾かし、粉末にしてよく混ぜ、その店の製品を代表する均一な試料としました。試料にはA1からA19までの番号が付けられ、分析までは密閉した包装で保管されています。

測定には分光光度法という手法が用いられました。これは、試料中の臭素酸イオンが酸性の条件下でヨウ化物イオンと反応してヨウ素を生じ、パンに含まれるデンプンと青い色の複合体をつくる性質を利用するものです。具体的には、粉末試料1.0グラムに蒸留水10ミリリットルを加えてよく振り、室温で20分置いた後にろ過し、塩酸に溶かした0.5%ヨウ化カリウム溶液を加えて、紫外可視分光光度計で波長520ナノメートルの吸光度(光の吸収の強さ)を測ります。吸光度が大きいほど、生じたヨウ素が多く、もとの臭素酸が多いことを意味します。各試料について3回の繰り返し測定が行われました。

あらかじめ濃度の分かった標準溶液から検量線をつくったところ、0.25〜15.0マイクログラム/ミリリットルの範囲で吸光度は濃度に対して直線的に増加し、相関係数は0.994だったと報告されています。この関係式を使って、パン1グラムあたりの臭素酸カリウム濃度が算出されました。

報告された結果

論文の報告では、19の試料すべてから臭素酸カリウムが検出されました。平均濃度はパン1グラムあたり0.024〜0.072マイクログラムの範囲に分布し、最も高かったのは試料A19(0.072マイクログラム/グラム)、最も低かったのは試料A6(0.024マイクログラム/グラム)でした。

著者らは、これらの値がパン製品について米国FDAおよびWHOが推奨する許容水準0.020マイクログラム/グラム、ならびにリビア国家規格が定める許容水準を大きく上回っていたと述べています。つまり、最も低い試料でさえ基準を超えていたという報告です。検出された理由として著者らは、焼成温度が低いこと、焼成時間、そして小麦粉に使われる臭素酸カリウムの量が多いことが考えられると考察しています。そのうえで、こうした製品の消費者とパン職人は、時間の経過にともなう体内蓄積を通じて臭素酸カリウムへの曝露のリスクにさらされていると論じています。

この報告が示すこと

この研究は、ゲミネス市という一つの都市の19軒のパン屋を対象に、主食であるパンに使ってはならないはずの物質が実際にどれだけ残っているかを、比較的簡便な化学分析で可視化したものです。基準値との比較という形で示されたことで、規格が紙の上でどう定められているかと、店頭の製品が実際にどうであるかとの間に隔たりがあり得ることが具体的な数値として提示されました。

著者らは結論として、リビアの当局がパン屋や生産者を継続的に監視して規格への適合を確かめ、製パン業での臭素酸カリウム使用禁止を執行する必要があり、さらに臭素酸カリウムを添加した小麦粉の輸入を防ぐべきだと述べています。日々の食卓に上るものほど、その安全を支えているのは目に見えない監視と検査の積み重ねなのだということを、この報告はあらためて思い起こさせます。

著者:Najwa Ansir(Chemistry Department, Faculty of Science, University of Benghazi, Benghazi, Libya)、Atiya Sammour(Chemistry Department, Arts & Science Faculty -Ghemines, University of Benghazi, Benghazi, Libya)、Najma Towier(Environmental Health Department, Public Health Faculty, University of Benghazi, Benghazi, Libya)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Najwa Ansir, Atiya Sammour, Najma Towier. Evaluation of Potassium Bromate Levels in Bread Products Marketed in Ghemines City. AlQalam Journal of Medical and Applied Sciences 2026-08-28. DOI: 10.54361/ajmas.269842. 原著ライセンス:CC BY.