著者の所属・活動拠点の国は、スウェーデン、ボリビアです。
掲載誌:Journal of Plant Diseases and Protection
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
キヌアはアンデス地方原産の穀物で、栄養価が高く、やせた土地でも育つことから「未来の食材」とも呼ばれています。主な生産国の一つであるボリビアは、南米の中でも干ばつなどによって将来の食料不安に陥りやすい国とされています。一方で、キヌアの品種改良は活発とはいえず、ボリビアの品種がそれぞれどの程度乾燥に強いのかもよく分かっていませんでした。
そこで研究チームが注目したのが、植物の根の周りにすみ、生育を助ける「植物生育促進根圏細菌(PGPR)」です。これまでの研究で、こうした細菌が乾燥や塩害などのストレスに対する植物の耐性を高めうると報告されてきました。著者らは、キヌアの品種によって乾燥下での生育や収量に差があること、PGPRの接種が乾燥の影響を和らげうること、そして細菌から受ける恩恵の大きさが品種によって異なることを仮説として検証しました。
どのように調べたか
研究チームは、ボリビアの生産者から入手した色の異なる9品種(Real Noventon、Real Negra、Real Pisankalla、Jacha Grano、Toledo、Pandela、Challa Moco Blanco、Real Blanca Dedo、Real Kellu)を鉢で育てました。実験は、温度と光を管理した生育チャンバーで開花期まで調べるものと、温室で成熟・収穫まで育てるものの2種類です。
水の条件は、土が保持できる水の量の50%を保つ「十分な水やり」と、25%に抑える「水不足」の2通りとしました。水不足は種まき後68日目から始め、チャンバーでは開花期まで、温室では種子が乳状に熟す段階まで続けました。細菌には、以前の研究でキヌアの乾燥耐性を高めると報告されたシュードモナス属の菌株IIFB019を使い、種子を菌液に浸したうえで、種まき後51日目に株元の土にも菌液を加えました。
開花期には根や茎の長さ、各部位の重さ、葉の緑色の濃さ(葉緑素量の目安となるSPAD値)を、成熟期には草丈や穂の重さ、種子の収量を測定しました。さらに、水不足のときと十分なときの収量を比べる複数の「ストレス耐性指数」を計算して各品種を耐性・中程度・感受性に分類し、多数の形質をまとめて傾向を読み取る主成分分析も行いました。
主な結果
水不足は、開花期の草丈や、成熟期の収量・穂の重さ・草丈を低下させました。一方で葉緑素量の目安は水不足でむしろ高まり、根の長さは水の条件による影響を受けませんでした。品種と水の条件の組み合わせによって結果が変わる傾向も強く見られました。
細菌を接種しない場合、ストレス耐性指数の一つでは、Real Blanca Dedo、Real Noventon、Real Negra、Real Pisankallaの4品種が乾燥に強く、Jacha Grano、Real Kellu、Toledoの3品種が乾燥に弱いと分類されました。著者らは複数の指数を総合し、Real Noventon、Real Negra、Real Pisankallaを乾燥耐性品種とし、主成分分析ではReal NoventonとReal Negraでより一貫した結びつきが見られたと報告しています。ただし、Toledoは指数では弱いと分類された一方、主成分分析では安定した性質を示しており、論文は一つの方法だけに頼ると分類が食い違いうることも指摘しています。
細菌を接種すると、指数に基づく分類が変化しました。特にJacha Granoは、非接種では乾燥に弱い品種でしたが、接種によってより耐性のある反応へと移りました。逆にReal Blanca Dedoのように、接種下では感受性と分類された品種もありました。
個別の形質でも、細菌の効果は品種と水の条件によって異なりました。水不足の条件では、6品種で接種により葉緑素量の目安が高まり、Real Pisankallaでは根も長くなりました。十分な水やりの条件では、Real Pisankallaで収量と穂の重さが増えた一方、Real Kelluでは逆に減少し、5品種では草丈が低くなりました。温室での水不足条件では、収量への接種の効果は検出されませんでした。
研究が示すこと
この研究は、ボリビアのキヌア品種の間で乾燥への強さに幅があること、そして同じ細菌を接種しても恩恵を受けやすい品種とそうでない品種があることを示しました。著者らは、多収品種とされるJacha Granoについて、細菌の接種で乾燥への弱さを補える可能性があると述べています。
一方で、使われた細菌は1菌株のみで、結果は鉢を使った実験から得られたものです。論文自身も、ほかの菌株での検討や複数地点の畑での確認が必要だとしています。品種ごとの性質の違いを知ることが、気候変動に備えたキヌアの品種選びや育種の手がかりになることを示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Virginia Gonzales(Department of Forest Mycology and Plant Pathology, Swedish University of Agricultural Sciences, Box 7026, 75007, Uppsala, Sweden; Instituto de Investigaciones Fármaco Bioquímicas “Dr. Luis Enrique Terrazas Siles”, Facultad de Ciencias Farmacéuticas y Bioquímicas, Universidad Mayor de San Andrés, 2224, La Paz, Bolivia)、Mukesh Dubey(Department of Forest Mycology and Plant Pathology, Swedish University of Agricultural Sciences, Box 7026, 75007, Uppsala, Sweden)、Dan Funck Jensen(Department of Forest Mycology and Plant Pathology, Swedish University of Agricultural Sciences, Box 7026, 75007, Uppsala, Sweden)、Carla Crespo(Instituto de Investigaciones Fármaco Bioquímicas “Dr. Luis Enrique Terrazas Siles”, Facultad de Ciencias Farmacéuticas y Bioquímicas, Universidad Mayor de San Andrés, 2224, La Paz, Bolivia)、Magnus Karlsson(Department of Forest Mycology and Plant Pathology, Swedish University of Agricultural Sciences, Box 7026, 75007, Uppsala, Sweden)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Virginia Gonzales, Mukesh Dubey, Dan Funck Jensen, et al. Effect of water stress and Pseudomonas sp. inoculation on seed yield and morphophysiological traits of quinoa genotypes from Bolivia. Journal of Plant Diseases and Protection 2026-11-03. DOI: 10.1007/s10343-026-01465-0. 原著ライセンス:CC BY.