著者の所属・活動拠点の国は、リビアです。

掲載誌:Theory and practice of meat processing

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜこの研究が行われたのか

汚染された食品による食中毒は、世界中で多くの人が経験する身近な病気です。論文は、世界保健機関(WHO)の推計として、毎年およそ6億人が汚染食品で体調を崩していることを紹介しています。鶏肉は世界で広く食べられている動物性たんぱく源ですが、処理の段階で羽や皮、腸の内容物などから細菌が付きやすく、食中毒の原因菌を運ぶ食品としても知られています。

研究の舞台は、リビア北西部、首都トリポリから南東へ約170キロに位置する町バニワリードです。著者によると、この町の飲食店で出される鶏肉の細菌学的な安全性を調べた査読付き研究は、これまで発表されていませんでした。そこで研究は、市内の飲食店で提供される生と加熱後の鶏肉にどの程度の細菌がいるのか、特に危険な菌が含まれていないかを明らかにすることを目的としました。あわせて、店の衛生状態、鶏肉が店に届くまでの流通の状況、利用客の食中毒症状の経験も調べています。

何をどう調べたのか

調査は2025年1月から6月に行われました。市内のファストフード店5店から、鶏肉試料を計10点集めています。内訳は、調理前の生の鶏肉5点、グリルで焼いた直後の鶏肉3点、スープで煮て鍋から取り出した直後の鶏肉2点です。試料は4℃に保ったままトリポリの食品検査機関へ5時間以内に運ばれ、分析されました。

分析では、肉1グラムあたりに増殖できる細菌がどれだけいるかを数えました。単位のCFU/gは、培養したときに菌の集まり(コロニー)をつくる単位が1グラムあたりいくつあるかを示すものです。対象としたのは、一般的な大腸菌、腸管出血性大腸菌O157:H7、黄色ブドウ球菌、サルモネラ属菌です。O157:H7はごく少数でも感染しうる菌で、志賀毒素(ベロ毒素)と呼ばれる毒素をつくり、重い腎臓の障害などを起こすことがあるため、特に注意が必要な菌とされています。

細菌検査のほかに、各店の換気、清潔さ、照明、マスクや手袋の着用などを目で見て点数化する衛生評価を行いました。また、鶏肉を運ぶ車両の温度や店での受け入れ・保管・下ごしらえの様子を点検し、さらに店の利用客177人に、過去12か月間に外食後72時間以内に吐き気や下痢などの症状が出たことがあるかを尋ねるアンケートを実施しました。

主な結果

生の鶏肉は5店すべての試料で大腸菌が検出されました。生肉の細菌数は1グラムあたり100から1万3000程度の範囲で、平均は約9680 CFU/gでした。加熱後は細菌数が大きく減り、多くの試料でゼロになりました。統計的にも、加熱前後の減少ははっきりした差として示されています。ただし2店では、加熱後の肉にも1グラムあたり10程度のわずかな細菌が残っていました。

特に注目されたのはO157:H7です。毒素をつくるO157:H7が5店すべての生肉から見つかり、さらに3店のグリル調理した鶏肉では加熱後も検出されました。一方、スープで煮た鶏肉からは検出されませんでした。著者らは、グリルでは肉の内部が十分な温度に達していない可能性や、調理後に生肉と接触して再び汚染された可能性を指摘しています。黄色ブドウ球菌は5店中4店の生肉から見つかりましたが、加熱後は検出されませんでした。サルモネラ属菌はどの試料からも見つかりませんでした。

衛生評価では、すべての店が65%未満にとどまり、論文が基準として挙げる70%に達した店はありませんでした。最も高い店でも60%で、多くの店でマスクや手袋が着用されていませんでした。流通の点検では、鶏肉を運ぶ車両が4℃以下という冷蔵の目安を守れておらず、配達時の温度は12〜18℃でした。また3店で、生肉と調理済みの肉が直接触れ合う様子が観察されています。

利用客へのアンケートでは、177人のうち53%が外食後に食中毒のような症状を経験したと答えました。ただし、これは本人の記憶にもとづく回答であり、著者自身も、実際の発生率や特定の店との結びつきは回答と異なる可能性があると述べています。

この研究が示すこと

この研究は、少数の試料ながら、バニワリードの飲食店で扱われる鶏肉が調理前の段階で広く汚染されており、加熱しても調理法や取り扱いによっては危険な菌が残りうることを示しました。とくに、グリル調理した肉にだけO157:H7が残っていた点は、加熱の仕方と調理後の扱いの両方が安全を左右することを示しています。

著者は、加熱だけに頼るのではなく、輸送時の温度管理から店での衛生的な取り扱いまで、流通全体で安全を守る必要があると結論づけています。そのうえで、HACCPと呼ばれる工程ごとの衛生管理の導入、従業員への衛生教育、行政による立ち入り検査の強化を提言しています。これまでデータのなかった地域で、食の安全上の課題を具体的な数字で示した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:S.A. Almaghribi(Department of Food Science, Faculty of Agriculture, Bani Waleed University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):S.A. Almaghribi. Poultry meat safety and supply chain quality in Bani-Waleed restaurants. Theory and practice of meat processing 2026-10-11. DOI: 10.21323/2414-438x-2026-11-3-298-306. 原著ライセンス:CC BY.