著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Advanced science (Weinheim, Baden-Wurttemberg, Germany)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の背景と目的

モウソウチクのタケノコは、中国や東アジアで広く食べられ、世界でも流通が広がっている食材です。食物繊維、たんぱく質、アミノ酸、ミネラルなどを含み、やわらかさや甘み、苦みといった食味が商品価値を大きく左右します。こうした品質は、タケノコが育つにつれて糖やアミノ酸、フェノール類、細胞壁の成分が変わることで移り変わっていきます。

一方、タケノコの生産は土の温度や水分などに左右され、とくに低温は成長を抑えることが知られています。そこで冬の竹林の地面を有機物で覆う「マルチング(被覆)」が行われてきました。著者らによると、1年だけのマルチングはタケノコの数や食味・栄養成分を高めうる一方、毎年夏に資材を取り除いて冬に敷き直す必要があるため手間と費用がかかり、長年続けると効果が下がる可能性も指摘されています。

研究チームは、マルチングがタケノコの品質をどのような分子の仕組みを通じて形づくるのかを理解すれば、より持続的で費用のかからない生産方法の検討に役立つと考えました。本研究では、マルチングしたタケノコの成長段階ごとに、品質に関わる成分と遺伝子の働きがどう変わるのかを調べています。

何を調べたか

実験は中国浙江省湖州市にある3か所のモウソウチク林で、2019年11月〜2020年3月と2020年11月〜2021年3月の2シーズンにわたって行われました。各地点に10メートル四方の区画を設け、マルチングをする区画では、11月の最終週に有機肥料を約3センチ敷いて十分に水をまき、その上に稲わらを5〜10センチ重ねて、下層の発酵と発熱を促しました。

研究チームはまず、被覆したタケノコと、論文中でWS、SSと略される2種類の比較対象のタケノコについて、太さや収量、市場価格、糖・たんぱく質・食物繊維・フェノール類・タンニン・アミノ酸・セルロースなどの成分を比べました。さらに、被覆したタケノコを4つの成長段階に分け、SSと比べながら、細胞内の多数の代謝物をまとめて測る「メタボローム解析」と、どの遺伝子がどれだけ働いているかを網羅的に調べる「トランスクリプトーム解析」を組み合わせました。

両方のデータを統計的に統合し、遺伝子の働きと代謝物の変化が連動している部分や、互いに似た動きをする遺伝子のまとまりを探して、品質の形成に関わりそうな候補遺伝子を絞り込みました。一部の候補については、別の測定法(定量PCR)で遺伝子の働きのパターンを確認しています。

主な結果

論文によると、マルチングはタケノコの発生を早め、収量を高めました。被覆したタケノコは3地点すべてでWSやSSより太く、被覆中の温度が19〜24℃のときに太さが最も増し、約27℃と高くなると逆に細くなる傾向も報告されています。成分面では、被覆したタケノコはWSやSSより総糖、たんぱく質、可溶性固形分が多い結果でした。

経済面では、被覆したタケノコの地元市場価格は1キロあたり約9〜10元で、比較対象の一つであるSSの約1〜2元を上回りました。もう一方のWSは時に1キロあたり11〜17元と被覆したタケノコより高値になることもありましたが、著者らは、被覆したタケノコは収穫時期がそろい栄養面の品質も一定であるため、価格がより安定していたと説明しています。SSと比べた純利益は全地点で増え、最も大きかった地点では1ヘクタールあたり約2万9130元から約22万3493元に増えたと報告されています。

成長段階ごとの分析からは、品質の形成が段階的に進む様子が示されました。著者らは、成長の初期には糖やアミノ酸などの基本的な代謝が中心となり、中間の段階ではフェニルプロパノイドやフラボノイドなど二次代謝物の生成が目立ち、後期には細胞壁の合成や組み替えによる組織の成熟へ移っていくとまとめています。遺伝子の働きと代謝物の変化は強く連動しており、統合モデルは遺伝子の働きの変動の83%、代謝物の変動の92%を説明しました。

こうした解析を重ね合わせた結果、研究チームはSPL18、NID1、PIF3L6、ATH1L、TOM6という5つの遺伝子を、品質形成に関わる候補として挙げました。定量PCRでもこれらは成長段階によって働き方が変わり、ATH1L、NID1、SPL18、TOM6は初期段階で最も強く働いて、その後しだいに弱まるパターンを示しました。ただし著者らは、これらの遺伝子が実際にどんな役割を果たすかはまだ確かめられておらず、今後の実験による検証が必要だとしています。

研究が示すこと

この研究は、冬のマルチングがタケノコの収量や品質に関わる成分、市場での価値を高めうることを現地の竹林で示すとともに、その背後で成長段階ごとに遺伝子の働きと代謝が連動して切り替わっている様子を描き出しました。

著者らが挙げた遺伝子はあくまで品質形成と関連する「候補」であり、働きそのものは未検証です。モウソウチクには安定した遺伝子組換えの手法がないことも、研究上の制約として述べられています。それでも、手間のかかる被覆栽培がなぜ品質を高めるのかを分子のレベルから理解するための足がかりを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Wang B(Zhejiang Academy of Forestry, Hangzhou, Zhejiang, China.; Northwest Zhejiang Bamboo Forest Ecosystem Positioning Observation and Research Station, National Forestry and Grassland Administration, Hangzhou, Zhejiang, China.)、Wang Y(Zhejiang Academy of Forestry, Hangzhou, Zhejiang, China.)、Wang C(State Key Laboratory of Tree Genetics and Breeding, Co-Innovation Center for Sustainable Forestry in Southern China, Bamboo Research Institute, School of Life Sciences, Nanjing Forestry University, Nanjing, Jiangsu, China.)、Ahmad Z(State Key Laboratory of Tree Genetics and Breeding, Co-Innovation Center for Sustainable Forestry in Southern China, Bamboo Research Institute, School of Life Sciences, Nanjing Forestry University, Nanjing, Jiangsu, China.)、Teng P(State Key Laboratory of Tree Genetics and Breeding, Co-Innovation Center for Sustainable Forestry in Southern China, Bamboo Research Institute, School of Life Sciences, Nanjing Forestry University, Nanjing, Jiangsu, China.)、Ni H(Zhejiang Academy of Forestry, Hangzhou, Zhejiang, China.; Northwest Zhejiang Bamboo Forest Ecosystem Positioning Observation and Research Station, National Forestry and Grassland Administration, Hangzhou, Zhejiang, China.)、Wei Q(State Key Laboratory of Tree Genetics and Breeding, Co-Innovation Center for Sustainable Forestry in Southern China, Bamboo Research Institute, School of Life Sciences, Nanjing Forestry University, Nanjing, Jiangsu, China.)、Ramakrishnan M(State Key Laboratory of Tree Genetics and Breeding, Co-Innovation Center for Sustainable Forestry in Southern China, Bamboo Research Institute, School of Life Sciences, Nanjing Forestry University, Nanjing, Jiangsu, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Wang B, Wang Y, Wang C, et al. Multi-Omics Analyses Identify Candidate Genes Associated With Stage-Specific Quality Formation in Mulching-Treated Moso Bamboo Shoots. Advanced science (Weinheim, Baden-Wurttemberg, Germany) 2026-10-30. DOI: 10.1002/advs.78312. 原著ライセンス:CC BY.