著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。

掲載誌:World Journal of Microbiology and Biotechnology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:菜種の病気を抑える酵母の仕組みを探る

メチニコウィア・プルケリマ(Metschnikowia pulcherrima)は、花や果実の表面などから広く見つかる酵母です。この酵母はパルケリミン酸という物質を細胞の外へ出します。パルケリミン酸は周囲の鉄と結びつき、パルケリミンという赤い色素になります。この色素づくりが、ほかのカビなどの増殖を妨げる主な仕組みだと広く考えられています。そのため、この酵母は病原菌を生物の力で抑える「生物防除」の候補として研究されてきました。

一方、レプトスファエリア・マクランス(Leptosphaeria maculans)は、菜種(セイヨウアブラナ)などアブラナ科作物に「黒脚病(茎腐れ型の病気)」を起こすカビで、世界的に重要な病原菌とされています。研究チームの所属機関で行った予備的な選抜でも、パルケリミンをつくる酵母がこのカビの生育を強く抑えることが分かっていました。

これまでの研究は、収穫後の貯蔵施設のような閉じた環境での利用が中心でした。著者らは、畑での利用を考えるうえでも、酵母が病原菌に対抗する反応がどう調節されているかを知ることが重要だと述べています。そこで本研究では、選んだ酵母株がこのカビをどの程度抑えるかを実験室で評価しました。あわせて、カビと一緒に培養したときに、パルケリミン酸をつくる・運ぶ遺伝子群(PUL遺伝子群)の働き方がどう変わるかを調べました。

何を調べたか:酵母の選抜とさまざまな培養試験

研究チームは、化学農薬を使っていない家庭の果樹園で、収穫時に試料を集めました。そこから酵母を分離し、鉄を加えた培地で赤い色素をつくる株を候補として選びました。質量分析による簡易同定では、種の判定は確度が低いか、判定できないものが多くありました。著者らは、この酵母の株ごとの多様性を反映した結果と考えています。カビへの抑制効果を比べた結果、リンゴの果実から得た株「2.2」が最も有望とされました。遺伝子配列の解析により、この株はメチニコウィア・プルケリマと同定されました。

次に、この株を使って複数の方法で抑制効果を確かめました。カビの近くで酵母を育てる試験、酵母を混ぜた培地の上でカビを育てる直接接触の試験、2枚の培養皿を向かい合わせて空気だけを共有させる試験、液体培地の中で両者を一緒に育てる試験です。最後の試験では、カビとの共培養と酵母だけの培養とで、PUL遺伝子群の働き(遺伝子の情報がどれだけ読み出されているか)を24時間、48時間、72時間の各時点で比べました。

主な結果:鉄で効果が弱まり、遺伝子は時期ごとに切り替わる

培地に鉄を加えると、カビの生育を抑える効果は有意に弱まりました。パルケリミン酸が周囲の鉄を取り込むことが抑制に関わる、という見方と合う結果です。酵母を培地に混ぜて直接接触させた試験では、調べたすべての酵母濃度でカビの生育が完全に抑えられました。液体培地での共培養でも、カビの生育はまったく見られませんでした。

空気だけを共有させる試験でもカビの生育は抑えられ、酵母が出す揮発性物質が関わる可能性が示されました。ただし、この方法では空気の出入りが制限されるため、酵母とカビの間で酸素の奪い合いが起きた可能性もあります。そのため著者らは、この抑制が揮発性物質だけによるものとは断定できないとしています。また液体培地では、カビがいるときのほうが、酵母だけのときよりも酵母がよく増えていました。

遺伝子の働きは時間とともに変化しました。共培養24時間では、PUL2の働きが約5.2倍、運搬役とされるPUL3の働きが約29.7倍に、それぞれ有意に高まりました。PUL1も約14.9倍に増えましたが、統計的な有意水準にはわずかに届きませんでした。48時間ではPUL3の高い働きが続き(約16.9倍)、ほかの遺伝子の調節役とされるPUL4の働きは大きく下がりました。72時間になると、逆にPUL4だけが有意に高まり(約11倍)、ほかの遺伝子は低下傾向(有意差なし)を示しました。一方、パルケリミン酸の合成に関わるとされる別の遺伝子SNF2には、大きな変化は見られませんでした。なお、繰り返し実験の間のばらつきが大きく、有意差が出なかった項目もあったと報告されています。

研究が示す意味

著者らは、これらの結果から、パルケリミン酸の合成経路がこのカビを抑えるうえで重要な役割を担うと結論づけています。さらに、PUL遺伝子群の働きには明確な時間的な流れがあると解釈しています。まず競争相手の存在を受けて合成と運搬の遺伝子が働き始め、続いて運搬の遺伝子の働きが続き、最後にPUL4がブレーキ役となって経路を止める、という流れです。PUL4がブレーキ役になるという点は、細菌の似た仕組みとの比較などに基づく推定として示されています。

この研究はすべて実験室内の培養試験ですが、酵母がカビに対抗する反応は、相手がいるときに引き出され、時期に応じて切り替わることを示しています。また、酵母が優勢になる液体での共培養は、こうした対抗反応の分子的な仕組みを調べるための有用な実験系になると著者らは述べています。

原著論文の著者・所属:Monika Borkowska(Department of Biotechnology and Food Microbiology, Poznan University of Life Sciences, Wojska Polskiego 48, Poznan, 60-637, Poland. [email protected])、Agnieszka Wita(Department of Biotechnology and Food Microbiology, Poznan University of Life Sciences, Wojska Polskiego 48, Poznan, 60-637, Poland)、Kamila Myszka(Department of Biotechnology and Food Microbiology, Poznan University of Life Sciences, Wojska Polskiego 48, Poznan, 60-637, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Monika Borkowska, Agnieszka Wita, Kamila Myszka. Antagonism-driven upregulation of the pulcherriminic acid biosynthetic pathway in Metschnikowia pulcherrima and Leptosphaeria maculans interaction. World Journal of Microbiology and Biotechnology 2026-08-04. DOI: 10.1007/s11274-026-05168-6. 原著ライセンス:CC BY.