カンピロバクターは、鶏肉などの食品を介して人に下痢や腸炎を引き起こす代表的な細菌の一つです。世界的に抗菌薬が効きにくい耐性菌の広がりが問題視されており、なかでもフルオロキノロン系抗菌薬に耐性を持つカンピロバクターは、優先的に監視すべき薬剤耐性菌として位置づけられています。今回、広島大学大学院統合生命科学研究科、神戸市健康科学研究所、町田衛生研究所の研究グループが、食品を取り扱う健康な人から分離されたカンピロバクターの薬剤耐性の状況と遺伝的な特徴を調べた研究を報告しました。

何を、どのように調べたのか

研究チームは、2008年から2023年にかけて日本国内の食品取扱者から採取された106株のカンピロバクター分離株を対象に調査を行いました。まず16S rRNA遺伝子の配列解析により菌種を同定し、あわせて薬剤感受性試験を実施しています。さらに一部の分離株については全ゲノム配列を解析し、遺伝子レベルの特徴を詳しく調べたうえで、薬剤耐性のパターンや菌株間の系統関係(フィロジェニー)を比較しました。菌株の型別には多座位配列タイピング(MLST)という手法が使われ、菌が持つ複数の遺伝子領域の配列パターンから、どの系統に属するかを分類しています。

研究でわかったこと

MLSTによる解析の結果、106株の中から36種類の配列タイプ(ST)が見つかり、そのうち3種類はこれまで報告のない新規のSTでした。また、近縁のSTをまとめたクローン複合体(CC)は10種類確認されています。菌種別に見ると、Campylobacter jejuniではCC21が20.6%と最も多く、次いでCC353が2.8%を占めました。一方、Campylobacter coliではCC828が4.7%で最多でした。

薬剤耐性については、キノロン系抗菌薬に対する耐性が68.2%の株で認められ、その主な原因としてgyrA遺伝子のT86Iという変異(キノロン耐性決定領域の変異)が関わっていることが示されました。テトラサイクリン系抗菌薬への耐性は40.2%で、tet(O)という耐性遺伝子の獲得が関係していると報告されています。また、マクロライド系抗菌薬への耐性は2.8%と少数にとどまり、23S rRNA遺伝子のA2075G変異が確認されました。

系統の変遷という点では、ST4526という配列タイプが8.4%と最も多く検出され、これは日本国内でのみ報告されているタイプだとされています。しかし、このST4526は2021年以降は検出されておらず、研究チームは、食品取扱者由来のカンピロバクターの系統構成が近年になって多様化してきている可能性を指摘しています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、症状のある患者ではなく、食品を取り扱う健康な人から分離された非臨床由来のカンピロバクターを対象としたものであり、2008年から2023年という長期にわたるサーベイランス(継続的な監視)データに基づいています。今回の結果は、この期間・この対象集団において観察された薬剤耐性の傾向や菌株の系統変化を示すものであり、直ちに一般的な食中毒リスクの増減を意味するものではありません。一つの研究として得られた知見であり、今後のより広い範囲・期間での監視によって、傾向の裏付けや変化の確認が続けられていくべき性質のものと考えられます。

まとめ

本研究では、日本の食品取扱者から得られた106株のカンピロバクターを対象に、遺伝子タイプの多様性と薬剤耐性の実態が調べられました。キノロン系やテトラサイクリン系への耐性が一定の割合で確認された一方、日本特有とされる系統が近年検出されなくなるなど、菌の集団構成が変化してきている可能性が示唆されています。食品の取り扱いや衛生管理における薬剤耐性菌の動向を継続的に把握していくうえで、参考となる基礎データの一つといえます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:K Miyaji, Natsuki Ohata, Mamoru Noda, et al. Clonal diversity and shifting lineages of multidrug-resistant Campylobacter among healthy food handlers in Japan. ジャーナル・オブ・アプライド・マイクロバイオロジー (2026). DOI: 10.1093/jambio/lxag199.