著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Plants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
土壌呼吸とは、土壌から二酸化炭素(CO2)が大気へ放出される生物的な働きです。作物の根やその周りの微生物による「独立栄養呼吸(根の呼吸)」と、微生物が有機物を分解することで生じる「従属栄養呼吸」から成り立っています。植物の光合成と土壌中の炭素の蓄えをつなぐ過程であり、わずかな変化でも大気中のCO2濃度に大きく影響しうるとされています。
土の耕し方やわらの扱い方は、土壌の構造や微生物の活動、根の育ち方を変え、土壌呼吸に強く影響します。これまでの研究の多くは、同じ耕うん方式を長く続けた畑を対象にしてきました。しかし実際の農業では、機械の都合、費用、病害虫や雑草への対策などから、年ごとに耕し方を切り替えることが珍しくありません。たとえば、わらで地表を覆う保全的な方式から、土を細かく砕くロータリー耕へ移ることがあります。研究チームによると、こうした切り替えが土壌呼吸とその内訳にどう影響するかについての研究は、まだ限られていました。
そこで著者らは、わらを畑に戻す条件のもとで耕うん方式を年ごとに切り替えたとき、土壌呼吸と収量にどのような影響が出るかを調べました。具体的な目的は三つです。耕うん方式の切り替えによる土壌呼吸の速さと根の呼吸の割合の変化を量的に示すこと、作物の生育と収量への影響を明らかにすること、そしてトウモロコシの生育と土壌呼吸が収量にどう結びついているかを探ることです。
何を調べたか
試験は、中国東北部の吉林省白城市にある農業研究機関の試験場で行われました。この地域は半乾燥地帯で、気温が低く乾燥し、雨が特定の時期に集中します。そのため、土壌呼吸が耕うんによる攪乱の影響を受けやすいとされています。作物が育つ5月から9月の降水量は355.6ミリ、年平均気温は5.2℃で、土壌はローム(砂・シルト・粘土がほどよく混ざった土)でした。
研究チームは、耕うん方式の組み合わせが異なる複数の処理区でトウモロコシを育てました。比較には、連続したロータリー耕にわらのすき込みを組み合わせた区や、わらによる被覆からロータリー耕へ切り替えた区などが含まれます。各処理区で土壌呼吸とその内訳、温度や土壌水分との関係を測りました。あわせて、トウモロコシの乾物重(乾燥させた植物体の重さ)、草丈、茎の太さ、葉面積指数(地面の面積に対してどれだけ葉が広がっているかの指標)、光合成の特性、収量とその構成要素も調べ、これらの項目同士の相関を分析しました。
また、温度感受性(Q10)も評価しました。Q10は、温度が上がったときに土壌呼吸がどれだけ活発になるかを表す値で、気候の温暖化に対して土壌呼吸がどの程度反応するかを見積もる指標として使われます。
主な結果
トウモロコシの乾物重は生育期間を通じて増え続け、処理区間の差は生育の後半ほどはっきり現れました。相関分析では、乾物重が草丈、葉面積指数、百粒重、収量と強い正の相関を示しました。草丈と収量、百粒重と収量の間にも有意な正の相関がありました。著者らはこの結果を、植物体の形づくりと子実の充実が収量の土台になっていることを示すものと解釈しています。
温度感受性には処理区間で違いが見られました。わらによる被覆からロータリー耕へ切り替えた区では、Q10が有意に低くなりました。論文はこの理由について、わら由来の分解されやすい炭素が一度に土壌へ入り、温度よりもエサとなる炭素の量に左右される呼吸になった可能性を挙げています。反対に、土壌の攪乱が少ない処理区ではQ10が高く、土壌呼吸が温度の変化に敏感でした。土壌水分は一部の処理区でのみ土壌呼吸と有意に関係しており、それ以外の処理区では有意な関係が見られませんでした。
収量と土壌呼吸の関係では、連続したロータリー耕にわらのすき込みを組み合わせた区が注目されます。この区は土壌呼吸、とくに根の呼吸を高く保ちながら、比較的高い収量と生物量を得ました。著者らはこれを、光合成産物による炭素の投入が多く、その回転も速い「高投入・高産出」の状態と捉え、単に炭素が失われる経路ではない可能性を指摘しています。一方、全体の呼吸を高めたものの、収量の増加が伴わなかった処理区もありました。わら被覆からロータリー耕へ切り替えた区は比較的高い収量を保ちましたが、わらが多い条件で強い耕うんへ切り替えたことで、短期的に多くの炭素が失われるおそれがあると論文は述べています。
土壌呼吸と収量が結びつく仕組みについて、著者らは二つの可能性を挙げています。一つは、土壌呼吸で放出されたCO2が作物の周りの濃度を高め、光合成を促すことです。もう一つは、ロータリー耕で土がほぐれて空気や水が通りやすくなり、根がよく育つことです。ただし、これらは相関に基づく解釈として示されたものです。
研究が示すこと
この研究は、土壌からの炭素の出入りと作物の生産性を一つの枠組みで捉え、耕し方を年ごとに切り替えることが両者に異なる形で影響しうることを示しました。土壌呼吸が多いことは必ずしも炭素の損失だけを意味せず、作物の生育と結びついた活発な炭素の循環を反映している場合もある、というのが著者らの見方です。
研究チームは、比較した方式の中で、論文でCSと記された処理区と、連続したロータリー耕にわらのすき込みを組み合わせた区が、目指す耕うんの姿に近いと評価しました。どちらも同じ耕うん方式を続けた処理区です。そのうえで、耕うん方式を安定して続けることが、土壌への炭素の蓄積と農業生産を両立させるうえで重要だと述べています。同時に、単一の方式を長く続けると土の構造の劣化や締め固まりといった問題が生じうることにも触れています。
原著論文の著者・所属:Jingkun Lu(Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China)、Tianhao Luan(Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China)、Nan Wang(Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China)、Chen Xu(Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China)、Haoran Liu(Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China)、Hongjun Wang(Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China)、Baoyu Chen(Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jingkun Lu, Tianhao Luan, Nan Wang, et al. Synergistic Effects of Maize Growth and Soil Respiration on Yield Under Tillage Regime Conversion. Plants 2026-10-14. DOI: 10.3390/plants15203134. 原著ライセンス:CC BY.